さらなる噂
噂を否定するために、わざわざ殿下が私を探したの?急ぎの話ではないから手紙で十分に足りる。お相手がジェシカさんとすぐにわかるし、噂のもとになった状況も目に浮かぶ。
「殿下が私を探されたのは、そのお話のためでしょうか?」ダイアナはギルバートに確認した。
「それだけじゃないんだ。新しく別の噂も加わったのさ。私は今週は寮の当番で、マダム・ジュネに温室作業を頼まれたのだが、女子寮の当番の中にジェシカ嬢もいたんだよ。その温室の噂があって、君に伝えておいた方がいいと思って。」ギルバート王子は少しイラついているようだ。徐々に口調が荒くなる。
「何でも、放課後に温室で密会をしていた、私が愛の言葉を囁いていた、そうだよ。私がやった事といえば、男女10人ほどで温室の植え替え作業をしただけなのに。」
「もしかして最初の噂があったから、次の噂も、、、?」ダイアナは少しずつ状況が読めてきた。
植え替え作業中に2人で話をすることもあるはず。周りに他の人がいたとしても「2人で内緒話をしていた」なんて話の方が艶っぽくていい。前回の話が下地となって、さらに面白おかしく広まるのだろう。噂される本人は全く面白くないが。
「噂を一つ一つ消して回れないし、やる気もない。ただ、君に不快な思いをさせたくないと思って、実際のところを言いに来たんだ。」ギルバート王子はダイアナにそう言うと、椅子から立ち上がった。
「次の授業は準備に時間がかかるんだ。2人の邪魔をしてすまなかったね。」と言うと、特別教室棟へと去って行った。
ギルバート王子の姿が見えなくなると、ブリジットは安堵の息を一つ吐いた。
「噂を聞いて、あなたに伝えるか迷っていたの。ふぅ、、、ダイアナが傷つかずにすんで、よかったわ。それにしても、ずいぶんと殿下を信じているのね?」
「信じてる? そうかしら?」ダイアナは信じてるの意味がわからず、そのまま聞き返した。
「そうよ、信じているのでしょ? 殿下に親しい人がいると聞いても、まったく動揺しなかったじゃないの。」
帰りの馬車の中、ダイアナは、ふと、ブリジットが言った言葉が気になった。
もしも噂のようにギルバート殿下に親しい人が出来たら、自分はどう思うのだろう。「傷つく」のだろうか?
殿下が誰かと見つめ合う場面を想像したが、胸の中に嫌な気持ちは全く生まれない。それは「信じてる」からなのだろうか?
ダイアナには、よくわからなかった。




