二輪車同好会、ウーバーに目覚める。〜走り屋、飯を運ぶ〜
サークル棟前。朝8時。
颯馬が空を見上げながら言った。
「……なあ。バイクってさ。走ってるだけじゃ金になんねぇんだよな」
「そりゃそうだ」と健太。「ガソリン代、オイル代、タイヤ代、命の危険——全部赤字だ」
「バイク屋の修理費もシャレにならん。もう限界だよ」と小林。
駿佑が立ち上がった。
「……よし、ウーバーやるか」
「即決かよ!!!」
「考える時間あったら走ってる方がマシだろ。どうせ同じだ」
「同じじゃない!!!」
駿佑がスマホを出した。
「このアプリが"鳴る"と金が入る。走るほど稼げる。俺たちに向いてる」
「なるほど」と小林。「バイクと配達、一石二鳥じゃないか」
「待て」と颯馬。「"バッグ代"が1万5千円って何だよ。初期投資が——」
「細けぇこと言うな。走れば回収できる」
「その発想が一番危ない!!!」
でも全員、アプリをダウンロードしていた。
E塔裏。
「……なぁ」と細田。「二輪車同好会、ウーバー始めたらしいぞ」
「なんで知ってんだ」と加賀。
「チャイワットが教えてくれた。セブンの前でウーバーバッグ背負ったバイクが3台止まってたって」
「ふーん」
雅紀が腕を組んだ。
「……俺らもやるか」
「え?」
「バイクが稼げるなら四輪も稼げるだろ」
「積載量は車の方が上だし」とマイケル。
「でも駐車場が——」と準。
「細けぇこと言うな。やれば何とかなる」
「その発想が一番——」
「やるぞ」と加賀。
全員が止まった。
「……加賀が言うなら」
「加賀が言うなら」
「加賀が言うなら」
「加賀が言うナリ」
「乗り気になるの早すぎだろ!!!」と準。
呉からLINEが来た。
「ウーバーやるなら事故には気をつけろ。走り屋の配達は事故率3倍だ」
「呉さん、なんで知ってるんだ」
「チャイワットが始めて3日で接触事故起こしたから」
「先例があった!!!!」
両陣営が、同じエリアで稼働し始めた。
バイク組の強み:
「機動力。路地も入れる。
駐車場不要。
1件あたりのスピードが速い。」
四輪組の強み:
「積載量。一度に3件まとめて運べる。
雨でも濡れない。
エアコンが使える(夏日だった)。」
最初の30分——四輪組が快調だった。
「3件まとめてピックアップ!! 効率最高!!」とマイケル。
「さすが積載量だな」と加賀。
しかし。
配達先の住所が、全部「細い路地の奥」だった。
「……入れない」
「セリカが入れない!!!!」
「レガシィも!!!!!」
「RX-8が側溝に落ちそう!!!!!」
「バイクなら余裕なんだよなぁ!!!!」と颯馬(無線)。
「黙れ!!!!」
夜。
二輪組の4人が、ファミレスの駐車場に集まっていた。
「……なあ」と颯馬。「関越道を走れば、1時間で10件いけんじゃね?」
「それ高速道路じゃねぇか」と健太。
「危険物輸送だぞ」と小林。
「でも報酬は倍……!!」
沈黙。
4人が目を見合わせた。
「「「「行くか」」」」
【結果】
颯馬(CB400SF):
料金所に差し掛かったとき、ウーバーバッグがゲートに引っかかった。
「バッグ!! バッグが!!!!」
料金所のおじさんに5分間説教された。
注文主から「遅い」の評価が入った。
小林(ZZ-R400):
高速の追い越し車線を150km/hで走行中、
積んでいたハンバーガー6個のパティが全部飛んだ。
「パティが!! パティが空を飛んでる!!!」
後続車のワイパーに何かが当たった。
注文主に「パンだけ届きました」と謝った。
健太(XJR400):
エンジンがオーバーヒートした。
高速の路肩で止まった。
JAFを呼んだ。
「バイクでウーバーをやっていました」と説明した。
JAFのおじさんに「それはちょっと……」という顔をされた。
駿佑:
アカウントが停止された。
理由:「配達中の移動速度が規約を超えています」
「時速150km/hはアウトだった!!!!」
「気づけ!!!!!!!!!!」
深夜。
幹線道路の信号待ち。
加賀のセリカが止まった。
隣に、ウーバーバッグを背負った颯馬のCB400SFが並んだ。
二人が、正面を向いたまま止まっていた。
信号が赤。
エンジンが低く鳴っていた。
セリカの2ZZ-GEと、CB400SFのCB並列2気筒。
違う音が、夜の交差点で混ざっていた。
「……お前も配達か」と加賀。
「お前もか」と颯馬。
「積載量で勝負しようとしたが、路地に入れなかった」
「機動力で勝負しようとしたが、高速で詰んだ」
間があった。
「……向いてないな、俺たちには」と颯馬。
「同感だ」と加賀。
信号が青になった。
二台が同時に動き出した。
同じ速度で、同じ方向に。
5秒だけ——並んで走った。
(悪くないな。)
(この感覚だけは。)
加賀がシフトを上げた。
颯馬がアクセルを開けた。
信号の先で、二台の進路が分かれた。
翌日。呉自動車の前。
「お前ら、バイクの修理依頼が一気に増やしてどうした」と呉。
「すんません、バイト中にちょっと"峠"に出てしまって……」と颯馬。
「ウーバーに峠はねぇ!!!!」
大宮先生が出てきた。
「やれやれ——やはり文明が彼らに追いつけていない」
「逆だろ」と舞花。
そこへ。
加賀が修理に来ていた。
セリカのサイドミラーが割れていた。
「路地で擦った」
「どの路地だ」と呉。
「配達先が全部路地の奥だった」
「四輪で配達するな」
「わかった」
颯馬が加賀を見た。
「……昨夜、並んで走ったな」
「走った」
「あのとき——配達バッグ背負ってなければ、もっと速かった」
「俺も、積荷なければもっと攻められた」
間があった。
颯馬が言った。
「……今度、荷物なしで並んで走るか?」
加賀が少し間を置いた。
(また仲良くなりかけてる。)
(いや——)
「お前、この前"四輪は甘え"って言ったよな」
颯馬が止まった。
「……言ったな」
「まだそう思ってるか?」
「……思ってる」
「じゃあ並んで走る必要はない」
「なんでだよ!!」
「下に見てる相手と並んで走りたくない」
「甘えって言ったのは事実だろ!!」
「俺はお前のバイクを下に見たことはない!!」
「え?」
「バイクはバイクの走りがある。四輪は四輪の走りがある。どっちが上とか下とかじゃない」
「……じゃあなんで——」
「お前が四輪を下に見てるから、並んで走れないと言ってる」
颯馬が黙った。
5秒。
「……わかった。撤回する」
「"甘え"発言を?」
「……ああ」
「よし」
「じゃあ並んで走るか?」
「今日は無理だ。サイドミラーが割れてる」
「それが先に来るのか!!!!」
呉が溶接機を持ちながら言った。
「……お前ら、仲良いんだか仲悪いんだかわからんな」
「仲悪い」と加賀。
「仲悪い」と颯馬。
二人が同時に言って、また別の方向を向いた。
狭霧が縁石の上から見ていた。
「……嫌いな相手がいるから速くなる。どちらも、まだ走り続けるということだ」
朱音がメモ帳に書いた。
「加賀と颯馬:仲悪いと言いながら信号で並んだ。5秒だけ同じ速度で走った。これが正常」
「……で、結局ウーバー続けんの?」と朱音。
「やめた。金にならん」と駿佑。
「ガソリン代の方が高い」と颯馬。
「腰が死ぬ」と小林。
「アカウント停止された」と健太。
「……でも」
健太が言った。
「楽しかったよな」
全員がうなずいた。
「関越でパティ飛ばしたのは笑えた」と小林。
「笑えるか!!! 俺の評価が!!!」
「でも——走ったよな。ちゃんと」
間があった。
「走った」
狭霧が静かに言った。
「……走り屋とは、報酬より魂を運ぶ者なり」
「いや、ウーバーってそういう話じゃ——」と朱音。
「合ってるヨ」とマイケル。
「合ってるな」と加賀。
颯馬が空を見上げた。
「……次は、ちゃんと走りに行くか。荷物なしで」
「俺らも行く」と加賀。
「四輪で来るな」
「バイクで来るな」
「「「「「一緒に行くじゃないのか!!!!」」」」」
二人が同時に言って、また別の方向を向いた。
準が小声で言った。
「……これ、いつか並んで走るやつだな」
「そうだな」と加賀。
「でも今日じゃない」
「今日じゃない」




