第18話 最終話
私はアンドレと顔を見合わせた。
そして微笑んだ。
◇
その夜はたくさん話をした。
そして久しぶりに母と一緒に眠った。
「ごめんね」
私は言った。
「まだ五十歳にもなってないのに、おばあちゃんにしちゃって」
母は笑った。
「そうだよ」
「知らない間にあんないい人を見つけて」
「子供まで二人も作って」
二人で笑った。
しばらくして、母が静かに言った。
「苦労かけたね、セリーヌ」
私は何も言えなかった。
母も。
私も。
ただ静かに泣いた。
◇
一か月後。
母は正式に私たちと暮らし始めた。
子供たちは大喜びだった。
ある休日。
家族で近くの公園へ行った。
「おばあちゃん、遊ぼ!」
「おばあちゃんは嫌だなあ」
「じゃあ、おばさん」
「それじゃ他人みたいだよ」
「じゃあ、やっぱりおばあちゃん!」
子供たちの笑い声が響く。
私はベンチに座り、その様子を眺めていた。
隣にはアンドレ。
しばらくしてアンドレが言った。
「あの……」
「なに?」
アンドレは少し言いにくそうにしていた。
「君のお母さんに宛てた手紙のことなんだけど」
「届かない手紙だったんでしょ?」
アンドレが固まった。
「知ってたの?」
「十六歳で市役所に勤めてすぐに分かった」
私は笑った。
「宛先がない手紙は、どこにも届かないんだって」
「じゃあ、どうして……」
アンドレは言葉を失っていた。
「どうして、それでも書き続けたの?」
私は少し空を見上げた。
「その時には、もう十年間書いてたから」
風が吹いた。
「母には会えなかった」
私は続けた。
「でも私にはパパがいた」
公園では母と子供たちの笑い声が聞こえる。
「ずっと大切に育ててくれた」
少しだけ間を置いた。
「本当は気付いていたのかもしれない」
「届かないって」
「でも幸せだった」
私は微笑んだ。
「私はそれで良かったの」
アンドレは黙って聞いていた。
「アンドレにも出会えた」
私は母を見た。
子供たちと笑っている。
「そして――」
アンドレも振り返った。
「ママにも会えた」
アンドレは何も言わなかった。
ただ涙を流していた。
私はそんなアンドレを見て笑った。
空は春の色をしていた。
完




