ダンスの練習
6月最後の週末、ステファニーは王城でダンスの練習をしていた。
7月末に開かれる学園パーティーで、王族であるフレデリック王子はファーストダンスを踊る。相手は、もちろん婚約者であるステファニーだ。
「1、2、3。1、2、3。はい、顔を上げて。1、2、3。1、2、3。」
ダンス講師の手拍子に合わせて、ステファニーは必死にステップを踏む。
「ステファニーさま、表情が固いですよ、もっと微笑んで。はい、1、2、3。」
「キャサリンさま、その調子。はい、1、2、3。」
ステファニーはダンスがそれほど得意ではない。週末のダンスの練習を渋っていたが、兄のエドワードと親友のキャサリンも一緒に練習するという条件で、なんとか王城へ来た。
「はい、お疲れ様でした。」数曲踊り終わり、講師がみんなを見渡して言う。
「フレデリック殿下のエスコートは完璧ですね。ステファニーさまは足元を気にしすぎです。必死さが表情に表れているので、もっとにこやかに微笑んでください。」
「足元を見ていないと、フレデリックさまを踏んでしまいそうだわ。」
「足は、何度でも踏んでください。殿下は紳士ですもの、表情一つ変えずに踊れますよ。」
「何度も踏まれるのは、困るな。」講師の言葉に、フレデリック王子が苦笑した。
「キャサリンさまは、とてもお上手ですね。エドワードさまとの息もピタリと合って、いい感じです。」
「彼女とは幼い時から何度も踊っていますから、エスコートがしやすいですね。」
その後、いくつかステップの確認をして、練習は終わりになった。
4人は休憩をするため、場所をティールームに移した。
「ドレスの仮縫いが終わったと、連絡があったよ。次の週末に試着しに来てくれるかい?」
フレデリック王子がステファニーに確認した。
「はい。わかりました。」ステファニーが答える。
「ステフのドレスは、殿下からのプレゼントなんですか?」キャサリンが驚いた調子で聞く。
「ああ、ステファニーの誕生日プレゼントとして贈ったんだ。」
「フレデリックさま、なぜそこで黒い笑みなんですか?」ステファニーがフレデリック王子の顔に浮かぶ笑みにツッコミを入れる。
「どんなドレスなの?色は?デザインは?」
キャサリンの質問に、ステファニーには首を横に振った。
「わからないのよ。私には何も教えてくれないの。」
ステファニーの向かいで、フレデリック王子はニヤニヤと笑っている。
4月にフレデリックさまから「学園パーティーで着るドレスを贈りたい」と言われて、何も考えずに頷いてしまったけど、なんだか嫌な予感がしてきたわ。デザインや生地選びに、私も加わればよかった。どんなヒドイ物でも、今からお断りはできないし。。。
「私のことで悩むステファニーを見るのは、案外楽しいね。」
フレデリック王子の言葉に、ステファニーは「いい加減にして!」と叫びたい気持ちをグッと堪えた。
「殿下、あまり妹をからかわないでくださいね。ステファニーは殿下のおもちゃではありませんよ、」
2人の様子を見たエドワードはため息をついた。




