2人の選択
ダイアナが話し終えると、2人の間に静寂が訪れた。ダイアナはギルバート王子を見たままだが、王子は目線を自分の手に移した。
しばらくして、ギルバート王子は目線をダイアナに戻し、口を開いた。
「それは、『お願い』じゃなくて『提案』なんだね?」
「はい、『提案』です。」ダイアナは簡潔に答える。『お願い』なら殿下はきっとダイアナの意見を通そうとする。『提案』なら殿下に否定する余地が残される。だから『提案』なのだ。
「侯爵には、婚約解消について何か話をしたの?」
「婚約解消の話は父にしておりません。ですが前に、自分の心を見つめて、自分の進む道を自分で選べと言われました。」
「そう、、、ダイアナが自分の心を見つめて、出した結論が『婚約解消』なんだね。そっか。。。」
言い終わると、王子は手を額に当てて目を閉じた。
再び2人の間に静寂が訪れる。
10分近く経ったあと、やっとギルバート王子は顔を上げ、窓から空を見つめた。
「婚約解消のことを考えると、とても寂しい気持ちになる。ダイアナと過ごす時間は、案外と心地良いものだったから。もうそんな時間は過ごせなくなると思うと、本当に寂しい。」ギルバートの声には落胆の色が濃く表れている。
「でも、ダイアナの『提案』に対して、拒否しようという気持ちは浮かばない。それが、きっと答えなんだと思う。」
そこで、ギルバート王子はダイアナをしっかりと見て、力強い声で言った。
「婚約は解消しよう。」
「ありがとうございます。」ダイアナは小さな声で言った。婚約解消が受け入れられても、特に喜びも何も感じなかった。
「お礼は、いらないかな。2人共にその方がいいと思ったから、提案を受けたのだから。国王陛下には私から話すよ。2人で決めた事に反対はしないと思う。」
ギルバート王子はお茶を飲んだ。それまで目元も口元も固かったのだが、柔らかく微笑むものに変わった。
「婚約者じゃなくなったら、これからは『ダイアナ嬢』と呼ばないとダメだね。」
「いえ、今まで通り『ダイアナ』でかまいません。」ダイアナも微笑んで答える。
「では、私のことも名前呼びのままでいいよ。今後は友だちとして、付き合ってくれるかな?」
「もったいないお言葉です。殿下に『友だち』と呼んでいただけたら、きっと心強いですね。」
ダイアナとギルバート王子の目が合うと、2人ともニッコリと笑った。
ギルバート王子の微笑んだ顔が、きゅっと引き締まった。
「ダイアナが自分の進む道を選んだように、私も自分の心に向き合おうと思う。」
「それは、何かあるのですか?」ダイアナも真面目な顔をして聞く。
「うん。最近、王子として生きることをとても疑問に思うんだ。幼い頃から王家の一員としての義務は意識していたし、父上や兄上のような立派な王族を目標に過ごして来た。でも、その生き方に違和感を感じる時もある。自分とのズレ、かな。」王子はそう言うと、遠くを見るような目をした。
ダイアナはギルバート王子が何を思っているか、わかってしまった。
殿下は王家から離れて、臣下に降る道を選ぶのかもしれない。自分ではギルバートを支えられないと自覚したからこそ、王族として生きることへの疑問や限界を感じる殿下の気持ちに気がついた。
「どのような道を選ばれても、私は応援いたします。」ダイアナは微笑んだ。
次から、第二章が始まります。
明日の投稿はお休みします。
よろしくお願いします。




