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里美八禿伝(さとみはちとくでん)  作者: レモンティー


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第十二話:里美タケルの苗字の秘密

タケル。

立ち止まって考える。

「……なんで俺だけ」

「里美タケル」

止まる。

「犬、入ってねぇじゃん」

沈黙。

「いや今さらだけど!!」

頭をかく。

「苗字に犬入ってねぇの俺だけって」

「ハブられてね?」

マワル。

「流れから外れてるな」

タケル。

「言い方ァ!!」

エコ。

「分類できない」

タケル。

「ゴミみたいに言うな!!」

ミセル。

「逆に目立つけどね」

タケル。

「フォローになってるようでなってない!!」

シン。

「……違う」

タケル。

「何がだよ」

シン。

「枠がない」

沈黙。

タケル。

「……かっこいい言い方すんな」

その時。

ブルルル……

スマホが震える。

画面。

「父」

タケル。

「……出たくねぇな」

トメル。

「出なくていい」

タケル。

「止めるな現実を!!」

鳴り続ける。

三秒。

五秒。

「……チッ」

通話ボタン。

「……何だよ」

『タケルか』

低い声。

変わっていない。

タケル。

「用件だけ言えよ」

間。

『お前』

『最近、変なことに関わってるな』

タケル。

「は?」

ミセル(小声)。

「当たりだね」

エコ。

「無駄な嗅覚だ」

タケルの父

『分かる』

『血だ』

タケル。

「気持ち悪ぃこと言うな」

『……お前』

『気づいてるか』

「何を」

間。

『名前だ』

タケル。

「は?」

『お前だけ』

『犬が入っていない』

沈黙。

タケル。

「……だから何だよ」

『それはな』

少し、声が低くなる。

『入れなかったんだ』

タケル。

「……は?」

『本当は』

『お前も“犬”だった』

空気が変わる。

タケル。

「意味分かんねぇ」

『お前の母親だ』

止まる。

タケルの呼吸。

わずかに乱れる。

「……何だよ急に」

『逃げただろう』

『あの女』

タケル。

「……逃げられたんだろう」

「……その話すんな」

『苗字』

『覚えてるか』

沈黙。

タケル。

「……知らねぇよ」

『そうか』

短く。

そして。

『犬川だ』

――止まる。

音が消える。

タケル。

「……は?」

『犬川』

『お前の母親の苗字だ』

『父さんは婿養子で籍は犬川だった』

タケル。

言葉が出ない。

『つまりお前は』

『本来なら』

『犬川タケルだった』

心臓の音。

ドクン。

ドクン。

タケル。

「……じゃあ何で」

「里美なんだよ」

間。

『あの女が』

『逃げたからだ』

『父さんの旧姓に戻したんだ』

冷たい声。

『“犬”を捨ててな』

沈黙。

タケル。

拳を握る。

「……ふざけんな」

『お前はな』

『中途半端なんだ』

『犬でもない』

『里美でもない』

『どっちにもなりきれない』

タケル。

「……黙れ」

『だから』

『選べ』

静かに言う。

『どっち側に立つか』

ブツッ。

通話が切れる。

静寂。

タケル。

スマホを見つめる。

震える手。

紙に書く。

「里美タケル」

ゆっくり。

その下に書く。

「犬川タケル」

見比べる。

長い沈黙。

「……どっちでもねぇよ」

小さく笑う。

「俺は俺だろ」

その瞬間。

ピキッ。

紙の紋が――

反応する。

光。

タケルの胸元。

今までなかった場所。

そこに――

新しい紋。

円でもない。

犬でもない。

どこにも属さない形。

タケル。

「……なんだこれ」

だが。

不思議としっくりくる。

ドクン。

脈動。

小さく笑う。

タケル。

ゆっくり立つ。

「……めんどくせぇな」

でも。

少しだけ。

笑っている。

仲間を見る。

「悪くねぇ」

マワル。

「流れはできてる」

エコ。

「無駄ではない」

ミセル。

「見栄えもいい」

シン。

「……進める」

トメル。

「……動くか」

タケル。

「お前が言うと重い!!」

里美タケル。

犬を持たぬ者。

ゆえに、どこにも縛られない者。

そして――

誰にも定義されない者。

物語は、まだ終わらない。

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