第14話
「お嬢様、お見合いの話が来ています」
ミン室長がそう言った時、私は思わず書類から目を上げた。
「見合い? 誰と?」
「チェ・スヒョン氏。テソングループ次期後継者です。現在アメリカの大学院に在籍中で、帰国に合わせてご挨拶をとのことです」
私は心の奥がざわつくのを感じた。
“スヒョン”――この名前には、聞き覚えがある。
2025年の世界では、そんな人物は記憶になかったはず。
“私がユナとして生まれたからこそ、現れた未来”なのか?
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数日後、彼は現れた。
大手財閥の御曹司らしく、整ったスーツと洗練された物腰――
けれど、どこか冷たい目をしていた。
「はじめまして、ユナさん。想像より、ずっと……面白そうな方だ」
「スヒョンさんも、“品のいい野心家”って感じですね」
互いに笑いながら、静かに探り合うような会話が続く。
「聞きましたよ。あなたが手掛けてる“SOLARE”。芸能業界にしては、ずいぶん戦略的だ」
「ええ。私は音楽が好きですから」
「……それだけじゃないでしょう。誰か、特別な人のために?」
私は笑ってごまかしたが、スヒョンの視線は鋭かった。
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「君には興味がある。婚約という形式だけに留まらない関係を築けるかもしれない」
その言葉に、私は眉をひそめた。
「それは、私に“選択肢がない”と思っている発言ですか?」
「いいや。君にはある。僕にもある。だからこそ、このゲームは面白い」
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後日、ソルにその話をすると、彼は複雑な顔で笑った。
「……ユナがどんな人と付き合おうと、俺には関係ない。でも」
「でも?」
「ちょっとだけ悔しいって思うのは、間違ってる?」
私は黙って、彼の横に立った。
「大丈夫。私は、あなたを選ぶ」
その一言が、彼の心に届いていると信じた。