『交差する視線と、揺れる空気』
秋の風が少しずつ冷たさを帯びてきた放課後。旧図書室には、いつものように四人の姿があった。窓から差し込む斜陽は日毎に角度を増し、古い木製の床に長い影を落としている。
「ねえ宮川くん、この英語の長文ってどう訳せばいいのかな? 幸星に聞いても『自力でやれ』ってすごく冷たいんだもん」
佳鈴がテキストとノートを広げながら、諒の顔を覗き込む。身を乗り出す佳鈴の素直でまっすぐな瞳と、屈屈のない明るい距離感。いつも自分を頼って無邪気な笑顔を向けてくる佳鈴の雰囲気に、諒は一瞬どきっとしながらも、「ここはね……」と丁寧に解説を始めた。彼女の存在は、どこか眩しく胸の奥をくすぐるものがあった。
一方、少し離れた席では幸星が美月のノートを見つめていた。
「角谷、ここ……すごく綺麗にまとめてるんだな。丁寧でめちゃくちゃ見やすいわ」
「本当? ありがとう、横田くん。そう言ってもらえると頑張ってまとめた甲斐があったな」
美月が照れくさそうに微笑むと、幸星は柄にもなく少し耳を赤くして視線を逸らした。普段は佳鈴に対して雑な対応や軽口ばかり叩いている幸星だが、美月の持つおっとりとした柔らかさや、誰に対しても分け隔てなく向けられる優しさには、密かに惹かれるものを感じていた。
「……横田くん、よかったらこっちのページも見る?」
「あ、ああ。……悪い、見せてくれ」
距離を縮めてノートを覗き込む幸星と美月。そのふたりの雰囲気を、佳鈴に勉強を教えながらも諒は密かに気にしていた。幸星が美月に向ける視線が、ただの友人に対するものとは少し違うことに気づいてしまったからだ。胸の奥で、小さな焦りとモヤモヤとした感情が渦巻き始める。
そして美月もまた、自分と横田くんのやり取りよりも、佳鈴の隣で親しげに教える諒の姿をじっと見つめていた。佳鈴の弾けるような笑顔と、それに優しく応える諒の側顔。
(諒は、東さんのこと……どう思ってるんだろう)
お互いに想いを確かめ合い、誰よりも近い場所にいるはずなのに。新しく加わったふたりの存在によって、図書室の中に流れる空気は少しずつ、複雑に揺れ始めていた。




