第4話 魔法が使えない俺の戦い方
魔王を超える魔力量。
そんなことを言われたら、期待するなという方が無理だ。
翌日。
俺は朝からアウラのところへ向かった。
「アウラ!」
「朝からうるさいな。なんだ?」
「魔法教えてくれ!」
「……昨日倒れたばかりだろう」
「もう元気!」
「馬鹿は回復が早いな」
「褒めてないよな!?」
だが、アウラも俺の魔力量には興味があるらしい。
薪割りの仕事をしながら、基本的な魔法を教えてもらうことになった。
◇
「まず風だ」
アウラが手を前へ出す。
「体内の魔力を感じろ。それを魔導脈に通し、外へ放出する。そして現象へ変換する」
「なるほど」
「本当に分かっているのか?」
「雰囲気は」
「不安だな……」
昨日の一件以来、魔力そのものは感じられるようになっていた。
身体の中に、とんでもない量の力がある。
それは分かる。
問題は――。
「いくぞ」
手を前へ出す。
身体の中の魔力を動かす。
昨日のように暴走させないよう、慎重に。
そして。
「風よ!」
…………。
何も起こらない。
「……あれ?」
「もう一度だ」
「風!」
…………。
「ウインド!」
…………。
風すら吹かない。
「名前の問題ではない」
「分かってるよ!」
その後も試した。
火。
「燃えろ!」
何も起きない。
水。
「出ろ!」
何も起きない。
土。
「なんか動け!」
当然、何も起きない。
「…………」
「…………」
アウラと二人で黙り込む。
「おかしい」
先に口を開いたのはアウラだった。
「魔力は動いている」
「だよな!? 俺もそれは分かる!」
魔力を身体の中で動かすことはできる。
手のひらまで持ってくることもできる。
でも。
そこから先ができない。
魔力を風や火といった現象へ変換できないのだ。
「もう一回!」
「やめておけ」
「まだいける!」
「カナタ」
アウラがため息をつく。
「宝の持ち腐れだな」
「ひどくない!?」
「事実だ。お前に魔法は向いていないようだ」
「魔王以上の魔力あるんだろ!?」
「ああ」
「なんで薪一本切れねえんだよ!」
「私に聞くな」
理不尽だ。
聞けば、この世界ではほぼ全ての者が程度の差こそあれ魔法を使えるらしい。
魔力量が少ない者。
一つの属性しか得意でない者。
そういう人間は珍しくない。
だが――。
「魔力をこれだけ持ちながら、基本魔法すら一切使えない者など聞いたことがない」
「嬉しくない方の特別じゃん……」
俺の異世界チート生活。
一日で終了。
◇
「魔法は諦めろ。薪を割るぞ」
「現実に戻すの早くない?」
アウラが一本の斧を差し出してくる。
「ほら」
「結局物理かよ……」
俺は斧を受け取った。
少し重い。
刃の部分は黒っぽい石のような材質でできている。
「変わった斧だな」
「普通の斧とは少し違う。いいから使ってみろ」
「はいはい」
丸太の前に立つ。
魔法が使えると思ったのになぁ。
魔王以上の魔力。
そんなものがあっても使えなきゃ意味がない。
「くそっ!」
苛立ちのまま、斧を強く握る。
その瞬間だった。
「……ん?」
何かがおかしい。
身体の中の魔力が――動いた。
俺の腕を通り。
手のひらを通り。
斧へ流れ込んでいく。
「え?」
斧の刃が淡い黄色の光を放ち始めた。
「カナタ!?」
アウラの声が聞こえる。
だが。
もう振り下ろしていた。
「うおおおおっ!」
――ドンッ!!
「…………は?」
目の前の光景を見て固まった。
薪が割れた。
それだけじゃない。
薪を置いていた台まで真っ二つ。
さらに地面には――。
数メートル先まで、大きな亀裂が走っていた。
「…………」
「…………」
俺とアウラの間に沈黙が流れる。
「……やった?」
ピシッ。
嫌な音。
手元を見る。
斧に亀裂が入っている。
「あ」
ピシッ。
パキン!
「…………」
斧が粉々に砕け散った。
「…………」
俺は恐る恐るアウラを見る。
「ご、ごめん」
アウラは頭を押さえた。
「それ、村長から借りたものなんだが」
「先に言ってよ!」
「普通は壊れない!」
ですよね!
砕けた斧を見ながら、俺はあることに気づいた。
「なあ、アウラ」
「なんだ?」
「今の斧……俺の魔力を吸ったよな?」
「ああ」
「なんで?」
「魔石を加工して作られた武器だからだ」
「魔石?」
「魔力を通すことで性能を高められる。今の斧もそうだ」
俺は砕けた斧を見る。
魔力を自分で魔法に変えることはできない。
でも――。
魔石なら?
俺の魔力を受け取って、力に変えてくれる。
「……そういうことか」
「何がだ?」
思わず笑ってしまった。
「魔法が使えないなら――別のものに使わせればいい」
アウラが俺を見る。
「俺の魔力を魔石の武器に流せば、戦えるんじゃないか?」
「……なるほど」
アウラも気づいたらしい。
「可能性はある」
「だろ!?」
終わってなかった。
俺の異世界チート生活。
まだ終わってなかった!
「じゃあさ! もっと丈夫な武器ないの?」
「ない」
「早い!」
「今壊した斧は、この集落にある魔石武器の中でもかなり丈夫な方だ」
「…………」
「それを一振りで壊した」
「…………」
「お前に渡せる武器はもうない」
「詰んだ!」
希望を持たせてすぐ落とすのやめてくれ!
だが。
アウラは少し考える。
「……いや」
「ん?」
「一つ、心当たりがある」
「本当か!?」
「ああ。死遂荒野の南にドワーフたちの集落がある」
「ドワーフ!」
また異世界らしい種族が出てきた。
「奴らは武器作りに長けている。あそこなら、お前の魔力に耐えられる武器を作れる者がいるかもしれない」
「マジか……!」
ようやく見つけた。
俺がこの世界で戦う方法。
そのために必要な武器。
だったら――。
「行く」
「即答か」
「行くよ。ドワーフの村に」
俺は自分の手を見る。
魔法は使えない。
それはもう仕方ない。
だけど、この身体の中には魔王すら超えるという膨大な魔力がある。
なら。
俺は俺なりの使い方を見つければいい。
「よし」
この世界に来てから、流されてばかりだった。
でも今度は違う。
自分で決めた。
「ドワーフの村へ行こう」
――俺の最初の目的地が決まった。




