その13
「それにしても遅いな、鎌さん」
「悪い物でも食って、腹でも下してるんじゃないですか?」
これに、容疑者まで加わってきた。
「あの人は、そんなヤワな人間ではないですよ」
田部君の言葉に、何度も頷く鎌井刑事
「うんうん。そりゃそうだ……」
この時、ノックの音がした。だが、それは
「警部。東本ですが、ちょっとよろしいですか?」
「あ、キミなのか? どうした? まあ、入りたまえ」
すぐに中へと入ってきたイケメン君、そのまま警部の方へと歩み寄り
「実はですね、事件に関しての考察なんですが……」
若手刑事の話に、目を大きくしたまま聞き入っている乙川警部と鎌井刑事。そこに
戻ってきた女流探偵にも気づきやしない。
そして彼女が、助手の隣に腰を下ろすや否や
「木俣さん? どうしたんですか?」
「ああ。ちょっくら便秘気味でさ」
これに、疑いの眼差しを向けるおにぎり君
「怪しいなあ。今まで、便秘だなんて聞いたこともないけど」
「そっかあ? じゃあ言葉を変えて、糞ヅマリでどうだ?」
「は、はあ? いや、そんな意味じゃなくって」
「ま、とにかく、黙って東本君の話に耳を傾けよ」
「……という推理なんですが」
ひとしきり話し終えた若手刑事。それに、すぐ警部から
「今のは、キミが立てた推論かね?」
これにアッサリと
「あ、いえ。そこにおられるマキさんの受け売りでして」
「マ、マキさん?」
乙川さん、目を丸くして対面の瓶底眼鏡に目をやっていると、すかさず
「あ、木俣さんでした」
こんな男に、鎌井刑事も
「いつのまに名前で呼ぶくらい親しくなったんだ?」
「あ、さ、さっきです」
誰かさんが、なかなか戻ってこなかった理由を悟った乙川・鎌井・田部の三人。その六つの視線が澄ましてる女流探偵に、一斉に降り注がれた。
「な、何よ、揃いも揃ってさあ。つか東本君さ、馬鹿正直にもホドがあるよね?」
これに当人が恐縮しながら
「さすがに、自分の考えだとは言い切れなくって」
「まあ、素直でいいかも」
と、まあ勝手に二人きりの会話が進む中
「コホン。では、今聞いた推論についてだが」
白々しく咳払いをした乙川警部、その目を木俣さんに向け
「なかなかどうして、鋭い考え方ですね?」
クールに、これに返す女。というか、女狐。
「なかなかどうして、素直に褒めないんですね?」
「私が? 褒めているつもりですが?」
「そうは思えんが。ま、とにかく従業員から調べなせえ。一般素人の、この私が推理したなんて他には言わないから、ご安心を」
「ご安心を?」
ここで腕を組んだ責任者。無論、警察の権威に関わる事だからである。やがて秤にかけた乙川さん、こう判断した――真犯人の取り逃がしは、さらなる警察の権威低下そのものに繋がる、と。
「鎌さん、それに東本君よ。犯行時刻に、賤ヶ岳サービスエリア内の施設にて勤務していた人間を全員、ここに至急連れてきてくれ! ガソリンスタンドの連中も、だぞ!」、




