12話
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ファイニール辺境伯のラファイエ様とファウルド、筋肉団の面々が辺境の地へ帰る前日。ドゥルッセン公爵邸の温室で、密かに別れの茶会が開かれた。
そう。明日は、レンも一緒にファイニール辺境伯領へ旅立つ日。
お茶会では、ファウルドの姿がなく筋肉団と王都へ買い物に行っているらしいが、茶会が終わる前には戻ってくるということだ。
今は、レンとラファイエ様と私の三人だが、このあとルキも合流することになっている。しばらくの間、レンとは会えなくなるので、私は気合いを入れて菓子を作ってきた。
「リュシエル様、先日はファウルドが大変お世話になりました」
「いいえ、ファウルド様とは毎日楽しく過ごすことができました。披露宴でファイニール辺境領に行くのが楽しみです。ファウルド様が街を案内してくれると約束をしましたから」
「あら、妬けますわ。私とは何の約束もなくてよ?」
「しかし、ファウルドがフローレ···レンと、ここまで打ち解けるとは思ってもいませんでした」
「ルドは、お会いしたときから打ち解けていましたわよ?」
「はっ?···申し訳ございません」
···あんなに牽制されたよね?
···レンからしたら、獅子と猫?
「リュシー、そろそろ素でいいのでは?···それに、私は猛獣ではありませんわ」
「猛獣?」
ラファイエ様が普通の人で一安心。何の話か通じてない。よかった。
「打ち解けたというよりは···ちょっと···」
チラリとレンの顔を見て、ラファイエ様は苦笑いをする。
「何かあったのでしょうか?お伺いしても?」
「実は···ファウルドから聞いたわけではないのですが――」
な、なんと!ファウルドがレンに恋心かも?
「ま、まさかでしょ?」
私は、更に食い込んだ話を求めた。
ラファイエ様が最初にそう感じたのは、ファウルドがガトゥーラ侯爵邸からドゥルッセン公爵邸へ来たときだった。
ファウルドは、ドゥルッセン公爵邸に着いて馬車から降りると、目の前で再会を喜ぶラファイエ様と筋肉団を通り過ぎ、後ろに控えていたレンに抱きついた。
その後も、毎回伯爵の隣にいるレンにベッタリで、伯爵とレンが話していると睨んでいる気がするというのだ。
更に昨日は「27歳にもなる父上の後妻なんて、レンはまだ若いのに可哀想だ。
なんなら父上とじゃなくて、私との方が釣り合いがとれます」直接言葉で牽制してきたらしい。
「私も、そのお話を聞いたので今朝はイタズラをしたのですわ」
「レンが、イタズラ?」
「ルドの前でラファイエ様と···キャッ」
···なるほど、唇を重ねたと。
「そ、そんな軽くではないですわ」
···なるほど、濃厚に絡めたと。
「まぁ、初恋は実らないということですし放置しておけば?」
「リュシー?···君の初恋は···私ではなかったのか?」
振り向くと、すぐ後ろにはルキがいた。
「あっ、ルキ。早く来れたのね。お仕事は終わったのかな?ルキが来るのを、三人で待っていましたよ」
「私じゃなかったのか?」
···ルキ、マジ、シツコイ
···面倒臭いなぁー
「はいはい。ルキが初恋でした」
「私も、ラファイエ様が初恋よ!」
「俺もリュシーが初恋だ」
···これ、なんの罰ゲーム?
···みんな初恋じゃダメじゃん
「と言う訳で···ラファイエ様、私たちは恋に関して初心者ですので、お役に立てず申し訳ございません」
☆
「イルキス様、ファウルドの誘拐についてなのですが」
「あぁ。陛下から許しがでた」
今回のファウルド誘拐事件について最高貴族の醜聞は極秘となるのだが、ファイニール辺境伯のラファイエ様も最高貴族にあたり、更には事件の当事者でもあることから、陛下から許可を頂き、真相を話すことを許された。
バインダル公爵様は、マルロー男爵にファウルドを誘拐させた後、殺害する予定だったということだ。
「殺害···ですか」ラファイエ様は、重い空気を漂わせた。
マルロー男爵は、商会を立ち上げ成り上がった男爵だった。公爵が男爵の悪徳商売を黙認する代わりに、ファウルドを誘拐させたのだ。
誘拐を目論んだ理由は、第二の王都と言われるファイニール辺境領がドゥルッセン公爵家と縁続きになること。
レンとラファイエ様が婚姻することで、ドゥルッセン公爵家の力が強まることを妬んだ。
筆頭公爵家がバインダル公爵からドゥルッセン公爵になると懸念したのだ。
この婚姻が決まる前は、元第一王子アーサベルトと娘のリュシエンヌの子供をバインダル公爵家の養子として迎えることで、王家の信頼を取り戻せると思っていた。
しかし、王家の扱いは以前とは違っていたのだ。
そして、ファウルドを誘拐。
レンが後妻で嫁ぐのに邪魔だったという筋書きに。レンの犯行に出来なかったとしても、子供が死んでドゥルッセン公爵に対し疑いを持ったラファイエ様は、婚姻を白紙に戻すだろうと考えたらしい。
「許せないですわ。ラファイエ様と私の仲を引き裂こうなどと···それに、ルドを殺害しようとしていたなんて。ルキ、バインダル公爵は牢の中にいるのかしら?」
「···あぁ、貴族牢に入っているが」
「明日、ファイニール辺境領に向けて出発するので、今夜しかないわね。その身を引き裂いてやるわ」
「レン、止めてくれ。君との未来が絶たれてしまったら、私はもう生きていけない」
···ラファイエ様も猫だった?
「違いますわ」
「リュシー、そろそろ帰ろう。気持ち悪い」
ルキが怪訝そうな顔で、歪んだ顔で、ラファイエ様とレンを交互に見た。
「イルキス様、具合が悪いのですか?」
「いや?」
「見ているだけで、吐き気―――」
急いでルキの口に掌を押し付ける。なんてことを言うつもりだ。
「そ、そうね。ルキ、顔色が良くないわね」
「本当だわ。リュシーを置いてさっさと帰りなさい」
レンが睨み付けながら、ルキを帰るように促す。
「ファイニール辺境伯、すまない。これ以上は耐えられないので失礼する。リュシー、帰るぞ」
·····人前で自分もイチャつくくせに
·····ラファイエ様だと気持ち悪いとか
·····まったくー
「ラファイエ様、レン。ごめんなさい。ファウルドと会えなかったのが残念なのですが。披露宴で、またお会いできることを楽しみにしていますね」
「リュシー、ありがとう。私も向こうで会えるのを楽しみにしていますわ」
·····ラブラブ作戦は、必要なかったみたいね
·····ラファイエ様の雰囲気だと
·····婚姻前に···もしや···もう済ませた?
「フフッ」
·····さすがレンだわぁ
·····もしや···無理やり?
「···ち、違いますわ。さぁさぁ、ルキが待っているわ」
馬車の窓から手を何度も左右に大きく振ると、
レンは微笑みながら手を振り返してくれた。レンの頬には初めてみた涙がキラキラと光に反射して輝いてみえた。




