第三章 5 徒労と疑念、そして異変
昼の12時を過ぎた公園ではお昼を食べ終えた子どもたちが元気に遊びまわっている。
その平和な光景をなんとはなくに目で追いながらベンチに座った優子は博物館で買ったサンドイッチを太ももにおいて一口かじる。
コンビニ製のサンドイッチより割高な分、味は中々である。だが、今の優子にその味を楽しむ心の余裕はなかった。
「はぁ。無駄足だったなぁ」
ベンチに座っている優子は溜息とともに呟いた。
優子が今いるのは郷土博物館からほど近くにある公園である。
公園の中央にある母親らしき女性と子どもが手を繋いでいる像には見覚えがあった。遠足で来た時、像の周辺でシートを広げてお弁当を食べた記憶がある。
今も子どもたちが食べ終えたお弁当の容器を片付けてながらお母さんたちが楽しそうにおしゃべりをしている。
その光景を見て優子はもう一度ため息をついた。
博物館で堺山中学の写真を探した結果何枚かの写真を見つけることはできた。
だがそれは優子が求めているゴミ捨て場周辺のものではなく校舎や体育館を写したものばかりだった。
そして唯一、校舎裏を写した一枚にも『何も写ってはいなかった』のだ。
今、現在唯一の頼みの綱が切れてしまったことは優子にとって大きなショックだった。
(ここに来れば何か分かるかもって思ったけど、やっぱり甘かったなぁ)
結局、おかしいのは自分一人だけなのだという現実を突きつけられて優子はひどく落ち込んでいた。
その落ちこみようは明らかに自分をチラチラと見ている不審な少女に気づかないほどだった。
「な、なんかすっごい落ちこんでいるけど、何かあったの?」
「どうも目当ての物がなかったようじゃの。というか、さっさと話しかけに行かんか」
「いや、なんかそんな雰囲気じゃないような……」
「いつも無神経なくせにこういう時に尻込みしてどうする」
「な、なんかティア、酷くない?」
「当たり前じゃ。博物館内で話しかける手筈だったのに、何をのんびりレストランで飯を食っておるんじゃ。そのせいで話しかけそびれてしもうたじゃぞ」
「だって、お腹空いてたし。注文取り消すなんて出来ないよ~」
なけなしの小遣いをはたいて注文したものをキャンセルして店を飛び出すのは中学生には酷な事だとはティアーネも理解は出来る。だが……。
「ならユウコのようにサンドイッチを買えば良かろうに」
「だってスパゲッティはお持ち帰り出来ないし……」
「状況を考えよ!幸い、帰りのバスが一時間待ちだったから良かったものの、家に帰られてたら我らは何しに来たのか分からん所じゃったぞ。まぁ、お主への説教は後で、じゃ。とにかくサクッと話を聞いてくるのじゃ」
「ん、そうだね。博物館に来た目的を聞き出せばいいんだよね」
「うむ。間違っても写真の事を口にする出ないぞ。それはお主の知らないはずの事なんじゃからな」
「わ、わかってるって。じゃあ、行ってくるね」
「本当に大丈夫かのお」
妙にぎこちなく歩く茶々を心配そうに見送り、ティアーネは貯まっていた報告を調べ始めた。
内容は今朝発見され茶々も駆り出された廃棄されたターミナルに関してだ。
(残っていた生体波長から作った喰らうモノは同じグループに属していると見ていいじゃろうな。じゃが、だとするとターミナルを廃棄して行動範囲を狭めているのは何故じゃ?別の地域へ移動した、あるいは……)
考え込むティアーネの腕に付けられたデバイスが警告音を発する。
異常事態の発生に気づくのが遅れた自分の迂闊さに心の中で舌打ちしてティアーネは茶々の元へと急ぐ。
この瞬間、人々の意識からこの周辺一帯の「記憶」と「記録」が失われた。