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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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47話 準備です

 私の提案に聖教師が、かなり前のめりになって聞いてくれている。

「疲弊した彼女の精神に必要なものは、信仰の力によって為されたと納得出来る儀式だと思われます」

 なんて言ったかしら。

 イワシの頭も信心から?

 そう、信じさえすればどんなことでも価値を持つのだ。

「さすが聖女様です。お考えが深い。祭司長には私から掛け合ってきましょう」

 至高の命でも受けたかのように聖教師は二つ返事で了承すると、すぐさまどこかへ姿を消してしまった。

 確かに上に話は通した方が早いだろうが、そのへんの小部屋を一室少しの時間だけ借りられれば良かっただけなので、思ったより大事になりそうな雰囲気を感じ取った私は言葉に詰まってしまった。

 担任に放課後勉強会をしたいから教室使っていいですか?と気軽に聞いたら校長の許可を取りに行くと言われた気分だ。


 主に聖教師は、地母神の聖なる教えを人々に布教し説く対外的な立場である。

 街の教会や諸侯の屋敷にある礼拝堂に勤める存在なので、貴族にも庶民にも身近な存在だ。

 一方、祭司はそれとは異なり聖堂や教会内で神への祭祀を担う仕事なので、式典などない限りはあまり人の目につくところには出てこないものである。

 地位的に、貴族とは関係はないが大体通常の聖教師は子爵位、祭司は伯爵位、祭司長ともなると侯爵位に例えられることが多い。

 祭司長というのは、この大聖堂の一番偉い人である。

 ちなみに地母神教の総本山があるドライヴァッハ神聖教国の教皇ともなると、どの国の王も頭を下げるほどの権威を持つらしい。

 この世界を治める黒山羊様の一番の(しもべ)であるわけなのでさもありなん。

 巡礼が多く旅行者で賑わうので、観光や宿泊所に優れているとの評判だ。

 一度は行きたい土地である。


「それで山羊というのは、儀式の生贄かなにかなのかい?」

 聖教師の背中を見送る私に、王子が興味深そうに聞いてくる。

 なに突然不穏なことを言い出すのこの人。

 思わずキッと、睨んでしまった。

「とんでもない! 山羊こそが主役、黒山羊様の御使いですわ! クロちゃんを生贄になんて、とんでもない!」

 驚きのあまり、思わず2回もとんでもないを連呼してしまった。


「クロちゃん?」

「私の家族の黒い仔山羊ですわ。とても愛らしくて賢い子なのです」

「え? 君は……。山羊を飼っているの?」

 ぶふっとまた吹き出している。

 この子とっても失礼じゃないかしら!

「黒山羊様を敬うのなら、山羊と暮らすのはなんらおかしくありませんわ。いつも私に癒しと安心をくれる、すばらしい生き物です」

 私がふん、っと鼻をならしてもっともらしく言うと、反論される。

「それは確かだけれど、普通の令嬢は犬とか猫とか小鳥を傍におくのではないのかい?」

 王子は肩を震わせている。

 クロちゃんは元々が山羊ではないからちょっと一般的ではないのは認めるけど、この世界で山羊を飼うってそんなにおかしなことかしら?

 まあ前世でも、近所に山羊飼いはいなかったけれど。

 そういえば私はかなりこの王子に不敬を働いている気がするのだけど咎められないのね。

 なんだか王子の雰囲気が、柔らかくなった気がする。

 最初会った時は気難しそうな子供だと思っていたけど、随分打ち解けたものだ。

 お互いが遠慮なく、無礼にもなったとも言えるけれど。


「私も茶会の前に高慢な種に襲われたことは王子も聞いていると思いますが、ナハディガルに伝えたことがすべてではないんです」

 王子とこうやって話が出来るようになっているのだから、クロちゃんの活躍を口に出してもいいだろう。

 ずっと自分の手柄にしておくのは落ち着かないし、クロちゃんのすばらしさを語るチャンスでもある。

 もし王宮や教会に召し上げるという話になったら王子に言って止めてもらおう。

「あの種を退治したのは私ではなくて、クロちゃんなんです。ハイデマリーから追い出した時も、私はクロちゃんの毛から作った糸を付けた地母神教のお守りの腕輪をつけていたから、きっとそれを通して力を貸してくれてたんだと思ってます」

 王子は子供の戯言だとあきれずに、私の話を聞いている。

 まあ、彼も子供なのだけど。

 いろいろ端折っている気がするけれどその辺は不問にしてくれているようだ。

「あの時クロちゃんがその場にいなかったから多分力が足りなくて、私も倒れてしまったのではないかと……」

 そういえば、最後に吹いた風があと一押しをしてくれた気がする。

 あの声は、なんだったのだろう。


「ふうん、不思議な山羊がいるのだね。私も見てみたいし、入場の許可を出そう」

「本当ですか? やったー! フリードリヒ殿下ありがとうございます!」

 クロちゃんに会える喜びで、つい王子に抱きつく。

 淑女らしからぬ言動だが、つい父や兄へ対してのスキンシップをしてしまった。

 王子は顔を真っ赤にしていた。

 何度か見たあの顔だ。

 そうそう、これがこの王子よね。

 せいぜい顔を赤くして、子供らしくしていて。

 さんざん人の事を笑ったお返しだと思って、私は悪びれずに開き直った。


 私がクロちゃんの自慢を王子にしていると、先ほどの聖教師が勇んでこちらに歩み寄ってきた。

 祭司長が、是非私と会って話をしたいということだ。

 偉い人と会うのは気が引けるけど、こちらには王子もいることだし必要ならば仕方がない。

 協力してくれるなら、どれだけでも話そうじゃないかという気持ちで了解する。

「ささ、ではこちらへ」

 なんと今からなのか。

 てっきり正式に面会の約束を交わして、後日面談かと思いきや気の早い話である。

 せっかく礼拝堂まで出てきたのに、また小さい扉をくぐって奥にある祭司長室へ向かうことになった。


 ここからは、また無言を通さなければならない。

 話の早い対応とクロちゃんの入場許可が出たことでテンションが上がって、鼻歌を歌いたい上機嫌なのだけど、さすがにそれをやっては顰蹙を買いそうなので我慢した。

 ちなみに王子も文句を言わずに、黙ってついてきてくれている。

 頼んでいないのに、付き合いのいい子である。





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