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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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79話 新任です

「!!!!!!」

 私は声にならない叫びを上げてベッドから飛び降りた。

 両手で体をペタペタと触り、異常がないかを確かめる。

 今のは何?

 夢だった?

 ああ、夢である。だけれどなんだろう、妙な現実感を持っていた。

 異常がないのを確認すると安堵してベッドの縁に腰かける。

 周りを見渡してもおかしなものが入り込んだ感じもしないし、確かに夢だったのだろう。

 もう朝なのだ、

 怖い夢の後の明るく輝かしい朝は、とてつもない安心感をくれる。

 寝る前に甘い物を食べたのがいけなかったのかもしれない。

 前世でも確かチーズを食べると夢見が悪いとか聞いたことがある。食べたもののせいにするのは何だけれど、奇妙な夢であり過ぎてあんな夢を見た何か理由が欲しかった。

 黄金の蜂蜜飴が入った瓶が、窓からの陽射しを受けてキラキラと美しく輝いていた。

 

 不思議な夢で寝起きは不快なものであったが、婚約者披露も終わり一旦自由の身になったと思うと解放感が湧いてくる。

 クロちゃんとのんびりと朝の時間を過ごしていると扉が叩かれた。

 入室してきたのは王宮から新たに護衛として配置された赤い髪の女騎士だ。

「ラーラ・ヴォルケンシュタインです。本日付けでシャルロッテ・エーベルハルト様の護衛官として就任いたしました!以後、お見知りおきを!」

 機敏な動きにハキハキと発言して軍人らしい振る舞いだ。

 制服に身を包んで髪はひとつにまとめたひっつめ髪、化粧もしていないが顔立ちは整って凛としたイメージである。

 女性騎士は高位の女性貴族のお付きとして需要があるので一定数存在しているのは聞いていたが、実際に見るのは初めてである。

 パーティなどではドレスを着て護衛に付くので、女性のみならず男性貴族からも侍らす意味では人気なのらしい。

 まあ誰でもゴツイ男の人より女性をそばに置きたいということか。

「これからよろしくお願いします。ラーラ様」

「敬称は不要です。家名もしくはラーラとお呼び下さい。今後王宮からのシャルロッテ様への護衛として5人一組で警備に当たらせていただきます。なるだけ目には入らぬよう勤めますが職務柄そう出来ないこともありますので、その時はご容赦ください」

 なんとも四角四面な女性だ。それだけ仕事に誇りをもっているのだろう。

「5人も大げさではないでしょうか。お手を煩わせて申し訳ありません」

「シャルロッテ様はフリードリヒ王太子殿下の婚約者という立場の上、聖女様であらせられます。これでも少ないと進言いたしたいところです。どうか我々のことは気になさらず普段通りにお過ごしを」

 まあ生まれた時から監視されてるみたいな生活なので、今更人が増えることには何もいうまい。

 目立たずにつくということは他の使用人の様な感じになるのだろう。

 普段、護衛騎士が付くのは領地と王都の往復の道中くらいなので少し新鮮だが、付き合い方がよくわからない。その辺を聞くと道の草の様な扱いでいいと言われた。

 まるで居ないかのように扱うのが一種の礼儀であるようだった。

「私の家族にはもう挨拶を済ませているのですよね?」

「ええ、侯爵夫妻と兄上には就任の挨拶を婚約披露宴にて済ませております」

「ではこちらが私の筆頭侍女のソフィア、それにクロちゃんですわ。よろしくね」

 侍女の紹介はともかく、山羊と挨拶するとは思ってもみなかったのか少々驚いた様子だ。

 紹介されたクロちゃんは、トコトコと女騎士に近寄っていく。

「これは、随分と毛並みの良い山羊ですね」

「わかりますか! 特別な子なのです」

「どれくらい肥らせてから食べるのですか? 不詳ながら私、野営の経験もありますし家畜を絞める心得も持っておりますので、お申し付け下されば何時でもご期待に添えましょう」

「クロちゃんは食べないわ!」

 思わず大声を出してしまった。


 クロちゃんが家族であることを、こんこんと説明するとやっと納得してくれた。

「はあ、では先の奇蹟の黒い仔山羊というのはクロ様のことでございましたか。いやすみません。黒い仔山羊という名の隠者様かなにかと思っておりまして、本当に山羊だとは……」

 そう言えば祭司長も最初クロちゃんを人間だと思っていたっけ。

 どうやら実際に見てない人は、山羊が奇蹟を起こしたことを信じ切れてないのだろう。

 そもそもクロちゃんを食べたらお腹を壊すのではないだろうか?元々の形状を思い出してやはり食べ物ではないと頭をふった。

「では、御用の時はなんなりと」

 そう言うと赤毛の女騎士は廊下へ出て行った。

 今後は扉前で控えてくれるらしい。

 どうやら護衛官達は交代で護衛と鍛錬を繰り返すので、5人全員が毎日私に張り付くという訳ではないとのことだった。


 午後になって王子が資料を持って貴賓室へ訪れた。

 貴賓室と私は言っているが王宮ではすっかり「聖女の間」という別の名前で呼ばれるようになり、私が領地に戻ってもこのままの状態を維持してくれるそうだ。

 これはやはり婚約者の為の部屋だったのだとひとり納得する。

「ウェルナー男爵の件なのだがね、まずはこちらに目を通してもらえるかい?」

 テーブルに並べられた資料はどれもウェルナー男爵領からの陳述書である。

 一番古いものは90年前の頃だ。そこから6年や7年、あるいは10年と間を開けながら今年まで10通ほど出されている。

「90年前というとウェルナー男爵が叙勲された頃ですか」

 初代の頃からあの土地に何かあったのだ。いわくつきの土地である為、田舎者への褒章としたのかもしれない。

 昔は今よりも身分差別が酷かったと聞くし、気の毒な話だが新参の貴族となるとそれくらいの嫌がらせをされていてもおかしくはない。

 中を見てみるとどれも死亡報告書である。

 年齢はバラバラで、陳述書の出された年に3~5人ほど、夏から冬にかけて出ている。

「これは一体……」

 死因は一様に落下死とある。


 農婦アマーリエ 38歳 農作業中行方不明に 一週間後蕎麦畑のあぜ道にて全身を強く打った状態で発見 死体の状態から落下死とされる

 配達夫エルマー 28歳 村長宅への手紙の配達後行方不明 10日後 山の麓にて死体が発見される 落下死

 農夫ウッツ 56歳 酒場での目撃を最後に行方不明 5日後 民家裏にて落下死の状態で発見


 どれも行方不明後、落下死として処理されている。

 確かにそれは異常であった。


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