ブランドン伯爵邸 応接室
3月になると王都は一気に春めく。来週末は高等学校の卒業式が行われる。
卒業式には3年生だけが出席する。ブランドン伯爵家の長男と次男は成人しているし、三男エドワードは2年生、末っ子ステファニーは1年生なので、卒業式に直接は関係がない。しかし、2人の幼なじみと言えるアスター侯爵家のダイアナが卒業を迎えるため、侯爵夫妻とダイアナ、キャサリンを呼んで、伯爵家で食事会を開いた。
昼食後、親世代は談話室へ、子供たちは中庭に面したテラスがある応接室へと移動した。応接室には簡単なお茶の準備がしてあり、部屋の隅に従僕のティムが控えていた。
「こんにちは、ティム。随分と久しぶりな気がするわね。」ダイアナがティムに声をかけた。
するとティムの代わりにステファニーが答える。
「そりゃそうよ。キャシーはよく遊びに来てくれるけど、ダイアナは最近は全然だもの。ティムだって、お爺さんになっちゃうわよ。」
ティムは、ステファニーの抗議の声に軽く微笑んで、ダイアナを見て言った。
「皆さま4人が最後にこちらにお揃いになったのは、ちょうど1年前ですね。キャサリン様とステファニーお嬢様の入学のお祝いに、今日のように食事に来ていただいた時以来です。」
ティムの話にエドワードが目を丸くして言った。
「あれ?1年前? 学校ではよく会うし、そんな久しぶりだとは思わなかったよ。」
「本当にビックリだわ。キャシー1人で遊びに来たり、お兄さまも私も侯爵邸に行ったりは、たまにしているから気がつかなかったわ。」
ステファニーもエドワードの意見に同意する。
ティムは、キャサリンがジッと自分を見ていることに気づき、そばに寄って聞いた。
「キャサリン様、いかがなさいましたか?」
キャサリンはティムから目を逸らさずに答えた。「ティムは何歳なのかなって思ってたの。」
「21歳ですよ。お嬢様よりも5歳年上ですから。もうお爺さんですね。」
ティムが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「ちょっと、そこ!その2人! 『お爺さん』はことばのあやでしょ! 私でからかって遊ばないでちょうだい!」
ステファニーは2人の小声の会話をしっかりと聞いていたようで、怒ったような声を出す。
不意にダイアナがクスクス笑い出した。部屋にいた4人は驚いて、ダイアナに視線を向けた。
「ふふっ、、、ごめんなさいね、、、ふふっ。。。ここは子供だった時と変わらないんだなあって思ったら、なんだか可笑しくなっちゃって。。。」
言い終わっても、ダイアナはまだ笑っている。
「ダイアナの婚約が決まった頃から、2人で来てくれるのが減ったかしら? 4年前くらい?」
「そうね。私がお妃教育で王城に通い出して、遊びに出かける回数が減ったわね。あの頃は、ステファニーに連れられて、外で遊ぶのが多かったわね。」
ダイアナの言葉に、エドワードが苦笑して言う。
「今でも外へ出るのは、変わらないですよ。さすがに木登りはやめたみたいだけど。」
「私はもう登らないけど、ステフはまだ登るわよ。」
「キャシー!!それは内緒にして!」
「ええっ!まだ登っているのか? 母上に散々怒られたのに、まだ懲りてないのか?」
「木の上はいい風が吹いて、気持ちがいいのよ。。。」
そんな、子供の頃と変わらないやりとりが、応接室で続いていた。




