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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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684話 昔話です

 二代前にこの山で鉱脈が発見された事は、一族の語り草となっていた。

 身も知らぬ山師だか猟師だかが、無断で山に分け行った先で、鉱脈を発見したと申し出たのだ。


 この土地は特に特産品もなく、山ばかり。

 多少開けた山の麓か、少ない平地に農民達がへばりつくように住み着いて作物を作ってきた。

 それ以外は猟師や木こりとなって山と共に暮らしていく。

 それでもやっていけるのは、温暖な気候のお陰でしかなかった。


 領民が干上がらない程の税を集め、国に納めると手元にそれほど残りはしない。

 領主とは名ばかりの貴族であるが、近隣の領地を見ても立地が良くなければそんなものである。

 飢えないが満ちたらない。

 そんな風な暮らしだった。


 そこに思いもかけず鉱脈が見つかったというのだから、それは神の与えたもうた恵みとしか思えなかった。


 それにしてもその山師は、目は虚ろで呂律も怪しく魔獣にでも襲われたのか泥だらけであった。

 正直、正気とは思えない様子であったが、彼の鞄にごろごろと詰められた鉱石を見れば真偽ははっきりとしていた。


 早速、使用人達で即席の捜査隊を組むと彼の案内で山の中腹の岩場へと向かう。

 道中は半信半疑であったが、そこに確かに鉱脈があったのだ。


 山の中の手付かずの鉱脈など、その気になれば個人で秘匿してこっそり売り捌いてもおかしくなかった。

 富を独り占めにしてもおかしくないというのに、よくもまあ申し出てくれたと感心したものだ。

 時の領主は褒美をとらそうと幾ばくかの金銭をかき集め用意をしたのだが、何故だか山師はそのまま姿をくらましてしまった。


 そんな事もあり鉱脈を見つけたのは、人の姿に化けた鉱山妖精であったのだろうと、まことしやかに囁かれるようになる。

 山師の様子は如何にも不審であったので、さもありなんと領主はそれを聞いて納得したものだ。


 そんな逸話もある事で、領民達は鉱山妖精への信仰を篤くして食事の一部を供える事が日常化していた。


 国に鉱脈の発見を届け出ると、専門家が送られてきて、詳しく調べる事になった。

 その結果はなんと金銀銅に始まり貴金属も採れるだろうということで、領民達はこぞって山中を開拓した。


 鉱石はすべて領主に納めることになっていたが、掘った分だけ報酬がもらえる。

 鉱脈は潤沢で、濡れ手に粟といってもよい。

 食い扶持を求めて他所からも人手が集まり、人口は増えて気付けば大きな街が出来ていた。


 皆好き好きに家を建てては山肌に穴を手掘りする。

 そうなると管理も大変だ。

 出来た街を大きくぐるりと囲むように石垣で取り囲み入口には見張りと大きな扉をつけて、掘り出した物を勝手に持ち出せないように警戒した。


 貧しい生活しか知らなかった領民達は、鉱石景気とでも言うべき豊かな生活を手に入れて俄に沸いた。

 中でも領主の浮かれ具合といったら、社交界でも噂になるほどである。


 最初こそ堅実に領地を治めていたが、採掘が軌道に乗るとタガが外れてしまった。

 今までは縁のなかったタウンハウスを購入し、夜会に顔を出し貴金属で飾り立てた姿を披露する。

 王都の貴族達は、その成金ぶりに眉をひそめたが苦言を呈して交易を絞られてはと、好きにさせていた。


 便利で煌びやかな生活にどっぷりとつかった領主は、そのまま王都に居を構え、鉱山は人任せにしてしまう。

 自分がわざわざ動かなくとも、富が湧いてくるのだから。


 子も親に習って同じ様に王都で過ごしていた。

 それは孫の代で変化をみせる。


 三代目ともなれば、さすがに成金具合も落ち着いて、そこそこの風格を持つようになった。

 そんな頃、王都の生活に飽いた彼は領地で暮らすことを検討しだしたのだ。


 その頃には鉱山のお陰で男爵位から伯爵へと陞爵していたし、ずっと領地を空けているのは外聞も悪かった。

 離れていてはどうしても統治に穴が出来る。

 不正を防ぎ監督の目を厳しくする為にも、領主館を建てて実直に暮らすべきだと考えたのだ。


 伯爵は、手始めに鉱山の街に逗留して領民と交流を持つことにした。

 鉱山で暮らしてみれば、今まで書類でしか知らなかった事が実感を持って迫ってきた。


 好景気とは裏腹に、川の水は汚れ住民はどこかしら不調をかかえているようであった。

 草木も生えない土地もあったし、それは離れた麓の街にも及んでいた。

 なけなしの農業は打撃を受け、畜産業も家畜が死に廃れていた。


 伯爵はここにきて初めて鉱山特有の「呪い」というものを目の当たりにする。


 実際には採掘におけるヒ素、水銀、硫酸等の化学物質による水質汚染であるのだが、その原因を突き止める知識も対策を講じる為の学問も未熟であり、それらは全て「呪い」という形で受け取られていた。


 それは山を荒らした罰のようなものなので、住民の鉱山妖精への信仰はますます篤くなっていく。


 王都育ちの伯爵は「呪い」の存在は知識として知っていたが、実際の鉱山の様子に随分な衝撃を受けることとなった。


 更にこの地では、住民の不調のみならず「神隠し」なるこの鉱山特有の「呪い」まで発現していたのだ。


 石垣で囲われ厳重な門に閉じられた場所で人が消えるというのは、まさに「呪い」としか言いようがなかった。





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