第一話:毛根、集う
それは、戦乱の世――ではない。
ただの現代、ただの地方都市。
コンビニもあるし、Wi-Fiも普通に飛んでいる。
だが、この地にはひとつの伝説があった。
**「八人の禿が揃うとき、真の“輝き”が生まれる」**
誰が言い出したのかも不明である。
そもそも“輝き”の定義が曖昧すぎる。
発光なのか、精神的なものなのか、ただの皮脂なのか。
――完全に意味不明である。
主人公・里美タケル(32)は、鏡の前で絶望していた。
「……後退、してる」
生え際が、じわじわと、だが確実に侵略されている。
まるで戦線崩壊だ。
彼は指でラインをなぞる。
昨日より、ほんの1ミリ。
だが確実に。
「まだだ……まだ中央は生きている……!」
しかし、中央も時間の問題である。
その時だった。
郵便受けよりに一通の手紙が入る。
「手紙? 誰からだ?」
差出人不明。
中には、一枚の紙。
そこにはこう書かれていた。
> 『一禿、覚醒せよ』
> 「汝、選ばれし“禿”なり。
> 八禿を集めよ。さすれば救われん」
「救われるって何からだよ!?」
思わずツッコミを入れるタケル。
「てか“一禿”って何!?一発目から数え方おかしいだろ!」
さらに目を細める。
「これ……フォント無駄にカッコよくない?」
明朝体なのに、妙な威圧感がある。腹立つ。
だが、その紙にはもう一つ、奇妙な印があった。
――輝く、円形の紋。
それはまるで、頭頂部の反射のようだった。
「円形の紋だけは無駄にカッコいいなオイ」
その時。
スマホが震えた。
見知らぬ番号。
一瞬迷う。
「いや怖い怖い怖い」
出るかどうか、3秒悩む。
「オレオレ詐欺とか変な営業とかじゃないよな?」
だが、出た。
「……もしもし」
『――目覚めたな』
低い声。
落ち着いている。
そして妙に、確信している。
「誰だ」
『説明は後だ。外に出ろ』
「は?」
『時間がない。“狩り”が始まる前に』
「狩り?」
一瞬の沈黙。
そして。
『――奴らに見つかる前に○○公園にこい。』
ブツッ。
通話終了。
「……は?」
タケルは、しばらく固まる。
「……これ、詐欺じゃないよな?」
だが。
鏡に映る自分。
ほんのわずかだが――
さっきより“ツヤ”が増している気がした。
恐怖と困惑。
そして少しの諦め。
「……行くか」
理由は一つ。
「どうせ家にいても進行するしな……」
後ろ向きな決意だった。




