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初恋の女の子を助けたら人生変わった! 初恋の子も幼馴染も大切にしたいけど一人で消えます   作者: 野良うさぎ(うさこ)


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箱根へ行こう!


 箱根研修が始まった。


 高校の時と違い、バスでの行動ではなく、新宿からロマンスカーで箱根へ移動しなければならない。

 学校が始まって一ヶ月半。探り探りで接していた生徒達が徐々に仲良くなり始めて、いくつかグループが出来上がっていた。


 俺はスマホをいじりながら先生の近くで玲子を見守っていた。

 ……先生の近くだと生徒達が寄ってこないからな。


 玲子は委員長と一緒に駅まで来ていた。

 最近一緒に買い物とかに行っているらしく、ダサい服を着てこなくなった。

 かと言ってお洒落さんな訳ではない。

 玲子の可愛さを隠せる程度に地味で絶妙なラインを攻めてくる。


 ――まあ何着ても可愛いけどな!




 二人の元に楓も合流した。

 楓と委員長は元々仲が良かった。今回はこの三人で箱根を回るみたいな事を言っていたな。


 ちなみに俺はどこのグループにも所属していない。

 誰とでも話す。

 だけど、誰とも深く付き合わない。


 一人で居ても、みんなそういうものだと認識してくれる。


 あとは段々おとなしくなれば、クラスの俺に対する印象は薄れていくだろう。


 生徒達も無事全員揃ったので俺たちはロマンスカーに乗り込んだ。








 俺は一人で座って、爆睡するか、読みかけの本を読もうと思っていたのに……


 ――なんでお前らが来るんだよ!?


 楓がいきなりズカズカ歩いてきて、俺の隣に座っていた気弱な田中君に言った。


「あっちでミヨちゃんが田中君と話したいってさ。ちょっと席どいて?」


「あのミヨちゃんが!? マジで!」


 有無を言わさない口調だ。

 ……恐ろしい。


 委員長は前の席の男子生徒達をどかしていた。


 男子生徒達と田中君は大喜びで女子の海の中へ飛び込んで行った。

 ちなみに男女比率がおかしい専門学校では、今までモテなかった男子が急にモテ始めておかしな行動をしてしまう時がある……怖。



 玲子はオタオタしているだけだが、強い意思を感じられる瞳で俺を見ていた。


 委員長がなれた手付きで座席を回転させる。

 四人が向かい合って座れる席が出来上がった。


「正樹、ちょっと詰めなさいよ」


 無理やり俺の隣に座ろうとする楓。

 楓のショートパンツに包まれた大きなお尻でアタックされて、俺は奥へ押しやられた……


 俺の目の前には玲子が座っていた。


 薄手のワンピースに茶色いカーディガンを羽織っている。

 麦わら帽子を膝に乗せて、水筒を肩からかけていた。

 真っ白な顔がほんのりと赤くなっている。

 あと、うっすらと充血しているな……昨日楽しみで眠れなかったかな?


 ――なんだこれは……超可愛いぞ……


 俺はなるべく玲子を見ないように努力することにした。






「やっぱ箱根は温泉だよね! 私行ったこと無いから超楽しみ! あ、玲子ちゃんこれ食べる?」


 委員長は玲子にお菓子を与えていた。

 玲子は恐る恐るお菓子を手に取る。


「あ、ありがとう、しずくちゃん」


 ……俺初めて委員長の名前知った。深く付き合う気がなかったからそんなもんか……


 脇腹に異物感を感じる。

 楓が肘で俺の脇腹をつついていた。


「ねえねえ、正樹は誰と回るの? 私達は三人で回ろうと思ってるんだ。……でもさ、男子がいないとナンパする奴が来るからさ、正樹も一緒に回らない?」


 委員長が口を挟んだ。


「そうそう。この前だって、新宿で玲子ちゃんと歩いていたらナンパされてうざかったし……なんか通りすがりのイケメンの怖い人が追い返してくれたから良かったけどね!」



 ――うん報告済みだよ。ちゃんと仕事してくれて良かった。今度、顔出してあげるか。


 委員長が強面のイケメンについて熱く語る。

 ……委員長ごめんね、そいつは男が好きだから。


 寡黙な玲子が口を開いた。


「……ねえ、あんたも一緒に来て。べ、別にあんたに来てほしいわけじゃないけど……男の人が近づいて来るのは怖いから……」


 玲子は恥ずかしかったのか、貰ったお菓子を凄い勢いでモグモグ食べ始めた。



 ――箱根では何食わぬ顔して、玲子を尾行して見守るつもりだったし……一緒にいた方が守りやすいから別にいっか?


 委員長は俺の事を恩人だと思っている反面、薄気味悪いと思ってるし、楓には順調に嫌われているし……玲子との距離感だけ気をつければ大丈夫だ。


 俺は仮面をつけ直して、元気よく返事をした。


「オッケー! それじゃ一緒に行こうぜ! ところでどこへ回るんだ?」


 よし、いい感じな軽薄さ加減が出ている。

 玲子の顔を見なければいける……


 玲子がおずおずと手を上げた。


「わ、私……ガラス細工が欲しい……組の……あ、いや、家族にお土産で贈りたいの」


「お、いいね! 俺は温泉たまごが食べたいな!」


「……正樹、それ食べすぎてお腹壊したじゃん……小学生の頃だけどさ」


 おい、昔のことを言うな。


 委員長が胸を張って俺たちに答えた。


「この私に任せろ! ガイドブックを熟読して箱根は私の庭になったも同然だ! ふふ、待ってろ……この私、鬼瓦雫おにがわらしずくが箱根を制覇してやる!」



 そんなこんなで、俺たちはトランプをしたり、お菓子の話をしたり、箱根で行きたいところを話し合った。








 箱根の駅に降りると、空気がひんやりしていた。

 山の匂いと温泉まんじゅうの匂いを感じる……


 ここから歩いて三十分のところに保養所がある。

 まずは荷物を置きに行く必要がある。


 先生を先頭にして、俺たちは保養所へと向かった。



 俺は一人で歩くつもりだった。

 自由時間だけあいつらと行動すればいいと思っていた。


 俺は歩きだそうとしたら、カバンを引っ張られてバランスを崩して転んでしまった。


 ――くそ、誰だ? こんな事は楓しか……!?


 倒れた俺の横に、ちょこんと座った玲子がいた。


 風でワンピースが揺れている。

 麦わら帽子を大事そうに片手で押さえている。

 小さな肩掛けバッグからニャンコのぬいぐるみの頭が見えていた。


 玲子はしっかりと俺を見つめて、はっきりと喋った。

 おかしい、そんな瞳で見られた事は無い……いや、あるのか……あの病室のベンチで話してた時と似ている……




「ちょっとなんで先に行くのよ! わたしは正樹君と一緒に歩きたいの! 今度はわたしのそばを離れちゃ駄目だぞ! ふふ、はぁ……緊張したわ……それじゃあね!」




 玲子が瞳を閉じた瞬間空気が変わった。

 まるで人が変わったみたいだ。


 玲子自身も動揺していた。


「……あれ? 私今何喋っていたの? なんであんたに馴れ馴れしく喋りかけていたの? ……怖いよ……自分が怖いよ……なんでかあんたの事を昔から知ってる感じがするの……」


 俺は何食わぬ顔をしていたが、心の中は衝撃から立ち直れないでいた。


 思い出さないようにしていた玲子との思い出が一気に蘇ってしまう。

 


 ――記憶が戻り始めているのか……? なんで今更? 



 玲子は更に俺に近づいて来た。

 生徒達の集団はどんどん保養所へ向かっている。


 楓はちらりとこちらを見ていたが、そのまま委員長と一緒に歩き出していた。


 玲子は恐る恐る俺の顔に手を伸ばした。

 小さな白い手が俺の頬を優しく触る。


 温かい。


 ぐちゃぐちゃになった俺の心が安らぐ。


「……触れる。男の人に触れなかったのに、あんたは大丈夫……なんで? あんたは私の事を知っているの? 昔知り合いだったの?」


 ――駄目だ。俺の限界だ。仮面をつけろ。俺の幸せを考えるな。玲子のこの先の幸せを考えろ。


 俺は立ち上がって、玲子の頭を撫でてあげて微笑んだ。


「ははっ! 玲子ちゃん何言ってるかわからないよ! ほら、みんな行っちゃったから俺たちも行こうぜ! ……せっかく友達も沢山出来たんだからさ、俺みたいなチャラ男に構わない方がいいよ?」


 俺の精一杯であった。


 玲子も立ち上がった。


「……そうよね。私も何言ってるかわからない。……行きましょ」


 玲子は俺のシャツの裾を掴んで離さない。

 歩き始めても掴んだままだ。


「あ、あの……玲子ちゃん?」


「う、うるさい。こ、これが落ち着いて考えられるのよ……いまだけ……このままでいさせて……」


 俺の心臓はバクバクしていた。

 冷静になれない俺がいた。


 このまま玲子の手を取って走り出したい。

 玲子を抱きしめたい。


 そんな気持ちが生まれてしまう。


 そしてその気持ちを鋼の自制心で殺す。


 俺が死ぬ前に心が死にそうになる。




 玲子は保養所に着くまで、ずっと俺のシャツを掴んでいた。




(――難儀なもんじゃな……よし、儂がお風呂で慰めてあげるのじゃ! あ、儂お団子が食べたいのじゃ!)



 こんなくだらない呪いの会話が、今は俺の救いとなっていた。







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