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19話



 初めてルキと喧嘩をして仲直りをした次の日、昨夜ルキに抱きつぶされた私は少し遅い時間の朝食を部屋で済ませる。

 バルコニー先から見える庭園には噴水があり、光に反射してキラキラと噴水から流れる水に目を奪われていた。


 扉を叩くノック音にそこから目を離すと、侍女頭のミネルバさんが笑顔で「ファウルドからの贈り物」が届いたと、少し大き目の箱を「ドサリ」とテーブルの上に置いた。

 開けてみると、たくさんの芋と共に1通の手紙が入っていてる。

 要略すると「芋の件よろしく」という内容が書かれていた。



「あっ、すっかり忘れてた」



 笑顔だったミネルバさんは、箱の中身を確認するなり一瞬にして顔面を蒼白にして右手を額に置いた。


「こ、これは···ファイニール辺境伯様のご令息からの贈り物が···ジャリ芋だなんて···」


 更に頭を抱えフラフラしている。


「あの~ミネルバさん?···今、この芋をなんと言いましたか?」


「ファイニール辺境伯様のご令息からの贈り物が···ジャリ芋だなんて?···あぁ、嘆かわしい。リュシエル様、芋娘って思われているに違いありません。これから公爵夫人となられるのですよ!もっと淑女としての振るま――」


「贈り物じゃありません!」


···と、止まった!

···話しだしたら永遠と続くのよね

···エリーに聞いてた通り、大きな声が苦手と



 そう、ミネルバさんは話しだしたら(説教だが)止まらない。以前、クドクドと永遠に続けられる話の(説教だが)途中で眠気を堪えていたがウトウトとしてしまったときがあり、更に話が(説教だが)エスカレートしていったことがあった。

 たまたまエリーがその場に来たから話が終わったが、あれは流石に聞き疲れた。


 カリュザイール公爵家の侍女頭である彼女は、もともとはルドの乳母であり、王子たちと自分の子供を合わせると男児6人を育てあげたスーパーパワフル侍女なのだ。


 実は、そんなミネルバさんの第二子でアルティメンテ候爵令息のジューク様の婚約者であるエリーから、今回は対処法を伝授してもらっていた。


「この芋で、ファイニール辺境領の名物を作るお手伝いをすることになったのです。今、ジャリ芋と言いましたが···ミネルバさんは、この芋をどのようにしたら美味しく食べられるのか分かりますか?」


「こ、公爵夫人となられるリュシエル様が···名物を作るだなん――」


「恩を売るのです!」


·····と、止まった!

·····2回も止まったわ!

·····エリーに報告しなきゃ



「ファイニール辺境伯とは、これから良き長いお付き合いをしたいのです。ミネルバさんの力と知識をお貸しくださいますか?」


「奥様!もちろんでございます」



 今度はミネルバさんの無表情はそのままだが瞳をうるうるさせて、両手を胸の前で握りしめている。明らかに期待を持たれたようだ。

 私はまだ奥様ではありませんよ?それを言ったらガミガミ始まる予感がするので、ここはその体で話を進めるべきね。


「しかし、ジャリ芋は蒸かすか茹でて食べるだけですよ?」


 そしてミネルバさんは、厨房でジャリ芋を調理していただきましょうといい、二人で厨房へ移動した。


 調理場で、料理長に相談するが「菓子にしたことはないです」首を捻って唸っている。

 しかし、ジャリ芋はファイニールの城都でも露店で蒸かした芋が売っているくらい慣れ親しまれたものだと、蒸かした芋と茹でた芋をお皿に載せて差し出された。


「そのまま味をつけずに食べます」


 料理長がそういい、一口大の大きさに切り別けられたものを口に運んだ。


·····熱っ···ん?

·····これは···じゃがいもだ!

·····夢で見たやつだわ



 じゃがいもを名物にするとなると、スイートポテトには使えない。甘くて美味しいじゃがいもの菓子が中々思い浮かばない。料理長も、菓子にするとなると、イメージすら湧かないと頭を抱えている。



「リュシエル様、いますかー?イルキス様が探していますよ?」


 厨房の扉を開けてマキシが私を呼びにきた。


 調理台で、私と料理長とミネルバさんの3人がジャリ芋を食べている姿を見ると「何食べてるんですかー?」トコトコとテーブルまでやってきた。


「ジャリ芋です。マキシは、この芋を使った調理菓子で、何か知っているものはありますか?砂糖を加えたら美味しくならないような···難しいです」


 マキシに問いかけると首を傾けた。


「菓子は聞いたことはないねー。露店では、蒸した芋に塩をかけて売ってるよ。砂糖じゃなくて塩を使った菓子なら合うんじゃん?」


···塩かぁ、しょっぱい菓子かぁ

···あー!ポテトチップスー

···懐かしー!···なつかしい?





 厨房から急いで応接間へ向かう。ジャリ芋を食べていたので、すっかり忘れてしまった。


「あっ、やべっ!イルキス様にリュシエル様を探して連れてくるように言われてたんだ」


 そもそも、ルキが私を呼んだ理由は突然第三王子のマティレクス殿下がベルトア伯爵邸の別邸にやってきたのだが、この後ユミエラ侯爵とも約束をしているので、すぐに応接間にて第三王子のお相手を頼むということだった。


「お待たせして申し訳ありません」


「リュシエルお義姉様!お久しぶりです。突然の訪問で、大変申し訳ございません」


 淡い金の髪にアクアブルーの瞳はルキと同じで、右頬の瞳の下にある泣き黒子がとてもチャーミングな彼はニコリと私に微笑みかける。と同時にツカツカと私の目の前まで歩み寄り、私の両手を掴んだ後で頬を赤らめている。

 しかし、彼の本心は何を考えているのか全く分からない。彼とは2度ほどお会いしたことがあるが、かなりスキンシップの激しい方で、ニコリと微笑みながらピッタリくっついてくる。なのに、私とルキ以外の人には無表情で接している。まぁ、ある意味とても優秀なこの国の王太子なのだが。


「先程、リュシエルお義姉様の今日のご予定は何もないとルキ兄様から聞きました。今から陛下と王妃へのお土産を買いに行くので、お義姉様の仕度が出来次第城都へ出発する予定にしました。急がなくても大丈夫ですので、ゆっくり用意して下さい」


「···はっ?···わ、分かりました。では、一度席を外させていただきますね」


···今のは何?一緒に行こう?じゃなくて?

···行くのが決まってるって?

···それより手!さっさと離さんかい!



「あっ、お義姉様に会えて嬉しくてつい――」


「···では、着替えてまいります」


 部屋から出た後で、閉まった扉に目を向ける。


「ねぇマキシ?···ポッ?て何?···顔を真っ赤にさせていましたが、突然手を掴まれた私の方が恥ずかしかったんだけど?···それに――」


···もしかして?あの返しは?

···まさかね?





 管理の行き届いた城都の東側にある公園では、カラフルな花たちがフワリフワリとそよ風に揺れ、そこから香りが風に乗り私の心を和ませてくれる。


 シートの上には軽食が入ったバスケットと温かいお茶の入ったポットに、膝掛けやクッションまで置かれていた。


「二人で手づかみで食べるサンドイッチは美味しかったですね。次回はリュシエルお義姉様の作ったスイーツも食べたいです」


 ニコリとマティレクス殿下が、顔を寄せて私の耳元でささやいた。


「次回ですか?···分かりました。甘い菓子がお好きなのですね。···そろそろお店を見て回りましょうか」


 そういって絡まれた腕を外して立ち上がると、「もうですか?」と抗議の声を上げられたが、さっさとシートから降りるとお付きの者に片付けを促した。


···買い物に来たはずがランチにピクニック?

···一体何を考えているのやら



 その公園の敷地を出れば、石畳みの道の両側には建物がズラリと並んで馬車や人が行き交っていた。

 中央区に近づくとともに商店が多くなり至る所に露店が出店されていて、中央の噴水広場から北側を見上げた先には王宮と引けをとらない巨大なファイニールの城が見える。 


 私たちは、噴水広場の近くで馬車を下りると城都で人気の布地を取り扱っている店の扉をくぐった。


 中に入ると店員の方が店主を呼びに行き、すぐさま茶色の腰まである髪の活気ある女性が奥から現れた。

 そして接客室へ促され、そこで何点か布地を選んだところで冷たいお茶が運ばれてきた。マティレクス殿下はテーブルの上に置かれたそれを見て――。


「珍しい。···切子グラスだ」


 私は、マティレクス殿下の何気なく言った一言を聞き逃さなかった。


 布地を梱包してくれていた茶色の髪をサラリと肩の後ろへ流した店主が振り向くと


「珍しい素敵なカットが入ったグラスでしょう?こちらは、カットアートグラスという珍しいグラスなのですわ」


 そして、それを聞きながらマティレクス殿下は、目を細めて愛おしそうにグラスを見つめた後、一気に中身を飲み干した。





次話で、今までの夢の謎がとけます

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