『賑やかな図書室と、ふたりの距離』
放課後の旧図書室に、今までにはなかった賑やかな声が響いていた。
「ちょっと幸星! ここ答え違うじゃん、ちゃんと計算してよ!」
「叫ぶなよ佳鈴、図書室だぞ。……まあ、誰もいないけどさ」
新しくやってきたのは、同じ学年の東佳鈴と横田幸星だった。賑やかで世話焼きな佳鈴と、どこかつれない態度を見せつつも佳鈴に付き合う幸星。二人が加わったことで、静かだった図書室は一気に明るい雰囲気に包まれていた。
「諒、美月ちゃん! ここの問題さ、教えてくれない?」
「あ、うん! ええとね、ここは――」
美月が佳鈴のノートを覗き込んで教え始める。その様子を、幸星は少し離れた席から呆れ顔で見守りつつ、諒に向かって小さく苦笑いを浮かべた。
「なんか急に押しかけちゃって悪いな、宮川」
「いや、別にいいよ。賑やかで楽しいし」
言葉を交わしながら、諒の視線は自然と美月に向かう。
佳鈴と楽しそうに話す美月の横顔を見つめていると、不意に美月がこちらに気づき、ふっと柔らかく微笑んだ。そして、佳鈴たちの目が届かない机の下で、そっと諒の制服の裾を指先で引っ張ってくる。
(――みんながいるけど、諒は私の特別な人だよね?)
言葉には出さないけれど、伝わってくる小さな主張。前回の図書室で想いを確かめ合ってから、二人の間の雰囲気は確実に変わっていた。大勢の中にいても、お互いを意識する視線や、隠れた触れ合いが二人だけの合図になっている。
佳鈴が「あ! このあとみんなでアイス食べに行かない?」と提案すると、幸星が「俺はパス。佳鈴と二人だとまた荷物持ちにされる」と冗談めかして断り、佳鈴が「なによそれ!」と怒ってみせる。
そんな二人のやり取りにクスリと笑いながら、美月は諒の手に自分の手のひらをそっと重ねた。佳鈴や幸星には見えない角度で、指と指を静かに絡めていく。
「諒、後で……二人で少しだけ遠回りして帰ろ?」
耳元で小さく囁かれた声に、諒は胸の奥が熱くなるのを感じながら、握り返す手にしっかりと力を込めた。友人たちに囲まれた賑やかな時間の中でも、二人だけの特別な領域は、より深く、より確かに育まれていた。




