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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
止雨
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拾四 牛頭の怒り

やいのやいのとやかましいが、あれでなかなか優秀な近習(きんじゅう)二人。


多幸丸(たこうまる)は安心して馬頭(めず)を二人に任せ、己は牛頭(ごず)と向き合っていた。


馬頭よりは知性のある喋り方をすると思ったが、その本性は残忍にして邪悪なようだ。

「憎らしや、憎らしや。人間は皆意地汚(いじきたな)く、自分勝手で醜悪だ…。なますに切り刻んで殺してやる」


そう言いながら、馬頭と同じように口から(よだれ)をだらだら流し、獲物を見るような目つきで多幸丸をぬめつけた。その瞳には相変わらず狂気が浮かんでいる。



「お前達の同胞が、人間に殺されたと言っていたな」


多幸丸が、先程からの鬼達の言っていた事を聞き返す。すると、牛頭はよほど許せぬらしく、青筋を立てて言い返した。


「忘れていることもまた許すまじ。我等の痛み、我等の悲しみ、お前達の命をもって償ってもらおう」


そう言って、その腕に握りしめた棍棒(こんぼう)で上から豪快に振り下ろした。

寸で避けた多幸丸だが、叩き込まれた地面は凹み、まるで地震のように大地が震える。


「お前達は、この地で生贄(いけにえ)にされた牛馬の成れの果てか」


多幸丸は尚も口をつぐまない。身軽に避けながら、何か糸口を見つけようと立ち回る。


「そうだ…。ここの(ほこら)が荒れ果てようと、我等の恨みは消え失せぬ」


牛頭は棍棒を横に振った。空気を切る音とともに多幸丸の側面に思い切り入るところを飛び退いたが、(かす)って大きく右に吹き飛ばされた。


「…ぐっ!」


牛頭は馬頭ほど機敏に動かないが、重たい一撃が直撃すれば身動きができないほどの痛手を負うことになりそうだ。


(なんとか逃げる手立てを見つけないとまずいな…)


多幸丸がそう思った時、雑木林の向こう側に何かが飛び跳ねるのを見た。

虫か。いや、虫にしてはでかすぎる。かと言って鳥にしてはずいぶん丸い陰影だった。そこで、己の懐を軽く触るが、そこにはふるふると震えながら隠れている二つの小さな(あやかし)がちゃんといる。ということは、である。



多幸丸は再び立ち上がって刀を構えた。


「お前達のその恨み、次期領主として出来うる限り聞き届け、然るべき処置をすると約束しよう」


その言葉を聞いて、牛頭が初めて笑い声をあげた。


「グァハハ!だからといってその命、見逃すつもりは更々ないぞ」

「であろうな。ならば…」


多幸丸は刀を構えたまま勢いよく飛び出した。


「こちらにも考えがある!!」


真っ向から牛頭に立ち向かってゆく多幸丸。だが、いくら多幸丸が素早くとも、間合いに入った者を取り逃すほど牛頭もぬるくはない。振り上げた棍棒を多幸丸の頭上目掛けて勢いよく振り下ろした。

多幸丸は受けの姿勢を取ったが、渾身の力を込めた一撃が受け止めきれるとは思わない。

牛頭の目の前にいた多幸丸は、その重たい棍棒の一撃で地面に押しつぶされる形で形を崩す。



ズシャアアア!!



その激しい地響きと衝撃音に二人の近習も振り返る。


「「若!!!!」」






だが、そこに多幸丸の姿はなかった。



理解できずに動きを止める牛頭の棍棒の下には、紙で出来た人の形代(かたしろ)、つまり人形(ひとかた)が千切れて土に埋もれている。


宗音(そうおん)!!」


不意に別の場所から多幸丸の声がしたかと思うと、気絶していた源太夫(げんだゆう)の所に向かい、肩を担いでいるところだった。そして、多幸丸に呼ばれた者は…



シャン!


と、手に持った錫杖(しゃくじょう)を鳴らして雑木林の向こうから姿を現した。


「若、皆とともに下の(やしろ)へ!」


そして、逃げ道を防ぐ形で立ち塞がっていた馬頭を破魔の錫杖を向ける。


當願衆生(とうがんしゅじょう) 十方一切(じっぽういっさい) 地獄餓鬼畜生(じごくがきちくしょう) 八難之處(はつなんししょ) 受苦衆生(じゅくしゅじょう) 聞錫(もんしゃく)杖聲(じょうしょう) 速得解脱(そくとくげだつ)


すると馬頭が短い悲鳴をあげてよろけ、宗音がすかさず錫杖をギュンギュンと振り回し、遊環(ゆかん)を鳴らしながら馬頭を突いた。


「オノレェ糞坊主ゥ!!」


その隙に多幸丸と近習二人は宗音の脇をすり抜け、道なき道から下へ下り逃げてゆく。



「「逃がすかぁああ!!!」」

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