男子を直せ!女子共よ!!
朝。
準が、妙に深刻な顔で部室に入ってきた。
「……おい、聞いたか」
「ん?」と加賀。
「最近、学内で**"野獣先輩"**が流行ってるらしい」
細田が顔を上げた。「は? 今令和だぞ? 平成じゃねえよ?」
「逆に令和だから蘇った説がある」と雅紀。
マイケルが首を傾げた。「ヤジュウ……センパイ? ナニソレ?」
準が首を振った。「知らない方が幸せだ、マイケル」
(※この時点で、キャンパスへの感染はすでに第三段階に達していた。)
昼休み。学食。
加賀がトレーを持って席を探していると、四方八方から聞き覚えのある、しかし聞きたくないフレーズが飛んできた。
「やりますねぇ〜!!」
「ンアッー!」
「114514!!!」
加賀が固まった。(……これは、本格的にやばい)
舞花が隣のテーブルで遠い目をしていた。「……男子全員、IQ落ちてんじゃない?」
「"知性の核ミサイル"でも落ちたのかってレベル」と朱音。
灰島凛が、学食の端でゆっくりと周囲を見渡した。
「……なんだこれ。知性が死んでる」
「"死んでる"どころか**"腐ってる"**わね」と阿部。
二人の意見が、珍しく一致した瞬間だった。
被害は講義室まで拡大した。
教授が「発表できる人」を募れば、「やりますねぇ!!」と声が上がる。大宮先生がスマホで検索し、「私の精神が壊れそうだ」と教壇で膝を突く事態にまで発展していた。
放課後。舞花が女子メンバーを緊急招集した。
「いい加減、こいつら止めないと」
「同意。廊下で"ンアッー"って聞くたびに3年分老けるわ」と阿部。
「目には目を、ネタにはネタを。"女子の文化力"で男子の脳を上書きする。名付けて――」
全員が同時に言った。
「"去勢プロジェクト"!!!」
「……物騒な名前」と凛。
翌日から、作戦が始まった。
朱音は無知な男子を知識で詰め、舞花は冷笑一発でプライドをへし折る。
「ふーん、それしか言えないの?」
舞花のその一言に、数多の男子が撃沈していった。
そして迎えた、学祭前日の「サークル紹介ステージ」。
S・H・Bの番になり、雅紀がマイクを握った。
「……やりますねぇ」
観客の男子が「いいゾ〜これ!!!」と沸き、舞花が舞台袖から絶叫しながら走ってくる。その瞬間、誰も呼んでいないのに凛がステージへ歩み出た。
凛が雅紀の手から静かにマイクを取った。観客が、シン、と静まり返る。
「……"やりますねぇ"より」
間があった。
「……"やめますねぇ"の方が、知的だと思う」
一瞬の静寂。直後、観客が爆発した。
「「「「「うまい!!!!!!!」」」」」
拍手喝采。凛は無表情のままマイクを置いた。
「……以上」
翌日。キャンパスから「やりますねぇ」が消えた。
代わりに――「やめますねぇ」が流行り始めた。
「……後継ぎが生まれてる」と朱音。
「成功したとも言える。前よりはマシなやつに進化したから」と舞花。
部室では、マイケルがまだ引きずっていた。
「ヤメマスネェ〜! ナイスガイ!!」
「お前まだ引きずってんじゃねぇか!!!」
窓の外を見ながら、凛が呟いた。「……うるさい」
でも――微かに、口元が動いた。
朱音がメモ帳に書いた。("やめますねぇ":凛発祥。本人は笑っていない。でも笑ってた気がする。要継続観察)
後日。大宮先生が講義でこう言った。
「先日の凛くんの発言は、近代文学における"アイロニー"の正しい使用例だ!!」
「……笑わせようとしてません」
「それが最高のアイロニーだ!!!」
「……うるさい」




