21話
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「マキシ、シュウちゃんを一緒に探して!シュウちゃんに会いたいよー」
マキシに抱きついていた私を突然後ろから引きはがし、そのまま私に抱きついた人物に私は驚いた。
「マ、マティレクス殿下?」
先程の作業服のままぎゅうぎゅう抱きしめられる。マキシも隣で驚きの顔をしたたまま時が止まっている状態で、この光景に釘付けだ。
「マティレクス殿下、どうかされましたか?」
「···やっ·····く···」
すると、彼は私の胸に顔を埋めたまま何かを呟いた。
よく聞き取れなくて、もう一度確かめるようにマティレクス殿下に声を掛ける。
「···レ·カ···や、やっと思い出してくれた」
マティレクス殿下は小さな声で言った。
「えっ?」
私にくっついて離れないマティレクス殿下を、マキシが無理やり引きはがすと、涙を流しながら私の顔を見て「レイカ」と呼んだ。
私は心臓が跳ね上がる。
「えっ?···シュウちゃん?」
「そうだよ。···シュウヤだよ。レイカ」
☆
その後、私たちは買い物を素早く終わらせた後で馬車に乗り込んだ。馬車の中には、私とマティレクス殿下、マキシの3人だけで乗る。
「マキシ、馬車に防音の魔法をかけてもらえる?」
「うん。分かったよ」
そして、マティレクス殿下が私の顔を見て、また泣き出した。
「な、何から話をしたらいいのか···とりあえず、順に話をすると――」
前世で私たちは、車にはねられて死んだ。私は打ちどころが悪くて一瞬だったが、シュウちゃんは救急車が来るまでは意識があったらしい。抱きしめた私の体を離さずに最後まで一緒だったと···。
「次に目を開くと赤ん坊だった。それが今の俺だった」
何年かして、王宮から外の世界に出られるようになってからだがレイカを探してたという。
「そしてレイカを見つけたんだよ。王宮で···」
その日はルキの婚約者を選ぶために、たくさんの令嬢が王宮の庭園に集まってお茶会が開かれていた。
シュウちゃんはコッソリお茶会の様子を見に庭園へと足を運んだ。すると途中の茂みの下で、一人の令嬢がゴソゴソと何かを探しているみたいだった。木の陰から様子を見ていたんだ。そして、そこにルキ兄様が現れた。
ルキ兄様が話しかけると、その娘は幸せを探してると答えたんだ。そしてそれは、四枚の葉っぱだと言っていた。
「その会話を聞いたとき、俺はすぐに思い出したんだよ」
前世の施設の庭で、子供たちみんなで四つ葉のクローバーを探しをやったこと。見つけた子供には幸せのクッキーを1枚多くおやつで貰えたんだ。
更に2人の会話に耳を傾けていると、「頑張ったご褒美が幸せなの」とその娘が言ったんだ。それは、いつもレイカが小さい子供たちに言っていた頑張る呪文の言葉だった。
「俺はすぐに、レイカとルキ兄様がいる目の前の2人のところへ行きたかった」
でも、レイカが覚えてなかったら?と考えると足が前に進まなかった。
その後、レイカとルキ兄様は色々な約束をしていたから、今日じゃなくても様子を見てからレイカに話しかけようと思ったんだ。
レイカが母親に呼ばれていなくなった後、ルキ兄様が四つ葉のクローバーを見つけたんだ。そのときに木の陰から出ていき、ルキ兄様に「しおり」にすることを勧めたんだ。
ルキ兄様は「今すぐしおりにする」と急いで部屋に戻っていった。
その場にひとり残されて、懐かしさに自分も四つ葉のクローバーを探したんだ。そして1つだけ見つけたのだがそれを引っこ抜いた次の瞬間、その場所には何もなくなった。クローバーがなくなったんだ。
でも、間違いなく自分の手にあるものは四つ葉のクローバーだった。
「それから俺は、たまにクローバー探しをするようになったんだ」
しばらくすると、ルキ兄様に婚約者が出来たと侍女たちが騒いでいたのだが、後からレイカではないことを知った。その当時は、ルキ兄様が父上と母上に何度も何度も「私のリュシーは別人だ」と言っていたから、レイカのこの世界での愛称がすぐ分かった。
その後、宰相がたまに礼儀作法を見てくれるようになった。その中で宰相の娘の愛称を知ったんだ。宰相は娘の自慢話が大好きな人で、毎回レイカの話を聞くのが楽しみだった。
ある日、回廊で宰相に会ったときにバスケットを両手で大事そうに抱えていた。甘い香りがする何かを持っていたんだ。
宰相の後をコッソリついて行った先は厨房で、料理長にバスケットから何やら取り出しそれを味見だと言って食べさせていた。
料理長が「初めて食べる菓子だが、中々に美味しい」と宰相に告げると、娘が作った菓子だといった。その言葉に居ても立っても居られず、すぐさまバスケットを宰相から奪い中に入っている菓子を見た。
それは、レイカがたまに牧場レストランで作っていたシュークリームだった。すぐ分かった。だって、小さかったから。施設の子供たち全員に配るにはシュークリームを小さくしないと数が出来ないためだ。
「そして宰相からは叱られたが、レイカのシュークリームをゲットしたんだ!更に、次回からの味見には参加する特典までつけてもらった」
たまに厨房に誘ってくれる宰相からは、毎回レイカの将来の夢を聞かされた。菓子職人になるのは、前世でも夢だったのを知っていたから頑張っているのが知れて嬉しかった。
そんな中で、あの妊娠騒動だ。
父上と言い争うルキ兄様の姿を見て思った。ずっと約束を守るために頑張ってきた、四つ葉のクローバーを持つルキ兄様。
「ルキ兄様なら、レイカを世界一幸せに出来るだろうって。俺がレイカにしてやれることは今だと思ったんだ」
そして、父上とルキ兄様の2人の会話に割って入った。
「では、私が王太子ですね。父上、貴族たちに通達する際は私も同席しますね。心配しなくても大丈夫ですよ、私が説き伏せますから」
しかし、レイカを取られたような淋しさがそれと同時に込み上げてきて、その場からすぐ離れたかった。
「それと···留学の件、宜しくお願いしますね」
他国にならクローバーが生えているかも知れないと、前世探しをしたくて前々から留学を希望していたのだ。
シュウちゃんとしてレイカにしてやれることは、これが最初で最後だったから。
ルキ兄様とリュシエル様の婚約を聞いたときは、本当に嬉しかった。
「レイカ姉さん。今世初の作品、シュウヤからの最後のプレゼントを受け取ってほしい」
レイカが幸せになれるよう、祈りを込めて作ったのだと渡されたそれは、不格好に切り取られた四つ葉のクローバーが愛らしい、薄いグリーン色の切子グラスだった。
「レイカは知ってるかな···多分、この世界にクローバーは存在しない。どこを探しても見つからなかった」
そういって、シュウちゃんが淋しそうに目を伏せた。
「しかたがないなー。大サービスだよー。マティレクス殿下、僕の手の上に殿下の手を乗せてみてくれますか?」
言われた通りにマティレクス殿下の手がマキシの手に置かれる。
「手の平に乗っている、その葉っぱを想像してみて下さいねー。いいですかー。はい、ハンドパワーで出来上がり」
···す、すごい!四つ葉のクローバーだ
···マキシ、本当は何者?
「リュシエル様、そのジト目を止めて下さいね。今のは他言無用ですからね」
「あ、これ···手品?」
マティレクス殿下は手の上に乗っている四つ葉のクローバーを見て混乱している。
「手品って?なんですか?魔術ですよー」
···ちょっと、ちょっと!
···バラしちゃダメなやつじゃん?
「えっ?手品じゃないの?魔術って?国の最高機密がこ、ここに――」
「マティレクス殿下!それ以上は言っちゃダメ。今のは手品よ!マキシが最高位魔術師なのは秘密ですからね!」
「···リュシエル様ー、言っちゃダメなんだよー」
「わ、分かった。マキシリアンの事は極秘扱いだ。国を滅ぼされかねないからな」
「えー、滅ぼしたら僕の居場所が無くなっちゃうよ」
さらりと話された内容に戸惑いを隠せないマティレクス殿下と、うっかり話して慌ててしまった私。そしてペロリと舌を出してのほほんとしているマキシ。思いはそれぞれだが、3人の秘密が出来てしまった。
「あっ、忘れてた!日が暮れる前には帰って来るようにって、イルキス様から言われてたんだぁー」
···今日は、3人で出かけて
···外では、3人で秘密を作って
···今から、3人で叱られるのね
「大丈夫だよ。3人いれば怖くないって!」
「マティレクス殿下?やっぱりあなたもなの?人の思考が読めるのね?」
「そんな高度な技を持っていませんよ。リュシエル姉様!···前世からずっと変わっていませんね、なんでも顔に出てるのです。ポーカーフェイスを覚えた方がいいですよ」
急いで馬車を走らせるが、ベルトア伯爵邸の別邸に着いたときには、空には綺麗な月とたくさんの星がキラキラと光り輝く時間になっていた。
次話の投稿は、1週間後くらいになります。
遅くなり申し訳ありません。




