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14話

お読み下さり

ありがとうございます。



 レンが王都を発ってから、ひと月は過ぎただろうか。

 カリュザイール公爵の婚約者であるリュシエルの元には、大量のお茶会や夜会などの招待状が届き、毎日忙しい日々を送っている。


 書類の分別管理はセクレイト様がやってくれてはいるが、さすがに返事は自分で書かなくてはならなくて、量の多さに疲弊している。


「リュシエル様、書類仕事は私の業務内容には入っておりません。それをこうしてお手伝いしているのですが···もっと、サラサラッと返事を書いていただかないと後がつかえてしまっています」


「はいはい。分かりました」


···あー。もー。いちいち煩いなー

···手伝うって言ったの自分からじゃん?



「はぁー。やる気あるんですか?」


···セクレイト様!見てれば分かるよね?

···やる気?あるわけないでしょう?



「···こういうの本当に苦手で、返事とか思い浮かばなくて本当に苦手なのです。どうやっても苦手なのです」


「さっ、早く書いて下さい。思い浮かべてもいないでしょう。ダンの言葉を文章にしているだけではないですか」


 目の前ではダン様が、招待状の文章を読み、読み終えたところで返事にする文章を考える。それを口頭でゆっくり伝えられ、それを書く。の繰り返し。


「そうだわ!誰か代筆してくれる人を雇いましょう」


「私の書く文字とそっくりに書ける人よ」


「無理です」「雇えません」



 その後私は、公爵夫人のなんたらかをセクレイト様からブツブツと、ダン様からは公爵家の恥さらしだとガンガン言われ耳が痛い。

 最近、私に対する扱いが酷いような?それでも、手伝ってくれている彼らには何も言えませんが···。

 最終的に返事は書き終わらなかった。残りはまた明日。そして···明日もまた増えているはず。


···コピー機が欲しいなー

···あれ?それって何だっけ?






 私とルキの結婚式まで残すところ後3ヶ月。


 招待状を書くのが、これまた大変な作業だったがやっと書き終わった。

 このところ、茶会の返事と招待状とで忙しく、厨房へは出入り禁止にされていた。


 式に着るドレスは、ルキがデザインしてくれた。が、当日までのお楽しみで···どんなドレスを着せてくれるのか、とても待ち遠しい。


 それと昨日、まずはガトゥーラ領に出店する第一店舗の設計図が出来上がった。


 時間があるときに、私の要望に沿うようなデザイン画を少しずつ描いてくれたルキ。


 領の基調とした白い壁に明るいレンガを足した外見の可愛らしい店になる予定だ。


「うーん。迷うなぁー。店内のカフェスペースは木目調にしたいんだけど、出来れば白をベースに取り入れたいし。販売スペースは白い壁でいいとして――」


「リュシー、披露宴に向かう準備は進んでるかい?3日後には出発だけど、無理なら4日後にしようか?」


 夕食後、部屋で設計図とルキの描いてくれたデザイン画を見ながらくつろいでいると、ルキが湯浴みを済ませて部屋に入ってきた。


 月日が経つのは早いもので、あと3週間後にはファイニール辺境伯のラファイエ様とドゥルッセン公爵令嬢のレンの結婚披露宴が開かれる。


「ほとんど終わっているわよ!ルキこそ大丈夫?準備は間に合う?最近、忙しいみたいだし」


「あぁ、今日であらかた忙しいのも終わりだ。明日は、ファイニール辺境領に行く前に領地の農場とキビの砂糖工場へ顔を出しに行ってくるよ。時間があれば、芋の集荷場も見たいんだ」


···笑える!公爵自ら芋

···あり得ない、聞いたことない、見てみたい



「···連れて行かないよ」


「明日は、早くから邸を出るから連れて行けないんだ」


「私も早起きをすればいいのでは?」


 ルキは私の隣に腰を下ろすと、ひとつため息を吐き、頭を私の肩の上にコテンと置いた。


「俺···今日は早く帰ってきたんだ。最近、ずっとリュシーが寝たあとにしか帰れなかったから」


「うん。毎日、頑張っていたよね」


 頑張った後のご褒美の催促かな?「頑張ったね」と、何度か頭を撫でた。


「夜に顔を合わせるのは7日ぶりなんだよ。気がついてた?」


「うん。夜遅くに帰ってきてたから心配だったよ。私が起きて待っていたら、ルキが嫌がったから、それから先に寝るようにしたんだよね」


「もしかして···本当は起きて待っていてほしかったの?」


 ルキは、私の肩の上に置かれている頭をフルフルと左右に振り「違う」という。


「今、俺···めちゃくちゃ幸せ。もっと幸せにしてくれる?」


「今日はどうしたの?甘えん坊になってるよ?私も幸せよ。ルキのことも幸せにするよ」


 肩から頭を離すと、ルキは私が持っていたデザイン画を取り上げテーブルの上に置く。


 そして彼の両手が私の頬を包みこむ。同時に唇を軽く重ねリップ音を鳴らした。


 離れた顔はニコリと微笑み、口は弧を描く。


「7日間イコール7回だよ」


 優しい声で耳元で囁かれた。


···7日間が7回?

···ん?何のこと?


「回数だよぉー。リュシーは明日は早く起きれそうにないから、ニドルには昼まで起こさないように言ってあるから」


···ん?


「7回、頑張るね」



 「···言ってあるから」と言ったときにはシャツは脱ぎ終わり、「···頑張るね」のときには全裸になりやがった。抱き抱えられたときには、久々の肉付きのいい胸板と逞しい腕、綺麗な体格に酔いしれた。


···ルキって、本当に綺麗だな

···お顔もいいし、羨ましい



「リュシー、照れるから···期待に応えて、やっぱり今夜は2割増しにしてあげる」


···はぁ?



 そして、眠りにつく頃には辺りは明るくなっていた。






 ファイニール辺境領に向かって出発してから12日目の今日は、目的地のひとつ手前のリンドオーラという街に到着した。


 馬車から降りると、とっても寒くて吐く息が白くなった。


「見て、マキシー!ハー、ハー白くなった」


「ブハー、俺の方が白いって!」


「二人とも、子供じゃないんですから。公爵家の馬車から出てきた淑女がどんな素敵な方かと思ったら、とんだじゃじゃ馬娘だった···なんだあれは?と、いうような街の人の視線が恥ずかしいのですが!!」


 セクレイト様にお叱りを受け、辺りを見回すと···街の人たちはポカンと口を開いたまま、こちらを見ていた。


「リュシー、コートを着ないと死んじゃうよ」


 後から、馬車の中から降りてきたルキに、フワリとコートをかけられた。ポカポカ温かい。


 そして、手を取られたかと思うと手袋を片方ずつはめてくれ、最後にホールケーキのような真っ白の帽子を頭に乗せて「出来上がり」ニコニコ笑顔のルキと手をつないだ。


 そろそろ暗くなる時間だからと、買い物は明日にすることにして、宿までルキと手をつなぎながら歩くことにした。


「私、息が白くなる場所に来るのは初めてだわ!空気が私の声や吐く息で白くなるなんて、魔法みたいね」


「俺も、初めて!何か楽しいね!···この辺りまでくれば、雪も見られるかな?見てみたいな」


 私とルキの後ろから、マキシも会話に花を咲かせる。


「マキシは雪を見たことないの?」


「えー、リュシエル様だって見たことないんじゃないの?」


「雪?見たことあるわよ!···あれ?···なかった?」


······ん?あるよね?

·····ない?···あれ?



「あっ、リュシエル様!あれ見て、あれ!」


 マキシが突然騒ぎだし、指を指した方を見れば···山のように積まれた色とりどりの豆が店頭に並んでいた。


「あぁー!豆、豆だわ!ルキ、見て!豆よ、豆!豆だわー」



「俺もマメなんだけどな」


「そうですね」「だから何ですか」


 ルキのつぶやいた独り言に、ダン様とセクレイト様は呆れ顔で冷ややかに答えた。



 今回ファイニール辺境領に向かうに当たり、迂回してまでこの街に寄ったのは、豆を主に食している地域だと聞いていたからである。


 豆は寒い地方では、保存食とされているらしく、ここでなら探している豆も見つかるかも知れないと、期待して寄ったのだ。


「でも、もう暗くなってきたし、店じまいをしているみたいだから、明日にまた来よう。明日は1日この街を見て回れるよ」


「うん!」


 こんなに早く豆が見つかるとは思わなかった。あれだけたくさん豆があれば、探しているものが見つかるはずだ。


 明日は、朝から市場に連れていってもらおうと計画を立てる。が、そうはいかなかった。


「ル、ルギィー、腰が痛い」


「私より、豆が大事とでもいう顔がいけなかったんだ。お仕置きは、とても気持ちよかっただろう?」


 そうして私はお姫さま抱っこで、昨日見た豆の販売店に連れて行かれたのだった。



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