序章~狂戦士の理由~
ちょっと無理やりかもしれません……
戦いとは楽しんで行うモノ何だろうか?
これに対しての俺の答えはNO、だ。
死ぬかもしれない……そんな事がある戦いは、何かしらの信念を持ってやるモノ
と、俺は考えていた。
だが俺は考え方を変えなければならないかもしれない……
この場合はどうだろうか……
楽しんで殺し合いしている……
これは戦いなのだろうか? それとも単なる遊びなのだろうか? はたまた別の呼び方があるのだろうか?
……あえて言うならそいつは純粋な狂気を持った子供だった……
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PM 0:47
「アンタを倒さして貰うわ!!」
こんな一言から始まった戦闘だったが始まってから10分、戦局は酷く一方的な展開となっていた。
「……っう……ぐふ……」
少女は起き上がろうとした所を男に蹴られて転がる
「おやおや、大丈夫ですか? 大分辛いようですが……」
そう言った男の口調は、明らかな嘲笑があった。
「……誰が……そんな事……」
「……そうですか……なら良いのですが……」
男は拳銃を少女に向かって構える。その眼には狂気が浮かんでいた。
「では……今度こそお別れです」
「……っクソ!!」
この呟きが少女の物であったか、はたまた少年の物であったのかは解る事は無かった。
ただ、一つだけ確かな事はこの後すぐに、コイルガン特有の、スパッァン、という射撃音が響いた事だけであった。
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PM 0:37
「ジャマよ、『クラック』!!」
少女はそう言うと、少年と男のもとに向かって獲物に狙いを定めたチーターの様なスピードで駆け出した。
「っーー!!」
男は慌てて銃口を彼女に向けて構える。だが、
「っな!?」
マシンガンが、シチューに入れられた人参のように乱切りされ、様々な部品がバララッ、と地面に転がったのだ。
「っハァアアッ!!」
少女はそれを気にも止めず男の顔面に右の拳を一発入れる。
「っうーー!!」
だがそれをギリギリの所で頭を捻じって男は避ける。
更に男は頭だけでなく、体も捻じりその勢いで少女の脇腹目がけて蹴りを放つ、
「ーーッハ!!」
そこを少女は1.5mという、常人には到底真似出来ない垂直飛びを見せそれをかわす。
「ッハァアアアーー!!」
更に少女は空中にいるままの姿勢から体を捻ると、右回し蹴りを男の側頭部に向けて放つ、
「ーーッ!」
だがそれを男は左腕でガードすると、そのままの姿勢でバックステップをし後ろに退った。
今のどの攻撃も常人には到底真似出来るモノでは無いし、はっきり言って、どの攻撃も当たれば決定打になりかねないモノであったがそれ位だったら一流の格闘家なら出来るものである。だが、それが今の戦闘開始から『5秒』という時間内に全て放たれたと考えると、2人のレベルがどれ程高いかが解ってくる。
2人の間に距離は5m程あったが、これはまだ2人にとって、間合いと呼ぶには余りにも狭い距離であるのだ。
そんな中で、
「MAC(Movement assistance clothes《運動補助服》)ですか……それにしても身軽ですね……」
などと男は口を開いた。
すると少女は言った。
「伊達にこれを身に着けてんじゃ無いのよ、狂戦士さんッ!」
少女はまたさっきの様に、高速で男に接近し攻撃を加え続ける。
「っう……これは……避けるのが……大変ですね」
1秒間に何度も攻撃が交わされる世界。その中で男は軽口を叩いて見せた。
男は、彼女の戦闘スタイルを分析する
(……相手は典型的なボクシングでいう『ファイター』ですか……それに空手やコマンドーを足した様な物ですね……これは一回距離を取った方がいいでしょうか? ……いや距離を取っても直ぐに懐まで潜り込まれるでしょうね……ならばカウンターを狙った方が得策ですね!)
そう読んだ男はワザと高速戦闘ではあまり多用しない右回し蹴りを少女の頭目がけて繰りだす。
目論見どうりそれを掻い潜って避けた少女は、筋書きどうり左アッパーを男の顎に向けて放った。
(予想どうりです)
男はそれに合わせ、打ち下ろしの右を放つ。いや、放とうとした。
「っう!?」
何故か男の手は中途半端な位置で止まり、それ以上動く事は無かった。
「ッハァアアア!!」
それを少女が見逃す筈が無い。少女はそのまま左アッパーを男の顎目がけ、振りぬいた。
「グフッ……!」
男はそう言い残すと、綺麗な放物線を描き、ズサッ、と地面に落下した。
「…………」
余りにも呆気ない幕切れだった為、少年はしばらく口を開けたままポカン、と立っていたが、
「……何やってんのよ『クラック』……早く後ろに退んなさいよ……」
「……っああ……」
と促され、男の飛んで行った方向とは逆の方に退って行った。
少女はその事を確認すると、
「……さて、狂戦士さん? もう気絶しちゃったの? ……随分早い幕切れじゃない?」
と言った。
それに対して狂戦士と呼ばれた男は、
「……あ~痛ててて……随分と派手に飛ばしてくれますね……」
と、片膝立ちの体勢になりながら返す。
それに対し、少女は、
「そう? もしかしたら後ろのバカを殴り飛ばすのに慣れたせいかもね? 何ならもう一回サービスして上げるけど? どうする? 狂戦士さん?」
などと言い放った。若干後ろの少年の顔が引きつるが、狂戦士と呼ばれた男は軽い口調で、
「いえ、自分は寧ろ殴りたい方の趣味なんでね……遠慮しときますよ……それと、出来たら僕の事を狂戦士では無く『神崎錬』と呼んでくれませんか? あんまり気に入って無いものでして……」
と言う。
「そう? じゃあ神崎さん、大人しく捕まる気は無い? 今なら宿泊費三食込みで無料の刑務所に案内してあげるけど? どうかしら?」
少女は男に投降するように促す。だが、
「……生憎自分を殴った相手に捕まる趣味じゃ無いんですよ……それにいきなり銃を分解した危ない相手になんかわね……でもそのタネとあそこで手を止めさせるほどの悪寒の正体をを教えてくれたら、気が変わるかもしれませんよ……?」
と返した。少女は眉を軽く引きつらせながら言う。
「そうね……あなたを捕まえたら教えてあげても良いわよ?」
すると男は顔を顰めながら、
「……残念ながら交渉は決裂です……僕は捕まる気は無いですから……」
と言う。
すると少女は右腕を左肩の近くまで持っていき、
「そう……それは残念ね!」
と言いながら右腕を左から右へと振り回す。
何でも無い動作に見えるが、それに殺気を感じた神崎は慌てて左に転がった。
その判断は正しかった。
フィュン、と音を立て、黒い髪の毛の様な物体が神崎の頬を薄く切り裂いたのだ。
「っう!?」
神崎は目の前で起きた現象に戸惑いを隠せ無かったが、痛みで直ちに冷静さを取り戻す。
そして、今何が起きたか考える。
答えは以外にもすぐに出た。
「……糸……『狂乱の糸繰り』、葛城美緒さんですか……」
「あらっ? 狂戦士さんに名を知って頂けるなんて光栄ね?」
と言いながら彼女、葛城美緒は腕に取り付けた黒い箱の様なものを叩く。その先からは確かに細いが糸の様な物が出ていた。
「……その名前は『公安』の中じゃ有名な方ですよ……何でも、都市間交通占拠事件では当時、まだ一般人だった『長瀬裕也』さんとコンビ組んで事件を解決したとか何とか?」
それを聞いた美緒は肩を震わせながら、
「…………その事は余り言わないでくれる……? はっきり言って何で後ろのヘタレに助けられたんだろう? と今でも考える時がまだあるから……」
と、答える。それをからかう様に
「そうなんですか? てっきり仲が良いのかと思ってましたよ…………すいません、まだその『繰糸』で切り刻まれたくないものでしてね……」
と、神崎は肩を竦めながら言う。
「……よくご存知ね……」
「カーボンナノチューブ製の糸を使った兵器なんて、それ以外に知りませんから……」
と言った。
そう、彼女は糸を操っていたのだ。それもカーボンナノチューブという特殊な糸だ。
(カーボンナノチューブ……鋼鉄の20倍以上の引っ張り強度を持ち、アルミニウムの半分の重さ、更に種類の組み合わせによって電流を加える事で自由に形を変え、その電流で発生した熱量で目標切る性能を更に向上させている……それに細すぎて殆んど視認不可、って訳ですか……)
神崎はそう考えながら一言呟く、
「……悪魔の兵器ですね……でもそれは、倉庫で埃被っていたと思うんですが?」
この神崎の疑問に対し美緒は、
「……そうね、でも私が来るまでEBC(Electronic brain image control system《電子脳思考制御システム》)を通しても誰も使えなかったんだから……でもそれは自分を選んでくれた、って事じゃ無いのかな? それに悪魔呼ばわりなんて、私には出来ないわね……」
と、答えた。
EBCとは電子脳、つまり脳内に設置した電子脳と呼ばれるいくつかのポイントの事を差す。この人工的に設置した機械と脳が、電気信号のやり取りをする事によって、例えば考えるだけで機械を動かしたり、声を出さずに会話が出来たりする機能の事だ。
武器への信頼を寄せる美緒に対し、神崎は、
「……あなた自身が悪魔なのかもしれませんね……」
と言った。表情を一瞬でシリアスからコメディーに作り変えると彼女は、
「なっ……何おうっ!!」
と、慌てて返事を返した。そんな彼女に対し、神崎は止めを刺すように言った。
「……後ろの人も同意しているようで……」
ガバッ、という効果音と共に後ろを振りかえると、そこには首を大きく縦に振りながら目を閉じ何か呟いている、後ろの少年こと長瀬裕也の姿があった。
ここからは、何を言っているかは聞き取る事が出来ないが、口元を見ると彼は「……悪魔……魔王……女王様……」と言っている様に見える。
彼女は顔を熟したトマトの様に真っ赤にすると、
「……アンタ……後で荒縄縛りの刑ね……」
と、ホントに魔王の様な声で宣告した……
「ごめんなさいっー!!」
裕也はズシャー、と効果音がする勢いで土下座をするとそのまま動かなくなった……
美緒はそれを見るとプイッ、と少年から目線を逸らし再び神崎の方へと振り返る。どうやら彼女は神崎に対する愚痴があるようで、
「……あなた……性格悪いって言われない?」
と、漏らした。
それに対しての神崎の答えは、
「いいえ、悪い人だとは言われた事はありますが?」
だった。
はっきり言ってどっちも変わらないのだが……
美緒は呆れてハァ~、と肩を降ろすと、再び戦闘の構えに戻り言った。
「……茶番は済んだわ……そろそろ決着を着けようかしら?」
「……そうですね……僕もそろそろ待ちくたびれましたし……でもなかなか面白いものも見れましたよ……」
また美緒は姿勢を崩すと、
「……あなた、ホントに悪い人ね……」
と、呟いた。
「よく言われますよ」
と神崎が返すとはぁ~、と彼女は、もういいや……という表情で目を瞑る。
だが、その後一回深呼吸をし、2秒ほど精神を集中させ、カァッ、と目を見開いた時には、その表情は唇を吊り上げた、悪魔の様なモノになっていた……
恐らくこれが彼女の戦闘時の表情なのだろう。
「じゃあ! 行くわよ!」
と言いながら彼女は大きく腕を交差させ振りかぶる、その様はまるで指揮者のようであったが、これが彼女の戦闘姿勢なのである。
一方神崎の方は、どこから出したのか? 両手に拳銃を持って、腕をダランと下げている。
一見すると無防備だが、その構えは本人にやけに馴染んで見える。恐らくこれが、彼の本気の構えなのだろう。
「「…………」」
両者は見合ったまま10秒程動く事は無かった。だが、その間に起きた駆け引きの数は、その秒数を遥かに超えていた。
「……ッハッ!!」
最初に動いたのは美緒だった。
彼女は両手を交差させながら神崎に向けて疾風の如く駆け出す。
それに対し神崎はその場に立ったまま全く動こうとしない。
「ッハァアアアア!!」
彼女は距離を縮めながら右腕を横薙ぎに振るう。同時に鞭を振るった様なフォン、という音が響く。
「っう!」
神崎はそれを1m程、飛び上がりかわす、だが、靴の一部が少し触れたのかつま先の一部が削れている。
「っと……」
神崎は空中に居ながら拳銃を発砲する。スパァンスパァン、とハリセンで頭を叩いた様な音がこだまする。空中で発砲したにも関わらず体勢を崩さなかったのは神崎が持っている銃が『コイルガン』だったからであろう。
(コイルガン……鋼鉄の銃弾を磁力によって加速し打ち出す銃、火薬を使わない為、衝撃が少なく消音性も高く連射にも優れた万能の銃ってとこかしら……でも弱点が無いを分けじゃ無い!)
と考えながら美緒は神崎との距離をどんどん縮めていく、普通なら確実に銃弾が当たる距離なのだが、一向に弾が当たる気配が無い。それは神崎の腕が下手、という訳ではなく、美緒が銃弾を避けて進んでいるからである。
そんな、人間離れした事なんて出来るわけ無いと思うが、それは彼女の見ている映像秘密があるのだ。
EBCには一方的な出力だけで無く、脳への入力の機能が付いている。つまりそれは会話であったら、言語野に直接、電気信号を送り、映像だったら直接、視覚野に信号を送るようになっているのだ。
だから彼女はその映像に細工をしているのだ。
今、彼女が見ているのは、照準の方向と磁力の変化という、カメラからの映像なのである。
つまり彼女は銃口が今何処に向いているかを知り、コイルガンの磁力が変化した瞬間その部分を体から逸らして銃弾を避けている、という事をやってのけているのだ。
簡単な事に聞こえるのだが、磁力の変化があってから銃弾が彼女に届くまでの時間は、あっても0.2秒。ストップウォッチで確かめてみると分るが、普通にボタンを連打する位の時間が0.2秒位になる。丁度、人間の反応スピードの限界が0.1秒位だから彼女の行為は神業ともいえるモノなのだ。
「……人じゃないですね……」
「あら? そう言うあなたこそ人間離れしているとおもうけど?」
銃弾をかわしながら接近してくる美緒に軽口を叩く神崎に対し、彼女も軽口を叩いて返す。
そして彼女は再度腕を横薙ぎに振い、神崎の首を切り刻もうとする。
「っおっと!」
それを屈む事で避けた神崎は、その屈んだ姿勢から飛び出す様に美緒に接近する。
同時に左手に持っている銃で殴りかかる。
「ッう!!」
それを美緒は右腕のプロテクターでガードする。否、ガードさせたのだ。
それに気付いた美緒は、左手で神崎の右手に持っている銃を弾き飛ばす。
カンッ、カラララーと銃が路上に転がる音が響く。
両者共に武器が抑えられ、動く事の出来ない状況で2人はニィ、と口元に笑みを浮かべる。
「……こんなに楽しい事は久しぶりね?」
「おや、そっちもそうですか? ……そうですねここまで付き合える相手は中々居ませんからね」
……1つ言って置くが、この2人はさっきの長瀬の様に恐怖で笑っている訳では無い。
純粋に楽しんでいるのだ。
……そう、まるで子供同士のじゃれ合いの様に…………純粋に殺し合う事を楽しみとしているのだ。
……だがそれを知っていた裕也は美緒の事を見て、何かぎこちない笑いだ……
都市間交通占拠事件みたいに純粋に楽しんでない……
と、何故だか思った。
硬直が続いて10秒、
「……あなた忘れてない?」
美緒が神崎に問いかけた。
「……何をです?」
それに対して美緒は唇の端を吊り上げ言った。
「……私の武器の性能よ!!」
その瞬間、神崎の左肩からブシュ、と血の柱が上がったのだ。
「っな……!?」
神崎は左肩を押さえるとバックステップを取り、美緒との距離を取り口を開く。その瞬間、左手から銃がこぼれ落ちていた。
「……なっ、何ですかアレは……」
武器を無くした、その口調は焦りを感じさせる物だった。
「……そうね、私の『繰糸』は自由に形を変えられるって事は知っているわよね……」
彼女は愛用の武器を見ながら言う。
「……知っていますよ……でも腕を動かせなければ物を斬れませんよね……」
その通りだ。彼女の『繰糸』は自由に形を変えられても『腕を動かす』などの動作が無い限り、物体を切る事が出来ない筈なのだ。だから銃をガードしていた右腕が動かせないと肩を斬るどころか、防護服1枚すら斬れない筈だ。だが彼女は、
「あら? ちゃんと動かしていましたよ、腕。」
と言った。
「……おかしいですね……あの時右腕は……はっ、まっまさか?」
神崎は何かに気付いた様な顔になった。
「……ようやく気付きましたか……私が何時『繰糸』は1つだと言ったのですか?」
「…………」
そう、彼女は始めから両腕にに『繰糸』を装備していたのだ。
比較的簡単なトリックだが、この様な戦闘では最初から全力を持ってして戦う事が多い。それは隠し玉を持っていたとしても、使わずに戦闘が終了したり、使い所が限られてしまったりする事が多い為、『最初から全力を持ってして戦った方が得策』という考え方が多いのである。
だから、戦闘のプロは最初から本気で相手にかかる場合が多いのだ。
しかし、逆にプロだから裏の裏をかく事もある。
「……裏の裏をかかれましたね……あなたにも隠し玉があったという事ですか……」
「その通りよ、本来『繰糸』は2本で使う物。2本の糸で相手の逃げ場を無くして攻撃するのが本来の使い方……もっとも、私もつい最近にやっと使える様になったんだけどね……」
と、言いながら彼女はヒュン、と左腕を振う。
「……どうする……今なら捕まえるだけでお終いよ? 私も牙を無くした狼に止めを刺すのは気が引けるのよ……」
という彼女の問いに対して神崎は、
「……いいえ、それを聞いて安心しました。もっととんでもない物と思っていましたから……それに、あなたは勘違いをしている。僕のまだ牙は折れていませんよ?」
と答えた。
美緒は一回深呼吸をする、その手が震えていたのを裕也は見逃さなかった。
「じゃあ、仕方ないわね!!」
と、彼女は2つの腕を振りながら言った。
シュッ、2つの黒い糸がそれぞれ神崎の首と腹に向かって行た。
もう間もなく神崎の首と胴体が切り離される。と、誰もが思った。だが神崎は小声で、
「……僕の名前の由来、って知ってます?」
と呟いた。
そして2本の糸が神崎の体に触れた瞬間。
「っなっ!!??」
ブゥン、と音を立てて神崎の体が霧の様に露散したのだ。
「きっ……消えた!?」
当然、美緒は突然起こった事に驚きを隠せなかった。
「どっ何処に行った!?」
と彼女が神崎の姿を探していると、
『僕のあだ名、電脳狂戦士は、確かに僕が戦闘狂だから付けられた、あだ名ではあります……』
「っなーー!?」
いきなり脳に直接EBCを通して聞こえる声が流れたのだ。
「ッ何処に!?」
彼女が必死に四方八方を見て彼の姿を探していると更に、
『でもそれじゃ電脳の部分が抜けていますよね? これは一体どういう事でしょう?』
と、続ける。
「何処だッ!? さっさと出て来い!!」
『……正解は』
と言い、EBCを通して聞こえる声が途切れる。
美緒は神崎の姿を探していたが後ろから長瀬の叫び声が聞こえた。
何を言っているかは「葛…………ろ……」としか聞き取る事が出来無かったが、いきなり後ろから、
「僕が自由に電子脳を狂わす事が出来るからですよ」
と、声が聞こえたのだ。
「っな!?」
慌てて後ろを振り返ろうとする美緒だが、
「っうっは……」
何時の間にか拾った銃で後頭部を殴られ、地面に倒れてしまった。
「っな……一体何を……?」
すると神崎は、
「う~ん……どこから説明しましょうか? ……そうですね、あなたが僕2本の糸で斬り付けようとした時、僕は一体何処に居たと思いますか?」
そんな物、美緒からしたら決まっている。
「私の……目の前よ……」
「そうですね、確かに僕はあそこに居ましたよ? でもアレは僕であって僕じゃ無いんですよ」
「……何の事……?」
「さて、ここで問題です。確かにそれは目に見えているのだけれども、実際にはそれは無い。さてこれは何でしょう?」
軽い調子でそんな問いが来た。
「…………幻覚?」
「そう! 正解です。僕はあなたの電子脳に『クラッキング』して視覚野と言語野に偽の僕の存在の情報を流したんです。だからあなたが見ていた僕は、僕であって僕じゃないんですよ」
「…………」
言葉にすら、なら無かった。
最初から勝負は決まっているも同然だったのだ。
向こうの方が何枚も上手だった。神崎の行動には始めからちゃんと意味があったのだ。
まず、普通の戦闘をして相手の実力を知り、そして相手が手強いと判断したら、一旦自分から窮地に追い込まれたフリをして、相手を油断させる。そこで幻覚を使い、相手が混乱した所を一気に決める。 美緒が神崎を斬り裂こうとした時にはすでに神崎は、勝利を決めていたのだ。
実に計算された戦い方だ……
美緒は始めから神崎の掌で踊らされた事にようやく気付いた。
そして、美緒はここで神崎には勝てない、と自覚した。
「タネは解りましたか? 実に簡単でしょ?」
「……っう……ぐふっ……」
美緒は起き上がろうとした所を神崎に蹴られて転がる。
「おやおや、大丈夫ですか? 大分辛いようですが……」
そう言った神崎の口調は、明らかな嘲笑があった。
「……誰が……そんな事……」
「……そうですか……なら良いのですが……」
神崎は拳銃を美緒に向かって構える。その眼には狂気が浮かんでいた。
「では……今度こそお別れです」
美緒は目を閉じている。明らかに死を覚悟したモノだ。
「……っクソ!!」
誰かが叫び声を漏らした、次の瞬間、
スパッァン、というコイルガン特有の射撃音が響いた。
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「……そうですか……なら良いのですが……」
神崎にこう言われた時、私は死を覚悟した。
……私のバカ……相手の情報、ちゃんと見ないからこういう事になるのに……
でも、もう意味無いのか……私死ぬんだもんね……
後ろでカチッ、と安全装置を外す音が聞こえる。
……ああっ、もう終わったんだ。私の人生……
と考えながら、私は目を閉じる。
……考えてみればロクな事してないわね、私……ただ戦って戦って戦って、ずっと戦ってばっかの人生だったもんね…………何でこうなっちゃたんだろう……?
ずっと、戦う事だけが楽しみで、それ以外に生き甲斐が無かったんだ……
……戦って勝った時が一番楽しくて、それ以外に楽しい事が無くて……
でも何時からだろう? 戦う事が本当に楽しく無くなったのは?
…………ああ、都市間交通占拠事件からだ……
……あの時初めて敵に殺されかけて、初めて死の恐怖を知ったんだ……
……あの時初めて命の重みを知って、それから殺す事を自然と避ける様になったんだ……
今日も……手の震えを止めるのに必死だった……
でも、戦わない私は必要とされない……自分の居場所が無くなるのなんて嫌だ!
だから私は戦う。
自分の居場所を守る為に戦う。
……でもそれも今日でお終い。だって死ぬんだもん……私。
……そういえば前、死にかけた時はどうしたんだっけ?
……ああ、あの裕也が助けに来たんだ……あんなのに助けられたんだ……私。でも
そういえば何で……アイツにあんなに突っ掛かったんだっけ、私?
そういえば何で……アイツの行動1つ1つが気になったんだっけ、私?
…………嗚呼っ!! 何で死ぬ間際アイツの顔思い出してんだ!? 私!?
アイツの事なんかどうでも良いじゃ無い! どうせ死ぬんだから……でも
こういう時に家族の顔じゃ無くてアイツの顔が浮かぶのはどういう事だろう……?
「では……今度こそお別れです」
……気にしても仕方ないか……でも、何故だか……
もう1度裕也の顔が見たい……
その後すぐだ。
何処からともなく「……っクソ!」という声が聞こえ、コイルガンのスパッァン、という射撃音が響き渡ったのは……
コイルガンの発砲による衝撃と発砲音はほとんど無い、これだけで隠密性を重視した兵器だという事分る。
その中で葛城美緒はゆっくりと目を開けた。
(……あれっ? 生きてる?)
彼女の目の前に映る景色に変わりは無い。
だが、さっきまで2つだった。影が、今は3つになっているのはどういう事だろうか?
答えは直ぐに解った。彼女が後ろを振り返ると、
「……『裕也』……?」
そこには自分がさっき『ヘタレ』呼ばわりした男が神崎の腕を取って銃口を私とは違う方向に向けていた……
「……っな、長瀬……裕也っ!!」
神崎のそんな叫びが路地にこだました。
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……あっ危なかった……
俺が神崎のトリックに気付いたのは、丁度アイツが姿を消した時。
神崎が思考動作だけでEBCに『クラッキング』出来るのを知っていたからだ。
……それにしても自分の姿を神崎から消してアイツの脳に小細工してたとはいえ……今のタイミングはねぇだろう!! 後コンマ1秒遅れてたら間に合わなかったぞ、多分……
……でも変だよな……戦闘狂の葛城が戦ってるときにあんな表情を見せるなんて……?
俺がそんな事を考えていると下から声がかかった。
「……『裕也』……?」
……アレッ? 葛城が俺の事名前で呼んでくれた事ってあったっけ?
「……っな、長瀬……裕也っ!!」
……アレッ!? 神崎さんってそんなキャラだっけ!?
アレアレッ!? 何か今日、色々変な事が起きて訳分らんぞっ!?
と、俺が本日2度目の思考のドツボに嵌まっていると、
「っくーー!!」
神崎が俺に銃を向けて来た。
「……オイオイ、お前そんなヒステリックなキャラじゃ無いだろ?」
「……煩い……僕の邪魔をするなっ……」
と言いながら引き金に力を入れ始める。
ふ~ん、コイツ予定外の事があると直ぐにヒステリー起こすヤツだな……メモっとこう……
「裕也っ、逃げてっーー!!」
いや、もう手は打ってあるから……それより葛城さんっ!? アンタ、そんなキャラだっけ!?
俺が本日3度目の思考のドツボに嵌まりかけた時、
「っう、グァアアアーーーー!?」
突然神崎が苦しみ出した。やっと始まりましたか……
「……っう……なっ、何をした!?」
おっ! 聞いてくれますか。
「何って……ただ単純に通常の30倍の感覚情報をEBC通して頭に送り付けてるだけじゃん……」
俺がそう告げると神崎は何か悟った表情で言った。
「なっ、まっまさか今まで手を出して来なかったのはその為……」
……それは違う……だが、否定すると襲いかかって来そうなので一応苦笑いを浮かべて置く……
すると神崎はくっ、と悔しげな表情になった……
その表情は心のアルバムに残して置きたい位の滑稽な表情なのだが…………何度も言っている事なのだが早く逃げよう……
「じゃっ、一旦退かせて貰うぜ」
「……えっ、ちょっと何を!!」
俺はそう告げると葛城を担いで(いわいるお姫様抱っこだ)、一目散に逃げ出した。
……ああ~~シンド…………今日は厄日だな……これ……
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「じゃっ、一旦退かせて貰うぜ」
そう言うと彼は、私を抱きかかえながら駆け出した。
「……えっ、ちょっと何を!!」
私は最初は軽く抵抗をしたが、自分の頬が熱くなっている事に気付いて、直ぐに逆らうのを止めた。
……うう~っ、一体どういう訳? こんなヤツに抱っこされた位で何で顔を赤らめてるのよ!?
そんな思考のループに入っていた私だったが、その彼の横顔を見ていると何故か落ち着いた。
特に美形って訳でも無い、ただの普通な青年。身長も高い訳では無く、平均より少し下。何ら特徴がある訳でも無く、『クラッキング』以外の全ての面を平均した様な人物、それが長瀬裕也だ。
「…………」
私が無言でジィー、と彼の顔を見ている事に気付いたのか彼は、
「どうした? 何か俺の顔にでも付いてるか?」
と、聞いてきた。
「っあ、なっ何でも無いわよっ!」
私はかなり焦りながら返答したのだが。
「そっそか、何でも無いか……」
彼は何故かそこは気付かなかった。
何で!? 何でこんなにも鈍いくせにそういう細かい所だけは気付く訳!? ……もしかしてワザと!?
私は心の中でツッコミながら1人ボソッと呟く。
「……これで『少しカッコよく見えたなんて』言える訳無いじゃないのよ……」
それに対し裕也は本当に気付いて無いらしく、
「んっ、何か言ったか? どこか悪い事があったら言ってくれよ?」
と本気で心配する様な顔で言って来る。
すると私は顔を真っ赤にし、
「……ホントに悪いのはそこで無駄な心配をして来て、別の所で鈍いアンタの頭だァーーーー!!」
「へぶしっ!?」
と彼の顔面に綺麗に右ストレートを1発決める。
MACで強化されたパンチは、抱えられている状態でも常人の意識を刈り取る程の威力を持っているのだが、何とか踏み止まった彼は、
「っく、あっ、あっ危ねぇじゃねえか! 倒れてたらどうするつもりだったんだ!」
と言った。
私は口を開くと
「そん時はそん時よ!! 第一まるで気付かないアンタが悪いんでしょ!!」
と、言い放つ。
しかし彼は、
「そん時って、随分強引だな!? 後、気付かないって何だ?」
全く分って無かった……
「そういう所が気に食わないって言ってんのよ!!」
と、再び彼の顔面にパンチを撃つ、
「ひでぶっ!?」
本日2度目の某アニメの断末魔が上がった。
流石に2発は堪えたようで足取りがおぼつかなくなる。
そんな彼を見て私は
「……はぁ~、何でこんなのに2回も貸しを作ったんだろう……」
と呆れながら言う。
だがここにも気付かない裕也は言った。
「……貸しって何だっけ?」
「…………そういう所が気に食わないって言ってんでしょうが!!」
「あべしっ!?」
鈍感な勇者は、3度目の魂の叫び声を上げ、地に伏した……
後から聞いた話だと彼はこの日は色んな意味で『人生最大の厄日だっ』と言ってたらしい……
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「う~ん、痛たたたたっ」
そんな声を上げる電脳狂戦士こと神崎錬は5分経ってようやく痛みから解放され、体の調子とEBCの具合をチェックしていた。
(……ホントにただ大量の情報を流し込んだだけですね……あんなマネが出来るなら脳を焼き切った方が楽の筈、なんですがね……)
神崎はしばらく考えてある答えを出した。
「……そこはやっぱり甘いんですかね?」
神崎はその答えに納得した様にウンウン、と首を縦に振っていたが、ある声が聞こえてそれを中断した。
『…………団長……助けてください…………』
その声はRESの男こと今井修司だった。
「あれっ、今井君? 生きてたんだ?」
神崎は大袈裟に驚いたフリをする。
すると神崎は声を低い物に変えて言った。
「……解ってる? 君のその『お人よしが』が今回の敗因になったって事……」
『…………』
確かにそうだ、今井があの時迷わずに少年を撃っていれば、確かにこんな事にならず、『クラッカー長瀬裕也』をも、仕留める事も出来たのだ。その責任は重い……
神崎の言葉に今井は何も答えられなかった。
「そのお陰でRES1機の損失だ……さてどうしてくれるのかな?」
神崎の言葉からは狂気の色が感じ取れた。
『…………申し訳ありません……私の失態です……』
「ふ~ん、まあいいや……」
と言いながら、彼は愛用のPITを取り出す。
「……知ってる? RESのプログラムは確かに消えてるんだけど、外部にプログラムがあれば遠隔操作で動かせるって事を?」
『…………?』
今井は始めその言葉の意味が分らなかったが、その言葉の真意は直ぐに解る事になった……
「……例えば、こんな感じにね!!」
その瞬間、モータが唸る音と共にグキッ、という鈍い音と男の絶叫が響いた。
『ギャァアアアアアーーーーーーーーーー!!!!』
その方向には1機のRESがあった。だが、その腕を見ると人間ではあり得ない方向に曲がっているのだ。
『……っあ……だっ団長……なっ何を…………』
男の悲痛な声が聞こえる。だが神崎は、
グキッ、
『ぬぁぁああああっーーーーーーーーーー!!!!』
更に膝を人間の可動域の限界より外に曲げたのだ。
『……っあひ…………だっ……団ちょぅ……』
今井の耳を塞ぎたくなる様な呻き声が聞こえる。それでも神崎は、
「……僕、前に言ったよね? 使えないヤツに興味無い、って!!」
容赦をしない。
『……だっ団長……た……助けて……』
今井は必死に訴えかける。しかし、
「……アイツはやらなかったようだけど…………知ってる? そのRESの動力が何なのかを?」
『…………っあ……』
今井に答える余裕など無い。
「……正解はCNFF(Cold nuclear fusion furnace《低温核融合炉》)、つまり核融合だ。通常は毎秒0.01gずつ分けて核融合させてるんだけど……それを一気に100倍にしたらどうなるかな?」
『……っな……!!』
……今井は見てしまった……そう言う神崎の眼が玩具を手に入れた子供の様に純粋な眼、だった事を……ただ、1つだけ違うのはそれが純粋な狂気だった事だ……
「じゃあ……さようなら……今井君……」
神崎が断罪のボタンを押す。
『……止めてくれ……』
今井が最後の哀願を試みる。
『止めてくれーーーーーーーーーー!!!!』
……それが今井修司の最後の言葉になった……
ドゴァン、とRESは巨大な衝撃音と火柱を上げこの世界から消滅したのだ。
衝撃で路地に面したビルのガラスが砕ける。だが、それが地面に落ちる事は無い。
爆風で破片がビルの内側の方に吹き飛ばされたからである。
だが、その破片で怪我をする人間は居ない。
何故ならこの区域は既に神崎錬のテロリストグループによって占拠されているからだ。
爆風で様々な物体が飛び交う中、神崎錬は変わらずにそこに立っていた。その頬には破片が飛んで来て怪我をしたのであろう、一筋の傷があった。
燃え上がるRESの残骸を、神崎は眺めていた。すると
「相変わらずですね、神崎さん」
と、後ろから声をかけられた。
神崎は振り返りもせずに答える。
「何のようだい? 霧峰君」
するとその霧峰と呼ばれた男は、
「いいえ、ただこの区域の処理を終えた事の報告に、ですよ」
と答えた。
だが、付け足すようにある事を言った。
「ただ……酷いですね……ここまでする必要があったんでしょうか……?」
すると神崎は、
「なに、ただ単に使えないヤツを消去しただけさ……僕は使えないヤツが大嫌いだからね……」
と言った。
霧峰はやれやれ、と首を横に振る。
すると神崎は、
「その点君には期待をしているからね。僕の右腕なんだから」
と言った。
それまで無表情だった霧峰の顔が、『はぁ~子供のお守は大変だ……』と言いたげな表情に変わる。
それを見た神崎は、
「……また、少し迷惑をかけるよ……ちょっと久しぶりの大物がかかったみたいなんだ……」
と言う。
霧峰は、
「……分ってますよ……あなたの独断先行は、今に始まった事じゃ無いんですから……」
と、諦めた表情で言った。
「ありがとう、久しぶりに本当に楽しめそうだ!!」
と、彼は歩き出しながら頬を流れる血を手で拭うと、その手に付いた血を舐める。そして彼はこんな事を咆哮する。
「……待って居てくれよ、長瀬裕也っ!!」
電脳狂戦士神崎錬、その瞳には、全てを飲み込む狂気が渦巻いていた。
……序章だけで合計2万文字……先が思いやられます……




