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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
止雨
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捌 村の事情

「ここはぁ、人の世ではござらーんっ」


フタマルは無い耳をほじりながら言った。


「おそらくアノ分かれ道が入口だったのであろーて」

「ふむ。で、若は無事か?」

「ん〜、わからぁぬ。魔に誘われておったのはおそらぁく、ワカじゃ」


「ワカって、若殿様ですか…?」

話に割って入ったのは少年だ。

「そうだ。日和乞(ひよりご)いの呪具の話を聞きつけてそれを祀っているという社に向かう道中だったのだが」


不安そうな子どもたちに、宗音(そうおん)は手短に事情を話した。そして、源太夫(げんだゆう)と娘の(ひで)の話題になると、途端に二人の顔色が悪くなる。


「源おじ…」


少年が涙目になっている。その横で少女は顔を覆って泣き出した。


「お父…おねえちゃん…」


「お前達は、もしかして源太夫とお秀の血縁か何かか?」

宗音は思ったことを口に出した。特にお滋は幼いながらもお秀と顔立ちがよく似ている。すると、二人は顔をクシャクシャにして泣き出すものの、そこから何かを言い淀むようにして俯いた。


「よければ事情を話してくれないか」



ひとしきり泣くと、少年の方が赤くなった瞳を宗音に向け、何かを決心するように口を開いた。


「オレは藤吉(とうきち)と言います。こっちはお(しげ)。源太夫はオレにとって叔父です。お坊様の仰る通り、お滋はお秀姉ちゃんの妹になります…。村の大人が、さっき「源太夫らしき人影を見た」って言ってたから、オレたち家を飛び出してきたんです。源おじ、もうずっと帰ってこなくて…」


藤吉が言うには、長雨による作物の不作が事の発端だったという。


「オレたちの村は、毎年近隣の村より収穫が少ないんです。立地が悪いせいで作物の出来が悪くて…他の村はまだそこまで収穫が落ちていないけど、うちはこのままじゃまずいと何度も村で会合が開かれていました」


「ふむ」

宗音は頷いた。

この話は、ここへ来る前に源太夫が言っていたことと繋ぎ合わせると、どういうことなのか粗方想像ができる。


藤吉たちの先祖は昔、この地に移り住んできた移住者であろう。

だが、元々この地に住んでいた者たちもいる。彼らは勿論、良い条件の場所に耕地を作り、家を構えて集落を作っているわけで、移り住んできた者たちはどうしてもそういった好条件の土地から外れた地に集落を構えるしかなかったのだ。

この時代、成熟していない土木技術や知識で耕地を整備するのは容易ではなく、水源や好立地を求めた村同士での(いさか)いは、為政者(いせいしゃ)たちの戦の影に隠れて地味に頻発している。

藤吉の村と近隣の村でそういった諍いがあったのかは分からないが、少なくとも頼り頼られるような間柄ではないのだろう。


「それで日和乞いの儀を」


宗音が問うと、藤吉は震えながら頷いた。


「…源おじは、(にえ)を、差し出せと言われていました…」

「贄だと」


また藤吉がこくん、と頷く。

「それは土馬(どば)ではないのか?」

再び宗音が問うと、藤吉は首を振る。


「昔はそんなこともやっていたと聞いたことがあります…でもある時、法師様がやってきて…」


またなんとなく話が繋がってきている。源太夫の話とはだいぶ違うが、この法師とやらが何か関わっているのだろう。


「法師はなんと言っていた?」

「法師様は」


藤吉は言い淀んだ。すると、泣いていたお滋の方が顔を上げた。


「生贄…生贄を差し出さねば雨が降り止むことはないと…」



―― 生贄。



土馬を用いたという源太夫の話とは食い違っている。宗音は寒気がした。

「源太夫は何を差し出したのだ」

すると、子どもたちはまた顔を青ざめさせて口をつぐんだ。

「馬や牛ではないのだな?」

宗音のこの問いに二人は頷く。


「つまり、人、ということか」


もう二人は頷きもしなければ首を振りもしなかった。

おそらくその儀式は既に執り行われ、生贄は差し出されていると思っていいだろう。贄は馬でも牛でもなく人。二人にとって親しい間柄の人物だろう。だから口に出して言いたくない。村人は源太夫らしき人影のことは話していたのに、隣にいるお秀のことは言及しなかった。



あのお秀は、本当にお秀なのか。



宗音はもう一度二人を見た。

これからどうなるのかと怯えている様子。だからこそ言葉を選んでかけてやらねばならない。


「これからまた何かが起こるだろう。私は若殿をお守りする役目があるから先を行く。お前達はどうする。残っても良いぞ。だがもし、源太夫とお秀を救いたいと思うなら共に行こう。救えるとは断言できんが、私もできる限りの助力をしよう」


藤吉とお滋は、その言葉にしっかりと頷いた。


「源おじとお秀姉ちゃんを助けたい」

「私もです!」



宗音は二人の瞳から決意を感じ取り、同じようにしっかりと頷いた。


「では源太夫が向かった思われる場所へ案内してくれ」

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