序章~事件の発端と不幸体質~
初投稿です。誤字脱字がありましたらどうぞ。
PM 0:24
少年は走っていた。
建設から10年経ったというのに真新しさが残るビルの外壁が連なる路地を、少年は走っていた。
特に何も変哲もない風景なのだが、辺りは妙な気配に包まれていた。
静か過ぎるのだ。
いくら通りから外れた路地、とは言ってもこんな昼時に少年の足音しか聞こえないなんて事は、普通はありえ無いだろう。
それに少年の様子もおかしかった。
10分間、少年は走り続けているのだ。
別にそれだけなら何もおかしい所など無いと思うが、その走り方はどう見ても全力疾走の物なのである。
全力疾走で10分間、これがどんなに辛い事か実際にやってみれば解る事である。
現にその表情は苦悶で歪んでいるし、只ならぬものさえ感じ取れる。よく観察して見れば、恐怖で歪ましているとも考えられた……もし彼女との待ち合わせに遅れて行くとしても、そこまで顔を歪ますことはないだろう……まあ、その彼女がよっぽどの鬼なら分らんでもないが……
……とにかく、様子がおかしいのだけは確かだった。
だが、何がこの路地で起きているかは解らない……少年は何か呟いているが息切れしているため、
「……な、っぅは……ぜ……」
という風にしか、聞き取る事ができない。
これだけ事で、傍目からは何が起こっているかを判断するのは難しかったのだが、それは直ぐに解かる事になった。
突然、空気を切り裂く様なシュッ、という音と共に、少年の足元の路面が爆発したか様に軽く吹っ飛んだのだ。
少年はバランスを崩すも構わず走り続ける。
少年はその瞬間、クソッ、と言葉を漏らす。
聞こえたのは銃声。
起きた爆発は銃弾の衝突。
もう何が起きているかは誰の目から見ても分るだろう……
この路地で行われているのは命のやり取り、それも一方的な虐殺、と呼べる物だ……
そう、少年はその背後で行われている惨劇から必死に逃げているのだ。
例えば、虐殺と言ったら南京大虐殺、ユダヤ人大虐殺、天安門事件などが挙げられるが、それらの殆どに軍が関わって行われている。だが、もし軍の攻撃であるとすれば、町中がパニックになって無ければおかしいし、第一、現在そんなことをすればあっと言う間に国際非難の対象になってしまう。だからこれが軍の攻撃である可能性は薄い。
では、一体何なのだろうか。
少年も後ろで虐殺が起きている事は解っていたが、一体誰が何の目的で行っているかは解る筈も無い。
「ーーっ!」
今度はシュボボボッ、と空気の抜ける様な連射音が響き、少年の足元を連続して破壊していく。黒に近い青色で出来た路面は、発泡スチロールの様に砕かれ、破片が宙に舞う。
(避けられないっ!)
咄嗟にそう判断した少年は、地面を蹴り横の通りに飛び込むようにして避ける、ドサッ、と言う音と共に少年は頭から地面に突っ込む。咄嗟に腕で頭はガードしたが、全身を打ちつけた為に、ありとあらゆる所が痛む。だが気にする余地はない。恐らく、すぐ其処にさっき少年を銃で撃った人物がいる筈だ。少年は呼吸を整えながら思考を廻らし今、この場の状況についてどのように対処すべきか考える。
「軍の攻撃、んな訳が無いか…………無差別殺人……だったら路地でも騒ぎになってなければ、ハァ……幾らなんでもおかしい……それに俺が狙われてから10分、ハゥア……騒ぎになってもいないし警察も着いた気配すらない…………だったらこれは……この状況一体ーー」
と少年が呟いた瞬間、
『テロリズム、って奴だよ……それ位分るだろ?』
「っ!?」
前からスピーカーで拡声せれた声が響く、少年は恐る恐る顔を上げる。するとそこには背丈が3mはある人型の何かが立っていた。だがそれは人型の割に頭部が大きく首も無い、肩幅はやけに広いが腰にいくにつれて狭くなる。足は腰の真横にくっ付けた様に取り付けられ、常に膝が曲がっている。そして手には黒光りする……ゴルフボール位の大きさの物体を吐き出せる穴が付いた縦長の物体を……人型ではあるが、人間とはあきらかに違う異彩を放っている……表情は無かったが、まるで少年を嘲笑っているかの様だった。
正体は強化外装甲、つまりパワードスーツだ。それが100キロは有ろうかという機関銃を構えて立っていたのだ。
『悪りぃけどこっちも暇じゃないんだ、これ以上人質を取っている時間が無くてな……運が悪かったと諦めてくれ』
いきなりの死刑宣告である。
黒光りする機関銃は日の光を反射し、何とも言えない様相を呈していた。
殺される。
それに対する恐怖の感情が、体中を支配していたが、少年の思考は今までに無いほど活性化していた。いわいる走馬灯ってヤツなのだが……
だがここで、頭が真っ白にならなかった事は褒めるべきだろう。
(どうする? どうする? またさっきの路地に戻る? いや……そうすればさっきの奴の弾の餌食になる……目の前のRESを突っ切る? ……その前に潰れたトマトになるか……じゃあどうする? こんな状況じゃ命乞いも交渉も通用する訳が無い! ……どうする? どうする? ……仕方ない……ここは一か八かだ!)
そして少年は賭けに出た。
『じゃあ……お別れだ』
そう言って目の前のRESはガシャ、と音を立てて巨大な銃を再度構える。その光景はさながら、映画の中のワンシーンだったが、それはスクリーンを飛び出し少年にとっては『目の前の現実』となっている。 少年はこの脅威を何とかしない限り、数秒後にはトマトに向かって拳銃を撃ったかのように弾け飛び、肉の塊になるだろう……
はっきり言ってあまりにも時間は無かった。
こんな状況で考え出される策など普通はたかが知れている。
そう……普通ならだ。
そしてモーターの駆動音が唸り、ペットボトル位の大きさは有ろうかという巨大な引き金を引き、惨劇が今、起ころうとした瞬間、
「っまっ待ってくれ……」
と少年はRESに向かって話しかけたのだ。
かろうじて銃弾は、その直径5cmはある巨大な穴から吹き出されることは無かったが、少年に対する脅威が過ぎ去った訳ではない。
『……何のつもりだ? ……言っとくが命乞いは受け付けないからな……』
とRESは地獄から響いた様な低い声で返答する。
恐らくテロリストは、命乞いや交渉の類が来ると思っていたのであろう。だが……それは直ぐに裏切られる事になった。
少年は続けて軽い調子でこう言った。
「いや~昔っからRESには興味があったんだよね……だから最後に1枚だけ写真を撮らしてくれ!」
『……はっ!?』
……間抜けな声が昼の路地に反響した。
>>>>>>
『……何のつもりだ?』
テロリスト今井修司は困惑していた。
てっきり俺は目の前の少年から何らかの交渉が来ると思っていたのだが、少年は、
「いやっ、別に良いだろうが! ただ好きな物の写真撮って何が悪いんだ!? それとも何か? お前、この『ミリタリーマスター』と呼ばれ続けた俺の趣味にケチつけるつもりかぁ!?」
と続けた。俺は余計に困惑した。仕事柄、この手の人間と接する機会が無かったから、というのもあるが……
とにかくここは落ち着かせるのが先決だろうな……
俺は何とか少年を落ち着かせようと説得を試みるが、
『……いっいやそれはどうでも良いだろう……第一、お前、写真撮っても死ぬだろ?……別に要らないんじゃないのか? それに今はそんな問題じゃ「気分の問題だッ! 撮って死ぬのと撮らずに死ぬのじゃ大違いだっつの! こんなRES前にして写真撮らずにして死んだら、化けて呪ってやる!!」無いのか……』
……失敗してしまった。しかも額に汗を流して……熱入っちゃったかな……これ…………とっ、とにかく、少年は何故だか知らんが自分の世界に入ってしまったようだ……それに
俺にはサッパリ解らない。普通こういう時は命乞いするのがセオリーじゃないのか!?
俺にはサッパリ解らない。何故そこまで写真を撮る事に執着する!?
そう考えると目の前の少年が一体何をしたいかが、まるで解らなくなってしまった。
そして何故銃を突き付けられてコイツはニヤニヤと笑っていられる!?
今井修司は狭いヘルメットの中で大量の汗を流していた。
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俺は震えていた。
そりゃ目の前に機関銃突き付けられて、『何それ? 美味いの?』と、言ってる奴がいたら俺はそいつを病院に連れていく……精神科の…………
……取りあえず俺は手だけでも自由に動かせる状況を作りたかった。それはすなわち携帯情報操作端末(Portable information control terminal)、つまりPITを取り出して『クラッキング』が出来る様な状況を……
だから俺は『オタク』の演技をした。『暴走した『オタク』は止めるのに手こずる』というどうでも良い現実をこの19年間で悪友から学んできたからだ。
だから『RESの写真を撮るためにPITを取り出す』、という自然な動作でPITを取り出す事が出来れば勝算はあった。だがそこまで行く過程が恐ろしかった…………
いつ銃で撃たれてもおかしくない。
いつ相手が痺れを切らして撃って来るかも解らない。
そんな思考が頭の中を廻って止まらなかった……
何とか太ももを抓りながら演技を続ける事が出来たが、……人間って限界まで恐怖を感じると笑いそうになるんだね……初めて経験したよ……
……あっ、ヤバい……抑えろ……ここで笑ったら……でもそう考えると余計に止まらないや……
「ふっふふふへへへへへへへへあはははははははあははははははははははははははははははははは」
駄目だ…………止まらない……
ああ……ヤバい……RESの人こっちを怪奇の目で見てるよ…………もう俺の人生オワタか……
俺は既に物凄くネガティブな思考のドツボにハマって、デジャブを感じていたが……俺の考えとは裏腹に
『……何がそんなにおもしろい?』
んんっ? そりゃ死にかけて恐怖で笑いが止まらないだけだっての。
「ああっ、こんなに良い機体を撮れる事が嬉しくてさ……つい」
…………俺、まだ演技続けるか……っていうか誰? コイツ?
『…………いいだろう……』
「ふぇっ!?」
一体何がいいの!? ワッツ、ハープン?
『……どうした……写真を撮っていいと言っている』
…………ジーザス……奇跡起きたよ…………
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俺は目の前の少年に写真を撮る事を許した。
いや……これは死に行く少年の最後の願いを聞いただけで決してこの少年の……なっ何ていうか恐怖つうか、おぞましさって言うか……執着心って言うか…………とっとにかく押し切られた訳じゃ無いからな! そっそうだその通りだ……!
……まあっ撮る事を許したのはいいんだが……やけに注文が多いな、コイツ……
コイツが急に軽い調子で
「おお~、どうもどうも~おおきにな」
って言いながらPITを取り出した後……
「そこもうチョイしっかり機関銃構えて~」
「左ひじ、もっと閉めて~」
「んん~? もうチョイ左足前かな?」
てな感じのがやけに多い……
…………それに文句を言えない俺は律儀なのか?
…………はぁ……いっその事撃っちまおうか? ……いや、今撃つと呪われそう……マジで……
『……まっまだなのか……?』
「いや~~もう少しですよ」
……コイツ、一体それを繰り返したと思っている…………
『なあっ、そろそろいい加減に「黙れ! そっちは命狙って来てんだろうが!! それに見合った対価くらい払えよ!!」……分ったよ……』
……何なんだコイツ? 何様のつもり何だか……死ぬ間際の癖に…………って、あれ? ちょっと待て、コイツ、写真が命の対価でいいのか? どう考えてもつり合う訳無いと思うんだが…………こんな事気にした方が負けだと思うが、お前、人生ホントにそれで良いのか!? こんな事で命落と……はっ、まっまさかコイツ、俺そんな気分にして、罪悪感で押しつぶすつもりか!? 今までのはその為の誘導だったのか!? でっでもそんな事でどうにかなると本気で思っているのか!? 無い無いっ、一応俺はテロリストだぞ……そんな程度の事でテロリストをくだせる訳無い!
俺が思考のドツボにハマりかけた時、
「ではでは~いきますよ~」
と少年から声がかかった。
タイミング悪っ!? でっ、でも……やっ……やっと終わったか……もう5分は経ってるな……でもこれでやっと解放されるか…………
そう思うと妙な喜びと何故か罪悪感があった…………
最後に少年は画面をピコピコ押しながらPITを構えて
「はい、チーズっ」
と言った。俺は同時に安堵のため、溜息をついた。
だが、ここまで、俺は自分が嵌められた事に気付く事は無かった。
少年が決定ボタンを押したその瞬間、
『っな!?』
いきなりブォン、と音を立ててRESの電源が落ちたのだ。
『ーーッいっ一体何を!?』
突然の事に慌てふためく俺に対し少年はそれが当然の事の様に、
「馬鹿めっ、『知らない人の言う事は信じちゃいけません!』って、その歳にになるまでお母さんに習わなかったのか!!」
と言った。
そんな馬鹿な!?
少年は更にRESに向かってドロップキックを食らわしてくる。電源が落ちているため、バランスを直す事の出来ないRESはそのまま後ろに倒れこむ。
ズゥン、と音を立て俺ごとRESは倒れた。
今気付いたが、何て卑劣な奴だ!
『ーーっひっ卑怯な!』
俺はそんな叫び声を上げるが……無駄だった。
この時少年の顔は既に悪魔の様な笑顔になっていた。
「卑怯? オイオイ、そんな事言ってる奴が戦場に出る資格があると思ってんのか? これは一応、命のやり取りだって事を忘れてるのかっ!」
うっ、嘘だろーーーーーーーーーー!! たっ確かにその通りだが、さっきまであんな馬鹿丸出しだった奴の言うセリフじゃねぇだろ!!
そう心の中で絶叫すると、何故だか目が潤んできた……
「ダイダイよ~そっちが油断して俺にPIT出させたのが問題だろ~、そのおかげでこっちはその間に『クラッキング』出来たけどよ……言っとくがそのRES、メモリーフォーマットしちまってるから工場にでも持ち込まねぇ限り動かないけど」
そっそんな馬鹿な!! このRESのアクセスコードはただでさえ侵入が難しいのに……しかも今は1分ごとにアクセスコードが変わるモードA(mode Attack《戦闘中》)だ! そんな事をバレずに……しかもPITで行えるなんて団長並……いや、以上かもしれない……
この時俺は今までに味わった事の無い恐怖に包まれていた。
この少年の言動や行動は以上に怪しかったが、その怪しさ故に! 俺は冷静な判断が出来なくなってしまっていたのだ! だから『クラッキング』しているだなんて解る筈も無ったのだ! ……しかも
仮定しよう。あの時命乞いをしていたら…………俺は迷わず銃をぶっ放していた……
仮定しよう。あの時奇妙な笑みを浮かべ無かったら…………俺は恐怖を感じず、呆れて少年を肉塊変えていただろう……
だから俺は少年の『クラッキング』の腕前もさる事ながら……少年の演技力の方に恐怖を感じていた……
少年の行動は全部この為の布石っ! あの笑い声から! あの汗までだ!
俺はこの瞬間、自分がどんな怪物と対峙していたのかと思うと冷や汗が止まらなかった。
恐らくコイツは団長並みの化物だ! いや、もう同レベの……下手するとそれ以上かもしれない……
「おやおや、どうしましたか? 今になって怖くなりましたか? 何なら、怖くない様に一瞬で爆破して上げますが?」
……もうはっきり言う、誰でもいいから助けてくれ……
コイツをどうにかしてくれーーーーーーーーーー!!
「そいつは困ったね」
「っ!?」
俺の心の絶叫が届いたのか、少年の後ろには何時の間にか1人の男が立っていたのだ。その男は童顔の割に体から感じる気に、黒いモノを持っていたが……
俺はその男を見て……
『……団長…………』
涙腺から液体が出て止まらなかった。
>>>>>
…………はぁ……
何かよく解らないけど……取りあえず助かったのかな?
……何か、自分でも……怖い…………
「おやおや、どうしましたか? 今になって怖くなりましたか? 何なら、怖くない様に一瞬で爆破して上げますが?」
……一体俺のどこにあんなドSの長瀬さんがいるんだろう……? ちなみに爆破はハッタリだ……
……はぁ……………………
……取りあえず……どうしよう……?
流石にRESの中、三十路近そうなんだけど、今にも泣きだしそうだし…………
流石にやり過ぎちゃったかな……?
……もういいや……早く逃げよう…………
「そいつは困ったね」
「っ!?」
俺は逃げようと思ったら、いきなり後ろから声を掛けられたのだ。
そこには20代前半と思われる少し童顔の男が柔和な笑みを浮かべて立っている。体からはやけに黒いモノを感じたが……不思議と俺に近いモノを感じてしまった……
更に男は続けて、
「そのRES、いくらしたと思う? ……何と1万ドルだよ! 家を2軒買ってもお釣りが出る位の金額なんだけど……さて、一体どう責任とってくれんのかな?」
と言い、男はマシンガンを構える。
「っなっ!?」
「君も詰めが甘いよね~、さっきから散々後ろから銃で撃ってたんだけど……僕が後ろから来ると思ってさっさと逃げれば良かったんじゃないかな? 『クラック』さん?」
「……っな……」
コイツ……何で俺の事……
「その通り名はこの業界じゃ結構有名だからね……第一あの短時間でRESのアクセスコードをPITで解く、なんて芸当が出来るのはこのターミナルじゃ、君と僕を含めて3人しか居ないだろうからね……」
「……お前、電脳狂戦士か……?」
「ご明答……でもその名前あんまり気にって無いんだよね……それに君の方が僕より有名だろ?」
「……別になりたくてそうなった訳じゃないんだけどな……」
「ふぅ~ん、そうなんだ……でも結構派手な事してたじゃない……例えば都市間交通占拠事件とか? アレがきっかけで君は『電子の守護神』って呼ばれる様になったんじゃ無かったっけ?」
「……アレはああしなきゃ俺は今頃墓の中に入ってたと思うぞ? ……後、俺流石に後60年は生きたいと思ってるからな? 一応……」
「へえ~そうだったんだ……でも噂どうりの実力だね……メモリーの全データを消去しながら同時にコピーした偽の表示画面をリアルタイムでディスプレイに映し出す…………はっきり言ってうちに欲しい位の人材だよ……でも残念だ、敵同士なんてね……」
そう言って男は引き金に指を掛ける。
「オイオイッ、チョッと気が早いんじゃ無いか? まだ言う事あるだろ?」
「……別に早くないよ……『善は急げ』っていう諺があるじゃない? それに君ほどの実力者を放置して置くと後々計画に支障が出そうだなんでね……『若い芽は早めに摘んで置く』とも言うでしょ……」
男の顔からは冗談というモノを一切感じない……本気だ……
……まっマズい何とかしなければ……
「っちょチョッと待て! ……取引しないか? ……アンタの顔は子供みたいで綺麗なんだからチョッとくらい慈悲の心を……」
するといきなりピキッ、と周りの空気が一気に張り詰める。更に目の前の男から感じる黒いモノが強くなり、男の肩がワナワナ、と震え始める。
あれっ? もしかしてマズか「ねえっ!」「はっはい!」
「僕が一番嫌いな事って知ってる?」
「いっいいえ!」
「それは…………」
まっまさか……俺の不幸フラグか!?
「それはね…………!」
……さっきより低い声になってる……墓穴掘っちまったか……?
「『子供みたい』って言われる事なんだよーーーーーーーーーー!!」
……ややっやっぱりそうか……駄目だ……俺のフラグ立っちまった……
「フフフッ……じゃあ、さようなら……『クラックさん』!」
男の目に狂気の色が走り、引き金に力を入れ始める。
駄目だ! コイツの名前の由来って『自分の容姿の事を子供関係の言葉で言われると狂戦士になるらしいよ?』っていうとんでもないくだらない内容だった!! すっかり忘れてた! これって……オワタか?
と思いながら、俺はこの19年間起こった事を、ガチで走馬灯を見ながら思い出していた。
…………俺は死ぬのか……思い残せば短い人生だったな…………あっ、昨日買ったばかりのゲーム、まだやって無かったな……クソッ、楽しみにしていたのに……
「それは困ったわね」
「「ーーっな……」」
いきなり横槍を入れられた二人は声のした方向を同時に見る。
そこには肩くらいまである黒髪を頭の後ろで束ね、同じく黒の戦闘服様な物に身を包んだ高校生位の眼光が鋭い、気が強い系の美少女が立っていた。
2人とも同じ様に驚いた風に見えるが、どちらかって言うと男はいきなりその人物が現れた事に驚き、少年はただ色んな事が起き過ぎて、頭が混乱している様だった……
「……何やってんのよ、『クラック』」
「…………」
「……相変わらず重要な時に答えないわね……」
……それはただ頭が混乱しているだけなのだが……
「……はぁ、どうせアンタの事だからその不幸属性とやらを、思う存分発揮しているんだろうけど……」
……悔しいが、それに対しては言い返せない……
そして彼女は一通り状況を把握すると、
「ねぇ、そこの童顔の人」
と、男に向かって言った。
ピキッ、とまた空気が張り詰める。気のせいか、さっきより黒いモノが増えた気がする……
またやっちまったよ……この人は……
俺があちゃー、と考えていると彼女は、
「ソイツはヘタレだけど一応ウチのメンバーだし、実績も出しているし……悔しいけど借りもあるから死なれちゃ困んのよね……だから」
と言い、少年に銃を突きつけている男の方に向きなおった。
……というか俺の存在って『一応』なんだ……
「だから? 何です?」
と男が苛立ちを込めて聞き返すと、少女は唇の端を吊り上げ言った。
「アンタを倒させて貰うわ!!」
これを合図に戦闘が開始された。
これが『第3ターミナル新東京』で起こったある事件の幕開けだった。




