第12話
「えっ、検査?」
ソルは驚いたように眉をひそめた。
「突然、どうして?」
「最近、調子が悪いって言ってたでしょ? 目眩とか動悸とか。念のため、ね」
私はできるだけ自然に言った。
“未来を知ってる”なんて理由はもちろん言えない。
「俺、病院とか苦手で……」
「私が一緒に行くから」
その一言で、彼は観念したように笑った。
⸻
財閥の娘としての特権を使い、大学病院の有名な循環器科に予約を入れた。
検査は一通り受けさせ、遺伝的なリスクの可能性も伝える。
「こんな徹底的にやるもんなの?」
「うん、徹底的にやるの。あなたには、将来があるんだから」
その言葉に、ソルは一瞬きょとんとして、それから優しく笑った。
⸻
数日後――検査結果が出た。
診察室で、医師が資料を見ながら言った。
「ごく初期ですが、不整脈の兆候があります。遺伝性の可能性も否定できません」
私は全身が震えるのを感じた。
やっぱり――このままじゃ、未来と同じことが起きる。
「どうしたらいいんですか」
「定期的な検査と、適切な休養が重要です。状況によっては投薬や手術も考えられますが、今はまだ様子を見る段階です」
⸻
病院のロビーで、ソルは窓の外をぼんやりと眺めていた。
「……本当に、俺って壊れやすいんだな」
「壊れそうだったら、守るよ」
私は強く言った。
今までは、ソルがステージの上から私を救ってくれていた。
今度は、私が“現実の世界”で彼を救う番。
⸻
「ありがとう、ユナ」
彼が静かに言った。
その声は震えていたけど――少しだけ、安心したような響きもあった。
⸻
この病が命を奪う未来を、私はもう二度と許さない。
彼を“未来”まで連れて行く。何があっても。