↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第五部 サリータ篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/117

055 魔力の道

 自信に満ちたシルヴィアの顔と、苦虫を噛(か)み潰(つぶ)したような顔のクルトは対照的だ。

 正直、クルトが付与術士(アセル)に仲間意識を感じていたとは考えづらいが、当然この状況はヤツにとっては歓迎すべき状況ではない。

「そこの女――確かに力はあると思っていたが――」

 クルトからは、意外と率直な言葉が出てきている。ひょっとしたら、俺が想像しているよりも、クルトには余裕がないのかもしれない。


 俺は一瞬シルヴィアに視線を移し、笑みを浮かべて彼女の戦功を労(ねぎら)うと、改めてクルトに向かって突進していった。

 光の結界(オルター)も行動加速(ヘイスト)も、まだ少しだけ有効時間がある。


 正面に見えるクルトは、これまでにない真剣な表情をしていた。

 俺が知るクルトはいつも不敵に笑みを浮かべていたのだが、違う表情を見たことで、ここから先の闘いが重要であることを再認識する。

 そして、その実感が、俺の背中にゾクゾクと冷たいものを走らせた。


 クルトと俺の距離は急速に縮まり、クルトは俺の繰り出した支配者の魔剣(ローリンザー)を器用に報復の短剣(アヴェンジャー)で受け止めた。

 そのまま俺が剣を押し込もうと力を込めると、クルトはその力を利用するように報復の短剣(アヴェンジャー)の角度を変え、俺の攻撃を受け流してしまう。

 そのすれ違いざま、報復の短剣(アヴェンジャー)の斬撃が来て、俺は右腕に裂傷を負った。


 衝撃や痛感(つうかん)はある程度審判の法衣(ジャッジメントローブ)や苦痛耐性が受け止めてくれるはずなのだが、ヤツの攻撃で出来た傷は、何とも痛みが酷(ひど)い。

 見ると、俺のHPが断続的に減少しているのが判った。

 報復の短剣(アヴェンジャー)には特殊な能力があるのか、攻撃を受けるとそのまま継続ダメージ(ダメージオンタイム)を受けてしまうようだ。


 俺は振り向きながら、自分に再生(リジェネレーション)を掛け、継続したダメージへの対処を行う。

 その時、光の結界(オルター)の残り時間が、ごく僅(わず)かになっていることに気づいた。

 光の結界(オルター)には冷却期間(クールタイム)が存在する。連続使用は出来ない。


 俺は光の結界(オルター)が切れるタイミングを見計らって、入れ替わりに防護結界(プロテクションフィールド)を展開した。防護結界(プロテクションフィールド)は魔法が防げないが、物理攻撃を無効化できる。

 クルトとの距離は近いが、この先は接近戦は意味を成さない。


 俺は光刃(ライトエッジ)を放ちながら、後ろに下がり、距離を取り始めた。

 クルトは俺の放った光刃(ライトエッジ)を闇壁(ダークウォール)で防ぎ、相変わらずダメージがない。


 と、その時、クルトを横から襲う炎の塊(かたまり)があった。

 シルヴィアがクルトに炎弾(フレイムボール)を放ったのだ。


 タイミング良く発せられたその攻撃を、クルトは闇壁(ダークウォール)で防げなかった。

 だが、その炎はクルトの身体に届かず、ヤツの身体近くで軌道(きどう)を変えて逸(そ)れていく。

「――風の結界(ウィンドフィールド)!?」

 シルヴィアがその理由に思い当たる。


 風の結界(ウィンドフィールド)は風属性の高位魔法だ。自分の身の回りに風の防護膜(カーテン)を作り、光の結界(オルター)ほどではないが、魔法や矢の軌道(きどう)を変えて、防ぐことができる。

 シルヴィアの足が一瞬止まったのを見逃さなかったクルトは、一気に戦闘転移(バトルゲート)で転移し、シルヴィアに襲いかかった。

「ちょっ――」

 いきなり目前に現れたクルトに、シルヴィアは上手く声も上げられない。

 クルトの手に握られた報復の短剣(アヴェンジャー)は、確実にシルヴィアの急所を狙っていた。


 次の瞬間、クルトの報復の短剣(アヴェンジャー)は、防護結界(プロテクションフィールド)に阻(はば)まれ、空中で静止する。

 俺がシルヴィアとクルトの間に戦闘転移(バトルゲート)で転移し、シルヴィアを抱き込むように庇(かば)ったからだ。

 だが――クルトは、それを狙っていたのかもしれない。


 完全にクルトに背を向けて無防備になった俺に、クルトは邪悪な笑みを浮かべながら、呪弾(ガンド)を放ってきた。

 クルトと俺の距離は、殆(ほとん)どない。

 ゼロ距離に近いその攻撃は、易々(やすやす)と俺の背中に吸い込まれていった。


 直後、俺の身体全体に加重がかかり、抵抗力が低下したのが判る。

 ミノタウロス戦(いつか)と同じだ、という感覚が、俺の脳裏を駆け巡(めぐ)った。

 だとしたら、この後に起こることも予測できる。

「ケイ、避けて!!」

 シルヴィアの声も虚(むな)しく、俺はクルトの戦闘捕縛(バトルバインド)を受けて、その場で動けなくなった。


 この時、クルトは麻痺(パラライズ)でなく、戦闘捕縛(バトルバインド)を選んで使った。

 これは、麻痺(パラライズ)には回復薬を含めて比較的解除するための手段が多数あり、それをシルヴィアが持っている可能性があると考えたからだろう。

 一方の捕縛(バインド)や、狭(せま)い範囲で即時発動する戦闘捕縛(バトルバインド)は、高位回復魔法である解除(キャンセル)でないと解除できない。

 それを、シルヴィアが持っている可能性は無い。


 だが、この二つには決定的な差がある。

 麻痺(パラライズ)は口の動き――会話も含めて止められてしまうのだが、捕縛(バインド)は以前港町(アシュベル)の迷宮(ダンジョン)で喰らった時のように、口が動き、声も出せる。


 一瞬、愕然(がくぜん)とした表情のシルヴィアを視界に入れつつ、俺はずっと口に含んでいた“エゴラの種(たね)”を噛(か)み破った。

 接触魔法は魔法を掛けた時点で触れているものと、“別のもの”が触れることによって発動する魔法だ。

 種(たね)に掛けられた接触魔法は、殻(から)以外のものと接触することによって、その効果を発揮した。


「何故だ!? 何故回復できる!」

 殻(から)が破れ、中の種(たね)に掛けられた解除(キャンセル)と完全回復(フルヒール)が、俺の身体を癒(い)やしている。

 クルトは納得いかない様子で、俺たちから距離を取った。


「シルヴィア、俺から離れるな。

 防護結界(プロテクションフィールド)がある間は、チャージされる危険はない」

「わかったわ」

 俺とシルヴィアは、次々と自分が得意とする攻撃をクルトへ仕掛けていく。

 だが、クルトには風の結界(ウィンドフィールド)がある。

 シルヴィアの炎弾(フレイムボール)や岩弾(ロックボール)も、俺の魔弾(マジックボール)や光刃(ライトエッジ)も、全てが当たらず逸(そ)れていく。


 逆に、俺とシルヴィアは、飛んでくるクルトの魔法を一つ一つ魔壁(マジックウォール)や岩壁(ロックウォール)で防がなければならない。

 さほどの時間も掛からずに、俺とシルヴィアは防戦一方となっていた。


「ケイ、このままじゃ――!」

 シルヴィアが戦況の悪さに声を上げる。


 その時、俺は一向に当たる気配のない自分たちの攻撃を眺(なが)めながら、急速に思考を回転させていた。



 先ほどから俺の魔法は全く当たらず、支配者の魔剣(ローリンザー)による攻撃は、掠(かす)りもしない。


 俺は何とか攻撃を、ヤツに当てたい。

 ヤツはそれを、全て避けようとする――。


 ――その瞬間、俺の思考は反転する。


 そもそも俺は、何故ヤツを捕らえようとしているのか――?


 俺は、自分とヤツとの間に魔力を通すことができる、“道”を作りたかったのだ。

 それを作るために、俺はヤツを捕らえようとしていた。


 この勝負は、俺とクルトの間に“魔力の道”ができれば、きっと終わる。


 だが、良く考えろ。

 俺は“魔力の道”をどうやって作ろうとしていたのか?


 ――俺以外にも一人、魔力が通る“道”を作りたがっているヤツが、いるじゃないか。




「シルヴィア、よく聞け。

 ――ヤツを捕まえる方法がある。

 俺は今からそれを使ってヤツを捕まえる。


 いいか、その機会(チャンス)を逃(のが)すな。

 機会(チャンス)は一度きりだ。絶対に逃(のが)がすんじゃない」

 シルヴィアは鬼気(きき)迫(せま)る俺の表情を見て、ゴクリと唾(つば)を飲み込んだ。

 そして、真剣な表情で頷(うなず)く。


「あと五秒ほどだ。来るぞ!」

 俺がそう言った瞬間、防護結界(プロテクションフィールド)の効果時間が切れ、俺とシルヴィアは完全に無防備になった。


 直後、クルトは邪悪な笑みを浮かべ――戦闘転移(バトルゲート)で、俺の懐(ふところ)まで転移した。


 一瞬見えた報復の短剣(アヴェンジャー)の刃が、不自然に煌(きら)めいている。

 “斬れぬものはない”と豪語していた切れ味を、もっとも痛い形で味わうとは、思いもよらなかった。

「ケイ――!!」

 シルヴィアの叫び声が聞こえるが、それはどこか遠いところから発せられたように感じる。


 行動加速(ヘイスト)の効果はとっくに切れているが、周りの出来事がまるでスローモーションのように感じられた。

 見れば、鋭い報復の短剣(アヴェンジャー)の切っ先は、俺の腹に突き刺さり、背中にまで突き通っている。

 報復の短剣(アヴェンジャー)の一撃は、俺のHPを大きく削り、俺の身体に断続的な激痛を与えていた。

 そして、目前には、明らかに勝ちを確信したクルトの顔がある。


 ――だがその顔は、次の瞬間、驚愕(きょうがく)の色に染まった。


 俺は腹を突き通したクルトの腕を捕まえ、ニヤリと笑いながら言う。

「虫は――時に燃えさかる火の中に飛び込み、自らを炎に焼(く)べてしまう。

 ――覚えているか!?

 あんたと初めて会ったときに、俺に向かって言った言葉だ、クルト!!」

「なっ、何だと――」

 クルトは腕を引こうとするが、俺がガッシリ捕まえていて、動けない。

「だが、あんたはその虫を愚(おろ)かだと笑うことはできない。

 ――何故なら、あんたは俺の“とっておき”の罠(ワナ)に、自ら飛び込んで来たんだからな」


 俺はそういうと、とっておきの一撃――侵蝕(エロージョン)を発動した。

 侵蝕(エロージョン)は、俺の身体に打ち込まれた報復の短剣(アヴェンジャー)と俺の血液を魔力の通り道にして、クルトの腕から一気に全身へと流れ込んでいく。

「グ――グアアアアァァァァ!!」

 流れ込んでくる侵蝕(エロージョン)の魔力に、クルトが絶叫を上げた。

 見れば、クルトの全身の血管が、浮き出るように蠢(うごめ)いている。


 一方で、侵蝕(エロージョン)は俺の身体の中にも流れ込んで来ていた。

 無理もない、俺は腹を破られ、魔力の通る道である報復の短剣(アヴェンジャー)を突き込まれている。

 そこから魔法が逆流してしまったとしても、仕方のないことだった。


「シルヴィア、今だ!!」

 既に腹には力が入らない。

 何とか絞り出した声だった。

 俺はクルトに侵蝕(エロージョン)が入り込んだのを見届けると、腹からクルトの腕を抜き、そのまま後ろ倒しに倒れていく。


 直後、シルヴィアの封呪(アンチスペル)がクルトに入り、クルトは魔法を封じられた。

 侵蝕(エロージョン)は数値(パラメータ)やスキルを含む、全ての状態(ステータス)を落とす効果がある。

 クルトはその影響で、シルヴィアの魔法を抵抗(レジスト)できなかった。


「もう、逃がさないわ」

 シルヴィアはクルトの身体を土銃(ドレイクガン)で突き飛ばすと、岩壁(ロックウォール)で囲っていく。

「ま、待て――頼む、待ってくれ!!」

 とてもクルトが発したとは思えない台詞(セリフ)を、もはやイケメン妖精の影すら感じさせない表情を見ながら聞いたシルヴィアは、深く憐(あわ)れんだ表情をした。

「そうね、今のあんたを見ると、そうしたいところだけど――。

 生憎(あいにく)あたしと“クライブ(アイツ)”は許さないわ。

 ――アイツにあの世で詫(わ)びなさい」

 そう言って胸元の“時計”に触れたシルヴィアは、暁星の杖(スタッフオブレーシュ)へと魔力を集中していく。

 暁星の杖(スタッフオブレーシュ)の宝石の輝きが、その魔力の高まりと、クルトの生命の危機を象徴していた。

 俺の目には、クルトが星(ノヴァ)の光に照らされ、驚愕(きょうがく)を浮かべている表情が焼き付く。


 そして――。

 宿敵クルトの断末魔(だんまつま)は、“灼熱の四星(ブレイズノーヴァ)”の着弾と、それが引き起こした爆風に紛(まぎ)れてしまって――途中までしか聞こえなかった。




 俺は、薄れゆく意識の中で、自分に大回復(エルダーヒール)を使った。

 一旦HPは持ち直した後、再びそれを上回る速度で減少していく。


 侵蝕(エロージョン)に掛かった俺は、HPや抵抗力だけでなく、スキルのレベルまで落ちている。

 高位回復が使えない今は、出血と報復の短剣(アヴェンジャー)の影響を抑える術(すべ)がない。


「ケイ!!」

 慌てて駆けつけたシルヴィアが、俺の頭を抱え込んだ。

 残念ながら、柔らかい胸の感触を楽しむほどの余裕がない。


 俺はもう一度大回復(エルダーヒール)を使うが、結果は同じことだ。

「や、やだ――やめて。

 これじゃ、前と同じじゃない!

 クルトを倒したところで、あんたがいなくなったら、どうしようもないのよ!!」

 シルヴィアは悲壮感漂(ただよ)う顔になっている。

 美人が――台無しだ。

「シルヴィ――大丈夫、大丈夫だ」

 俺はそう言って、彼女の頬(ほほ)に震える手を伸ばす。

 彼女は俺の手を取って、自分の頬に擦(す)りつけた。

 ぽろぽろと目からは涙が零(こぼ)れ、頬に付いた俺の血を滲(にじ)ませている。

 俺のHPは――もう残りが少ない。

「ケイ、お願い。

 あんたがいないと――あんたがいないと、あたし――!!」


 シルヴィアがそう言った瞬間――。

 俺の腹部の傷口が、眩(まばゆ)い光に包まれていく。


 “クランシーの制約”だ――と、俺はハッキリしない意識の中で認識した。

 俺を抱きかかえたシルヴィアは、嗚咽(おえつ)を止めて、目の前で起こっている出来事を呆然(ぼうぜん)と見守っている。


 クランシーの制約は、俺の意識がある状態で、初めて発動したことになる。

 これまで“命の回復”というものに、どの程度の時間が掛かるのか判らないと思っていたが、見る見るうちに俺の傷口は塞(ふさ)がり、侵蝕(エロージョン)の効果も含めて、俺の状態を全て回復していく。

「ケ、ケイ――」

 今起きた出来事が信じられないという表情で、シルヴィアが俺に声を掛ける。

「もう――大丈夫だ。

 心配させたな」

 俺は微笑みながら自分に完全回復(フルヒール)を使うと、シルヴィアに頭を抱きかかえられたまま、左手で彼女の背中をそっと叩(たた)いた。

 すると、それを合図に、再びシルヴィアが泣き始める。

「あ、あんたねぇ――!

 あたしが、ど、どれだけ心配したか判ってるの――!?


 ――そ、それより、何なのよあの策は!

 死んじゃったらどうするとか、考えないの!?

 あんたが、死んだら、あたし――あたし――」


 シルヴィアはボロボロに泣き崩れた顔を隠しもせず、恨(うら)み言を伝えてくる。

 俺は身体を起こすと、大仰(おおぎょう)に両手を広げ、笑みを浮かべながら言った。


「でも――生きている。

 シルヴィア、良くやった。

 とうとうヤツを倒したな」


 それを見たシルヴィアは、一瞬の合間をおいて、声を上げて俺に飛びかかるように抱きついた。

 そして、倒れかかりながら、俺に唇を合わせてくる。


 ――まるで俺が生きていることを確かめるように、彼女の口吻(くちづけ)は、何度も、そしていつまでも続くのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス第①〜⑦巻発売中!】
コミックス

【小説 全①~④巻発売中!】
小説
cont_access.php?citi_cont_id=778032887&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。