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その12

 さらに女流探偵の話は続く。


「ここに来る前にバス会社に確認したんだけど、何ちゃら岳の次に休憩するところは小矢部川サービスエリアだって」


「賤ヶしずがだけですね……そっかあ、富山の小矢部川かあ」


「あ、それそれ! で、これ見て」

 そう言いながら、木俣さんが一枚の長ったらしいものをテーブルの上に置いた。


「これね、ここに来る際にサービスエリアで手に入れたマップだけど」

 広げられたマップを食い入るように見るイケメン刑事。


「でね、なんちゃら岳にバスが到着したのが、定刻どおりの午後十時半」


「賤ヶ岳ですね」


「でね、でね、そこは北陸自動車道の起点の米原インターチェンジから、およそ二十五キロの位置なんだ」


 東本君、マップ上に目をやりながら


「確かにそうですね」


「ちなみにね、バスの次の休憩場所の小矢部川までは、米原から二百キロ」


「となると、その間は百七十五キロ……ですね」


「そう。そして何ちゃら岳サービスエリアに着いたのが、まぎれもなく午後十時半なんだよ」


「しずがだけ、ですね」


「んー、なかなか覚えられないし」


「まあ、案外難しい字ですから」


「フォロー、サンキュウ! でね、そうすると」

 女流探偵、ここで二本目のハイライトに火をつけながら


「仮にバスが八十キロの速度で移動していたとすると、小矢部川に到着するのは午前零時半以降になるよね?」


「え? そ、そうですね」


 次々と繰り出される言葉に、ついていくのがやっとの相手。それを見て木俣さん、目の前のマップを指差しながらゆっくりと説明し始めた。


「ここ見て。何ちゃら岳の方のパーキングは大型が六台に小型が百三十一台駐車できて、二十四時間営業のフードコートやらショッピングコーナーやら、おまけにガソリンステーションもあるよね?」


 それを目で追う、素直な東本君


「はい」


「じゃあ、一方の小矢部川の方は、っと」

 木俣さん、少々指を上へとずらしながら


「ここは、駐車許容台数は大型二十一に小型百四台。何ちゃら岳と、そう変わらないよね? それにこちらにも同じく、二十四時間営業のフードコート、ショッピングコーナー、ガソリンステーションもあるし、ね?」


「ええ、ありますが。しかし、それが一体……」


「つまりね、二つのサービスエリアは規模および設備に大差が見られない、ということ」


「そうですが」

 まだ首を傾げたままの相手に、さらにググッと顔を近づけた木俣さん


「ち、近すぎますって」


「いいの、いいの。でね、言いたいのは……午後十時半に何ちゃら岳で人殺しするよりも、人目も考えると午前零時半過ぎに小矢部川で済ませる方がメッチャ安全じゃないかと」


「あ、ああ、そういうことなんですか!」

 思わず手を打つ相手だったが、すぐに真面目な顔で


「シズガダケ、ですね」


「案外、しつこいんだなあ」


「え?」


「じゃあね、一旦おさらいをします。順にターゲットを絞っていくとね、まずは夜行バスを使った」


「はい」


「仙台行きだった。北陸自動車道を通った」


「そうですね」


「何ちゃら岳のサービスエリアで降車し、男を誘導しつつ、ぷらっとパーク内で殺した」

 さすがに相手は諦めたようで、訂正してこない。だが、その代わり


「その男は、やはりバスで行方不明になった坂梨ですか?」


「でしょうね。おにぎり曰く『乗車する時、彼女は貼ってある座席表を暫く見てた』。つまり、相手の男もバスに乗っているのを確認したんでしょう」


「そして実際に男も乗っていた。罠とも知らずに」


「そそ。勘がいいじゃん!」


「ども」

 軽く照れる東本君だったが、すぐに首を傾げている。


「しかし、男は変装していた。その理由がわかりませんが」


「それって、殺される側に変装の必要性がなかったって言いたいわけ?」


「そうです、そうです、逆ならわかりますが。殺す側ならば」


 だが女流探偵は、即座に


「じゃあ、そのように考えてみたら? 男も殺す側だった、あるいは襲う側だった」


「え? とすると、男は返り討ちにあった?」


「んだんだ。そうすれば説明がつくし、さ。で、どこまで絞ったっけ? あ、そうそう。女は殺した後に、ぷらっとパーク内に駐車してあった車で逃げた」


「そうですね」


「車をずっと置きっ放しにするのも不審がられるから、共犯者が間近になって用意したんじゃない?」


「ここで共犯者の影が見えてくるんだ……」

 イケメン君の独り言だったが、すぐに木俣さんに向かって


「賤ヶ岳サービスエリア内に、いや詳しく言えばぷらっとホーム内に共犯者は潜んでいたわけですね?」


「そう思うよ」


「で、乗ってきたムーブを駐車場にとめて、それを女の逃走手段にと使わせた」

 だがここで再び、いや三たび首を傾げる東本刑事


「では、犯人はどうやって逃走したんでしょう?」


「一度出ていった女がムーブを乗り捨て、別の車で再びサービスエリアに戻って共犯者を拾って帰った、かな? それよりさ、焦点から段々とずれてきてるけど」


「焦点がずれてる?」


「そそ。何故に何ちゃら岳で計画を実行する必要があったのか、だね」


「あ、そうでしたね」


「いい? ネットで検索して調べたんだけど、ぷらっとパークってさ、元々は従業員専用の出入口だったみたいだよ」


「そうなんですか」


「またもや、いい?」


「あ、はい」


「今回の事件はさ、ぷらっとパークも含めて、相当に何ちゃら岳サービスエリアに詳しい者の仕業だと思えるんだ」


「確かにそうかと。ああ、だから小矢部川ではなく、賤ヶ岳サービスエリアで事を遂行したと?」

 そう尋ねたイケメン君だったが、すぐに己で答えを出してきた。


「も、もしや、施設の従業員?」


「断定はできないけど、まずはそこからあたった方がいいかなって。ね? これこそ犯人側にとっちゃ、この上なき好都合だもんね」


「わ、わかりました! 確かに筋は通っています!」


 そう言って、すぐに立ち上がった東本刑事だったが、そこに


「今の話さ、全部自分で推理したって乙川さんに言ってよね?」


 これを聞いた相手は、頭を振って


「そんな。実際には探偵さ……いや、マキさんの推理ですから」


「いいの、いいの。上手く解決できたらさ、是非とも貴方の手柄にしてね! フッフッフ」


 これに蒼ざめるイケメン刑事。


「……い、今の笑い、相当怖いんですが」


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