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Crack!!  作者: 安西 真
3/3

{第一章・東京事変}~裕也の長い1日~

 この物語はフィクションです。

 この物語の舞台は別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても関係はありません。



『人は何故、宇宙(そら)に憧れをを持つと思う? 裕也?』


『う~~ん……飛びたいから? かな……?』


『正解は、昔は宇宙(そら)を飛んでいたからだ』


『……何それ? 答えになって無いじゃん?』

 

 少年は男と話していた。

 少年の歳は6歳位で、男の歳は声からして30前後だろうか?


『……1度経験した事が忘れられない、って意味だ……例えば、裕也が最初にポテチ食べた時、もう1度食べたいって思っただろう?』


『うん! たしかにそう思った!』


『……それと同じ事なんだよ……解った?』


『うん! わかった!』


『じゃあ、次は、神様はいると思う……?』


『ううん! いないと思う……だっていたらみんなしあわせになっているはずだもん!』


『……裕也はとっても頭の良い子だ……じゃあ、この問題も解けるかな?』


 …………あれっ?……これは何だっけ?


『たぶん大丈夫だよ! おじさん(・・・・)にいろいろなこと、おしえてもらったから』


 ……ああっそうだ……小さい時の裕也(オレ)だ……


 ……じゃあこれは『夢』?


『う~ん……俺はまだおにいさん(・・・・・)なんだけどな……でもこの問題は難しいぞ? 解けるかな?』


 …………いや、違う……これは俺の(・・)記憶……?


『……もったいぶらないで、早く言ってよ……待ちくたびれちゃうから……』


『ああっ! ゴメンゴメン……じゃあ、言うよ……』


 ……この男の人……誰だっけ?


 …………思い出せない……


『それはね……』


『……それは?』


 ……この問題って確か…………


『人が発明(・・)した物で、一番いけない物は何だと思う?』


 ……………………っ


 >>>>> 


「…………あっあれ?」

 俺は自分の部屋の天井を見ていた。

「…………夢か……でも、確かにあれは、小一の時の俺で……」

 俺は小一の時出来事を必死に思い出そうとしていた。

「…………あの時はあの人(・・・)から色々と変な知識を教えられていて、変人扱いだったからな……」

 俺は小一の時の思い出に浸り感傷的な気分になっていると、ある事に気付いた。

「…………あの人(・・・)って誰だ……?」

 その事に気付くと頭を抱えて、本物の作品にそっくりの『考える人』になった俺は、

「……ああっ~~! もう! それが解らなくて夢の中(・・・)でも悩んでたのに、それを考えなくてどうするよ! そういえばあの人(・・・)の事ずっとおじさん(・・・・)と呼んでいた気がするけど…………じゃあ、あのおじさんって誰だぁ!? 何であんなエセ哲学者の下で授業受けていたんだ!? …………ああっ! もう訳分んねえーーーー!!」

と咆哮した。

 『第3ターミナル新東京』世田谷区三軒茶屋(・・・・・・・・)付近のアパートから、深夜12時だというのに、近所迷惑を考えない男の絶叫が響いたらしい……


 >>>>>


『人は宇宙そらを目指す』……そんなあの人(・・・)の問題は本当にそうだったらしく、確かに人類は宇宙(そら)を目指した。

 計画名は『バベルプロジェクト』……名前の由来は勿論『バベルの塔』からだ。

 この計画は、元々は当時行き詰っていた国際軌道エレベーター建設計画の事だった。

 この軌道エレベーター計画は当時、第二次日中戦争が終結したばかりで国際情勢が不安定だった頃、平和のシンボルとして、更に大量の雇用と資材の流通による経済の活性化という名目で、戦後の世界情勢のの安定化という形でスタートした。

 各国からプロジェクトに参加する技術者、学者、更にスポンサー等が集まり、最初の1年間は順調に事が進んで行った。

 だが、最大の出資者だったある航空会社が戦時中に抱えた負債を抱えて倒産、資材運搬用のロケットの数が激減してしまったのだ。

 当初の計画では、地球の引力と宇宙ステーションの遠心力が吊り合うポイント、高度3万6000キロの上空から下と、重さを保つ為上に向けて建設していき、長さ5万キロにも及ぶ巨大な代物だったのだが、その運搬用のロケットが無くなってしまった以上、


 どのようにして、3万6000キロの上空に大量の資材を運ぶのか?


 どのようにして、3万6000キロの上空に大量の人材を運ぶのか?


 などといった問題が露呈し、

 

 資材を運ぶためのロケットをどの国が用意するのか? 更にその費用をどの国が負担するのか? 


 と、いった政治的な問題にも発展し、これ等の問題が解決しないまま3年が経ち、計画を凍結寸前まで追いやった。

 はっきり言って身から出た(さび)、当時の戦争による赤字の財政状況を考えないままに計画をスタートさせた、因果応報とも言える事件だった。

 

 だがある1人の技術者が、

『地面との接地面を無くし、エレベーター本体を可動する様にすれば、低い高度でも軌道を周る事が可能で、その分資材を送る高度を低く出来、打ち上げ費用も少なくできる』

と意見したのだ。

 技術者の名前は須藤眞一(すどうしんいち)、東大の航空宇宙工学専攻を卒業したばかりの新人だったが、大学当時から独自の発想力を発揮し、それを買われてメンバー入りした人物だった。

 彼の計画ではまず、高度300キロの低軌道にステーションを作り、そこから上下に向けてエレベーターを伸ばして行き、上端は高度500キロで、下端は高度2万mの所で伸ばすのを止め、そこに円盤型の直径50キロの巨大なステーションを置く事によって、其処から航空機の離発着によって地上とのやり取りをしようという物で、長さは500キロ(元の1000分の1)に抑えられ、経済的にも工期的にも最小限で済む。空気抵抗による減速は太陽光発電の電力による電気推進によってカバーすれば問題無い。というのが彼の意見だったのだ。

 これに当時のチームは大いに揺れた。

 反対派の技術者側は、『技術的には可能(・・)だが、大気中のステーションが落下した場合の安全性が保証できない』と、安全面に対して訴え、

 賛成派のスポンサー側は、『もう、此処まで来てしまったのだから、ここで中止してしまったら損失は莫大な物になる! 計画を続行しろ!』と中断された場合の損失に対して訴えかけた。

 この議論は1か月に渡り続き、旧約聖書でのバベルの塔の話そのままになったのである。

 最終的には何事も無かったかの様に『続行』が決定され、このターミナルが『金と陰謀から生まれた平和の象徴(シンボル)』と言われる1つの要因となった。

 この『バベルプロジェクト』は2041年から3年前の2079年まで、38年間続き、ようやく全5基の建造が終了し、そのターミナル5基はそれぞれアメリカ、中国、日本、ロシア、そしてEUに分配される事になったのだが、日本がターミナルを手に入れる事になったのは、また政治的な問題が入る。

 

 2023年、日本の古岡康二(ふるおかやすじ)率いる核融合科学研究所が低温核融合に成功したのだ。

 CNFF(Cold nuclear fusion furnace)、この新型核融合炉は、それまでの核融合炉が数千万度から数億度という、何だか訳の分らない温度だったのに対し、数万度という(それでもやっぱ想像がつかないんだけど……)低い温度で核融合が可能になった物であり、『これだけで世界情勢が変わる』と言われた代物である。

 だが、このCNFFには謎が多く、公式には『原子核同士の反発する力(クローン力)を弱める事に成功した』となっているが、肝心のその部分の技術を当時の日本政府は秘匿、当然商業用として売られた物を各国は解体、研究をしたが、肝心のクローン力を弱める機構の事がまるで解らず、何故この仕組みで核融合に成功するのか? という研究者から見れば、ブラックボックスの塊だったのである。

 

 この事に、当時のメディアは、『宇宙人との密約があったのでは?』や『失われたオーパーツを発見したのでは?』などといったオカルト関係のニュースを取り上げ、当時の日本は急激なオカルトブームとなった。これは半年で鎮静化したが、この時の経済効果は1兆円にもなったと言われ、一部の陰謀オタクの間で『この経済効果も狙いの1つだったのではないか?』という声も上がった。

 確かに、この時の首相国枝俊充(くにえだとしみつ)は、経営コンサルタントから政界入りした事で有名で、コンサルタント時代は『剛腕』と呼ばれるほどの逸材、公約には『強い外交路線』を明言しするほどであった。

 この一連の動きによって日本の赤字は10年という短期間で急速に解消。国力も急激に増していった。

 当然この事を不快に思う国もある訳で、中国は日本の低温核融合の技術を公表する様に迫った。

 日本がこの事を拒否すると、両国の関係は急激に悪化。中国では日本製品のボイコット騒ぎが起こるなど事態は1年で急速に加速していった。

 そして中国が日本海で行った軍事演習中に撃ち込まれた1本の魚雷によって、中国が日本に向けて宣戦布告。これによって中国とその連合国、日本とアメリカ、その同盟国による第二次日中戦争が始まったのである。

 この時、アメリカが参加したのは、核融合炉に対する貿易の密約があったとされている。

 戦争は2036年から2040年まで続き、最後の1年は核が使われるなどし、およそ5000万人、第二次大戦と同規模の死者を出して終結した。

 だが、それらの死者は殆んど中国東海岸で死亡しており、中国がこの50年で作り上げてきた東海部の街を破壊するといった、中国からすれば散々な結果に終わった。

 だが日本も、首都東京に核弾頭を撃ち込まれ、首都機能を大阪に移すハメになってしまったのだ。

 この事がきっかけで、戦後の経済成長の為に『ターミナル』が作られる事になったのだが、そこで更に各国の思惑が飛び交う事になる。

 2057年、6月18日の国連総会。中国は、『ターミナル建造の為に、日本は低温核融合の技術を世界に公表すべき。もし公表しないのであれば、国際協調の為にターミナル建造の意思なしと見なし、ターミナル建造から一切の権利を放棄して貰いたい』と、意見書を提出したのだ。

 つまり、簡単に言えば『核融合の技術を公表しなければ、ターミナルにもつ日本の権限を全て捨てろ』という脅迫だった。

 当然、日本はそれに断固反対したが、その他各国はその事で何も不利益を得ない、寧ろ利益を受け取る国が圧倒的に多いので、日本は孤立無援の状況に陥ってしまったのだ。

 更に議案期間中に政権が交代、結局ターミナルの1基の権限を持つのと代わりに、南太平洋上のある島(・・・)に国際低温核融合実験炉、通称ITER2イーターツゥを建造するという事になったのだ。

 これが『ターミナル』を『金と陰謀から生まれた平和の象徴(シンボル)』と言わしめる要因の2つ目でもある。

 だが、これで一旦国際情勢は安定し、2068年にITER2イーターツゥも完成し無事に事無きを得た、様に見えた。

 だが世界はそんなに甘くなかった。

 ターミナル完成から僅か2ヶ月後の8月19日。世界を経済的にだけで無く、本当の意味で揺るがす事件が起きたのだ。

 名前は『グランド・ブレイク』、その名の通り大陸を大きく変えてしまった事件である。

 この事件は、公式発表ではITER2イーターツゥが暴走し、大爆発を起こした事で世界規模の災害を引き起こした事になっているが、その真意は定かで無い……

 確かな事は、ITER2イーターツゥを中心に半径250キロが消滅、衝撃波と余波によって太平洋に面した地域は壊滅したのである。高さ1000mの津波が突然とやって来たら空でも飛ばない限り、逃げられる者は居ないだろう。

 その後も上空に上がった塵などに地球上の大部分が覆われ、食糧危機を引き起こし、この災害で全人口の半分約54億人以上がが死んだとされている。……詳しい人数は、3年経った今でも分って無いのだ。

 ……そんな状況下で、唯一無事だったのが『ターミナル』である。

 それらの災害の影響で『ターミナル』保有国4ヶ国とEUは、首都機能を『ターミナル』に移し、『ターミナル』を拠点として、今もそのままとなっている……いや、正確にはそのままで無い。

 本格的な地上の復興は、塵が治まる5年後とされていて今は完全な放置状態。

 他にも、幾ら直径50キロはある巨大な円盤である『ターミナル』でもそこに何億人も住める訳では無い。『ターミナル』の政府は優先順位の高い人物から『ターミナル』に迎え入れ、人口が2000万人を超えた所で、EU以外の各ターミナル政府が独立を宣言。独立国家としてこれ以上の難民の受け入れを拒否したのだ。

 これに地上の人々は猛反発したのだが、上空2万mに浮かぶ『ターミナル』にどうやって攻め入る事が出来るのであろうか? 地上に取り残された人々は結局、地上での生活を余儀なくされたのである。

 

 この事から事実上『ターミナルは、地上を捨てた』という事になっている。

 

 当然、今までがそうだった様に、これにも『陰謀が隠されている』という声は多かった。

 普段なら一部の『陰謀オタク』が勝手に妄想しただけに留まるのだが、今回はそうはいかなかった。

 今回の災害の原因とも呼べる施設を作った日本に、他のターミナル政府からの公式な説明要求が無かったからである。

 幾ら、今回の災害でのゴタゴタが相次いでいたとはいえ、何時もなら何かと言わせて賠償金をふんだくろうとする連中が、説明責任を果たせとも言わなかったのである。

 これで今回の『陰謀説』に火が付き、各ターミナルでデモ行進が起きたりテロ活動が起きたりした。

 しかし、デモ行進については人間はよく出来たモノで、半年もすれば人々の記憶から消え失せていった。

 だが、テロ活動については別だ。

 元々『テロリスト』って連中は、何かと思想を持った奴よりも、国のアラを探してそこを正当化して金をふんだくる連中が多い為『第3ターミナル新東京』には、この100年で起きたテロの回数よりも多い数のテロが僅か2年間で起きてしまったのだ。

 これに頭を抱えた第3ターミナル新東京政府は1年前、元々からテロ対策チームだった『警視庁公安部』を独立、更に拡大させ独自の武力まで認めてこれに対抗しようとしたのだ。

 これにも色々と問題はあったが、無いよりはマシ、って感じのもとで今も活動している。

 そして今ではテロリストと公安のイタチごっこが続いている訳である。…………っと。


 >>>>>


 AM 11:25

「…………うう~~ん、やっと終わった……」

 日当たりはそれなりだが、色々な物のせいでやけに狭く感じる世田谷区三軒茶屋の、あるアパート主『長瀬裕也』は、パソコンのキーボードから手を離して、手を組み後ろに反らす様に体を伸ばすとはぁ~、とため息をつく。

 彼は、そのパソコンを徹夜でやって共に戦ってきた血走った眼を擦ると、思考の海へと足をのばす。


 …………ああ~もう! 最悪だあの『ハゲ先』! こんなに面倒くさいレポート(・・・・)の提出なんかさせやがって!!

 ちなみに『ハゲ先』とは俺が通う東大の教授、八毛(やつげ)教授の事だが、そのあだ名の由来は言わなくても解るだろう…………

 八毛とハゲ、(はち)()だから八毛(ハゲ)である……

 何とも軽いネーミングセンスだが仕方ない……本当にハゲてるのだから…………

 ……まあ、それはいいとして、そのハゲ先から『ターミナルと世界情勢の変化』という難題なレポート提出しろと突き付けられたのだから、さあ大変!

 ……俺は必死の思いで資料をあさり、徹夜でそのレポートを仕上げたのである……

 …………俺が1週間前に出された、そのレポートの事を忘れていたのを抜きとして…………

 

 …………とっ取りあえず、その事については隣のおばちゃんに感謝しなくてはならない!

 俺が叫び声(・・・)を上げた事で怒鳴り込んで来て、その時に紙の山にぶつかった事で、このレポートの存在が明らかになったのだから…………

 ……何とも情けない話なのだが、今になってはどうでも良い……

 レポートが終わった、って事実だけでご飯3杯はイケる心境だったのだが……

「…………はぁ~、取りあえずこれを今日の1時(・・・・・)までに出せば……あれっ?」

 

 そこで俺は気付いた……今が11時26分だという事を……


 そこで俺は気付いた……後1時間半しか無い事を……


「…………」

 俺はしばらく固まった状態のままで居たのだが、

「まっマズイ!!」

 これも時間の浪費だという事に気付いて行動を開始した。

 俺は着替えながらこれからの予定について呟く。

「……向こうまでは大体1時間弱、キャンパス内を10分で移動したとして何とかギリギリ……急げば間に合うか!」

 俺は着替え終えるとバックを担ぎながらドアを飛び出す。その際につま先をぶつけて痛かったが、気にしている余裕は無い。

 ところで何故俺はこんなに急いでいるのか? 

 それは簡単、ハゲ先名物の『地獄のレポート』があるからである。

 このレポートは無駄にメンドイ物が多く、いつもこれを受けた生徒は、死んだ魚の眼になる事で有名である。実を言うと、今俺が提出するレポートもその『地獄のレポート』なのである……

 流石に2週連続はキツイ! そんな思いで俺は必死なのだ。

 俺はダッシュで駆け出し駅に向かう。インドア派で運動は得意な方では無いが、この時にはイケメンで運動大好きでアウトドア派の100m10秒の友人にも勝てる気がした。 

 その気分は正しかった様で、何時もは15分かかっていた道のりを5分で走破した。

 俺はハァハァと、傍目から見たらかなり危ない人をやりながら改札を通る為にPITを取り出すが…………そこで俺は涙が出そうになった……

 別にPIT(・・・)が無かった訳では無い…………別の物だ……

 それも今回の目的の品……『ターミナルと世界情勢の変化』という『地獄のレポート』がバックに存在しなかったのである……

  

 一方その頃……三軒茶屋のあるアパートの一室では、パソコンの横にレポート用紙の入った封筒が寂しく置かれていたそうだ…………


 >>>>>


 PM 1:36


「……と、言う訳です……」

 裕也は、あるビルの一室に来ていた。

 裕也の前に居るのは、胸元を大きく強調したインナーの上に白衣を着込んで、大胆に太ももをさらしている、明らかに、憧れの保健室の先生的なポジションを獲得している美人である。

 恐らく、この人が本当に保健室の先生だったら、この人目当てに怪我をするバカな男子生徒が通常の10倍になるだろう…………

 そして、憧れの保健室の先生(裕也が勝手に命名)は暫らくウ~ン、と考える様に椅子に座り込んで居たが、口を開くと、

「…………それにしても貴方、その後もう1回レポート取りに戻って、乗り込んだ電車がテロの為に市ヶ谷でストップ、仕方なく駅から出ると防衛省を占拠したテロリストに遭遇、そのまま逃げ続けると、この計画の首謀者である電脳狂戦士エレクトロニバーサーカー、神崎錬と遭遇。更にそこに偵察に来てた美緒ちゃんも現れ戦闘開始、美緒ちゃんが敗れる物の貴方の機転を利かせた行動によって救助、そして『公安(ここ)』まで辿り着いた、って訳らしいけど……」

と、呆れながら確認をする。

「……ええ、その通りです」

 裕也が返事をすると、更に呆れてこう言った。

「……貴方、一体どうやったらそんなに事件が続く訳? 不幸体質とか何とか説明してるらしいけど……もうこれは貴方の存在自体に問題があるんじゃないのかしら?」

 これには裕也も否定は出来ずに、

「…………出来れば……早急に調べて欲しいです……」

と藁にもすがる様な声で続けた……

 だが、こういう事に厳しい憧れの保険室の先生は、

「…………残念だけど……現代医学ではどうする事も出来そうに無いわね……」

と、まるで余命を宣告する様な医者の声でそう告げた。

 裕也がガックリと肩を降ろすと、

「……千鳥(ちどり)係長……何とかなりませんかね……? これはもう死活問題なんですよ……」

と、祈る様に訴えかけた。すると千鳥と呼ばれた彼女は、

「あら? その体質のお陰で、どれだけの女の子達にフラグを立てたと思っているの? 気付いて無いのだとしたら彩音(あやね)や美緒ちゃん、それにはるかちゃんがが可哀そうよ」

と、俺の横のベットに横たわる美緒の事を見た。

「……姉の事は否定しませんが、あの2人は違うと思いますよ?」

 裕也はそう言い切った。何故なら裕也からすれば、美緒は裕也の事を使えないヤツ! と嫌っている様に見えるし、はるかは、裕也に会うと何時もオドオドして、裕也にしてみれば『俺の事……怖がってる……』と、寧ろ凹んでいるのである。

 そんな心情を察したのか彼女は、

「……はぁ~、相変わらずの朴念仁ね……」

と、彼女は『貴女……苦労するわよ~』と言いたげな眼差しで美緒の事を眺める。

 それを察したのか裕也は、

「……だから……違いますよ……」

 千鳥の方を見ながら言ってきた。

 彼女は更に深く溜息をハア~~、と吐いて、

「……何でそんな細かい所に気付くのに、この子の心情を察して上げられないのかしら……?」

 愚痴の様に言葉を漏らす。

 それにも気付いた完璧に恋心に疎い裕也は、

「……それよりも、今の『状況』を教えてくれませんか?」

 話題を逸らしたのである。

 それに気付かない筈の無い千鳥だったが、流石に気を使ってくれた様で『状況』の説明をし出した。

「……現在の状況は今までテロとは比べ物にならない物よ……例えて言うなら『都市間交通占拠事件』の10倍はマズイわよ……」

「……そんなにですか?」

 都市間交通の時の10倍は危険という言葉に、思わず裕也は聞き返してしまうが『鷹の眼(イーグルアイ)』と呼ばれ予知にも匹敵する彼女の情報と予測に間違えがある筈が無い。それは紛れも無い事実だと思って良いだろう。

「……ええ、そんなによ…………テロリストからはITER2イーターツゥに関する全ての情報と、『ターミナル』建設時に関する全ての資料を求めて来たわ……」

「……つまり、低温核融合の技術と『ターミナル』の密約について全て話せ、って訳ですか……」

「……その通りよ」

 これは大変な事だ。『ターミナル』は裕也達、『公安』が言って良い事では無いが、確かに『金と陰謀から出来た平和の象徴(シンボル)』だ。もしそんな事が漏れるとは思えないし、実際は裕也達もその情報の事について知っている事は本の僅かだが、漏れた場合は世界中で混乱が起きるであろう……そんなレベルの情報ではある筈なのだ。

 確かに裕也達もそういった『裏』の事情に関してはあまり好ましく思ってはいないが、それでも今情報が漏れてしまえば、地上の復興は更に遅れてしまう……それだけはどうしても防がなければならなかった。

「もし要求が認められない場合は?」

 考えたくも無いが、そんな重要な情報を政府がテロリストに渡す事はある筈が無い……今回の事件の結末は、恐らく2通りしか無い。


 1つ目は、テロリストグループの全滅。


 2つ目は、交渉という名の脅迫に使う筈だった何かが使われる事。


 どちらにしても、犠牲は付き物の選択の筈だ……それは避けては通れない事……

 つまり『公安』は退く事の出来ない状況に追い込まれたという事でもある。

「……要求に応じない場合は、占拠した3つの『ブロック』のロックボルトに点火して、ターミナルのほぼ全域を強制分離(オートパージ)するそうよ…………そうなったら、まず現在の経済体勢は崩壊するでしょうね……」

「……どっちにしても世界規模の混乱はお墨付きなんですよね……」

「……そうよ……」

「……それにしても……強制分離(オートパージ)ですか……」

 強制分離(オートパージ)とは、『ターミナル』緊急時対策マニュアルの内、最も非常時に取る物である。文字どうり、『ターミナル』を『ブロック』単位で切り離し、分離する事である。『ブロック』とは大体が1キロで区切られた区域の事であり、『ターミナル』はこの沢山の『ブロック』によって形成されている。更に直径50キロもある『ターミナル』が、ただの平面で端の方を支えられる訳が無く、『ターミナル』は中心から端の方に行くに連れて中華鍋の様にせり上がった構造をしている。端の方にかかる重力を、中心部に向けて逃がす為である。そしてそれらの『ブロック』は、カーボンナノチューブ製のロックボルトによって連結されているのだ。

 今テロリストグループが行おうとしているのは、そのロックボルトを破壊して『ブロック』を切り離す事なのである。しかし『ターミナル』は安全上どこの1つの『ブロック』を切り離しても、強制分離(オートパージ)が行われる程バランスが崩れる事は無い。だが、中心部に近い3つの(・・・・・・・・・)ブロック(・・・・)』ならどうだろうか? 『ターミナル』の圧力バランスが崩れ、恐らく強制分離(オートパージ)が起動するだろう。そうなって仕舞えば、各ブロックはその後ロケットエンジン等でゆっくりと着陸するから人的被害は少ない物の、経済的損失は天文学的数字になるだろう……そうなれば冗談抜きで現在の経済体勢は崩壊するだろう……

「……向こうも本気で来たって事ですかね……?」

 裕也が質問をすると、

「ええ、そうね……間違えなく今までのとは格が違う、と考えた方がいいわね……」

 彼女は肯定した。

「…………今までのも随分と大変だったんですけど……更に厄介になったって事ですよね……」

 裕也が質問すると、彼女は何かに気付いた様で

「まあ……そうでしょうね……でもテロよりも前に解決しなければならない厄介事(・・・)が増えたみたいね……」

と、言った。

「…………?」

 裕也は始めはその言葉の意味が解らずに、暫らく首を傾げていたがある音(・・・)が聞こえた瞬間に、突如として大量の汗をダラダラとかき始めたのである。

 その音は千鳥の後ろ側の金属製の扉から聞こえてくる。

 ちなみにそれは足音(・・)だ。それもアニメで聞く様なドダダダッ、という音だ。

 裕也はこんな足音を出せる人物を1人しか知らなかった。だからその人物(・・・・)が接近してくる事に冷や汗を流しているのだ……大量に……

 そして、遂に足音が扉の前まで来ると、ゴバッ、と勢いよく金属製の扉が開け放たれた。

 同時に扉が軋んでいるさなか、裕也はハッキリとその人影を捉えた。

 その人影は、華奢な体のラインと双反するボリュームある物体と、その10人中10人が振り返ってしまう様なその容姿を裕也に向けてこう言い放ち、そして抱き付いて来た。


「大丈夫!? 裕也!!」


 ……これが彼の姉、長瀬彩音(ながせあやね)だった。


 >>>>>


 PM 1:43


 俺は修羅場(・・・)を迎えていた。

 ……いや、よくあるドラマとかでの『この、泥棒ネコ!!』とかの修羅場とは別の物の筈なのだが……

 ……取りあえず今の状況にタイトルを付けるなら……『姉、強襲でピンチ!』って所かな……

 ……取りあえず叫ぼう……

「誰か助けてくださーーーーーーーーーーい!!!!」

 今までに類の見ないテロが起きて雑踏している公安本部ビルの5階から男の叫び声が響いたそうだ……


 >>>>>


 PM 1:41


「……あの~、そろそろ解放してくれませんか? そ~じゃ無いとそ「嫌! どれだけ心配したと思っているの!?」……はい、すみません……」

 世の中の男達が見たら顰蹙を一手に貰い受ける位、普通だったら羨ましい状況なのだろう……

 ……普通だったら……

「も~う! どうしてあんな事したの!」

「……いや、……それは自分から望んだ事じゃ「言い訳無用!」はっはい!」

「…………ゆ、ゆ、ゆ、裕也が死んだら私はどうしろっていうの!! 残された私はどうしろっていうの!!!!」

「……え? えーーーーーーーーーー!!??」

 ……この姉……極度のブラコン(・・・・・・・)なのである…………

「……ちょっ……ちょっと待て!? 幾らなんでもそれは……「幾らじゃ無いわよ!! 裕也が居なくなっちゃたら……私、私……」…………」

 彩音はそのままの姿勢で裕也の胸に顔を埋めると、涙を目に潤ませていった。

 裕也は『何とかしてください……千鳥係ちょ~~~う!!』とアイコンタクトで千鳥に助けを求めるが、『……はぁ~、自分で立てたフラグ(・・・)は自分で回収しなさい……』とアイコンタクトで逆に返事されてしまい、更にそそくさと部屋を後にされてしまったのである。

「係ちょーーーーーーーーーーう!!!!!!」

 裕也の絶叫が響き渡る中、彩音は裕也を後ろのベットに押し倒すと、

「…………分ってる? 私が今までどんな気持ちで裕也の事を見て来たのか……?」

 押し倒した裕也の事を耐性の無い人だったら一発で悩殺できそうな上目使いで見て来たのだ。

「……弟でしょ? いや寧ろ弟であってほしい…………いや絶対にただの弟であってくれーーーー!!」

 最後に行くに連れてただの懇願になっているのだが……

 それに対する彩音の答えは、

「……私はね……本来だったら1回死んだ身なのよ…………それを助けてくれたのは裕也なのよ……? 私はあの時助けられなかったら、今ここには居ないの! だから私はあの時に決めたの!! これから先の人生を裕也に尽くすって!! だから私は裕也が居なきゃ生きてる意味が無いの!! その為だったら悪魔にでも魂を売るわ!!」

 …………この話(・・・)は回想すると長くなるから今は振り返らないが、彩音が裕也にぶつける想いは並大抵の覚悟では無い。それはあんな事(・・・・)があったから仕方ない事だと、裕也も普通(・・)の事は、彩音を傷つけない為に受け入れようとはしているのだが……あくまで普通(・・)の事は、だ……

「……こうなったら最終手段(・・・・)を取るしか無いようね……」

「……最終手段(・・・・)って何? っていうか早く放してっ、えっ?」

 彩音はそそくさと上着を服を脱ぎ始めたのである。

「……あっ、あの~何をやっているのですか……?」

「何って? 服脱いでるだけじゃ無い?」

「ああ~、そうかそうか服脱いでるって! 何やってんの!? えっえっえ!!??」

 裕也は過去タイ記録である、本日4回目の思考のドツボに嵌まると、彩音を押し退けようとジタバタと暴れ出す。だが、それよりも強い力で抑え付ける彩音は口を開くと、

「私はね……裕也を抑え付けるならどんな事でもするつもりよ? だから私は裕也を抑えつける為に、裕也とある事実(・・・・)を作るのよ……優しくしてね……」

「…………なにぃーーーーーーーーーー!!??」

 裕也は今日何回上げたか分らない絶叫を再び上げ、思考の海へとまた迷い込んだ。

(……え、え~~!! 確かにあの時(・・・)助けてからこんな事が凄く増えたけどさ……例えば俺が高一の時、姉さんが高校の卒業文集の『もし私が』シリーズで『私がもし総理大臣になったら、近親婚を法律で認めさせて弟と結婚します!!』と堂々書いた時は本気で焦った……そのお陰で姉目当てだった男子生徒100人から追いかけられた『リアル鬼ごっこ(・・・・・・・)』は学校の伝説になったよな…………そ、そんな事はいいとして!)

「ちょっま、待って姉さん!! それは色々な意味でマズーーーー!!」

「何言ってるのよ……愛に法律なんて関係ないわ!!」

「NOーーーーーーーーー!!!!」

 もはやこれまで……と思われた瞬間、


「……何やってるのよアンタたち……」


「「……へっ?」」

 姉弟揃ってマヌケな声を出すと、そこにはベットから起き上がり、背中から大量の黒い物(・・・)を噴出させた美緒が立っていた……

「……あの~これは違いますからね? これには深~い事情が有りましてね?」

 浮気がばれた男みたいなセリフを吐く裕也に対して美緒は、

「ふ、ふ~ん……深い事情ね…………覚悟は出来てるんでしょうね? 裕也(・・)?」

 スタスタと歩いて近づいて来る美緒に対して、早々に彩音はベットから退散してしまう。1人残された裕也は、

「ちょ……ちょい待っち!! 俺は姉さんに押し倒されただけで別に何も……」

 説得を試みるが、

「問答無用!!」  

 悪魔の様な笑顔でそう告げられたら逃げ道は無いだろう……

「誰か助けてくださーーーーーーーーーーい!!!!」

 裕也は心からの絶叫を上げる。するとそれが届いたのか扉が開き、千鳥が入って来るが、時既に遅し……

「は~いお二人さん、第3会議室に「ぎゃぁああああああああああ!!!!」……来れそうに無いわね……」

 千鳥はそんな見事に腕ひしぎを決めている美緒の事を眺めていたが、半裸状態の彩音を発見すると呆れた顔で近付いていった。

「……彩音、貴女のせいでまた哀れな犠牲者が増えたようだけど……?」

「ぎゃぁああああああああああ!!!!」

 ……また悲鳴が上がる。

 それを見た彩音は、

「チョッとやり過ぎちゃったかな? ライバル(・・・・)は早めに潰して置きたかったんだけど……」

と、腹黒感満載のセリフを言った。

 千鳥はこう言い返す。

「……はるかちゃんはともかく、あの子(美緒)は通用しないわよ……っていうか逆に嫉妬(・・)爆発させてるし…………第一貴女はまずあの子に恋愛対象から見られて無いわよ……」

「そんなの解らないじゃ無い? いつか憧れのお姉ちゃんから格上げもあると思うけど?」

 そう言い切った彩音に対して千鳥はしばらく黙り、

「……どちらかっていうと厄難のお姉ちゃんね……」

と皮肉った。

「その言い草は失礼だと思うけど……深零(みれい)

 彩音は頬を膨らませて反論すると、

「事実だと思うけど?」

 千鳥深零は斬って捨てた。


「ぎゃぁああああああああああ!!!!」


 ……このやり取りのせいで会議は30分遅れる事になった……


 >>>>>


「…………千鳥係長……ちなみに今って何時?」

「1時59分だけど?」

「レポートNO----------!!!!」

 裕也の不幸はまだ始まったばかりのようだ…………

投稿って大変……

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