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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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14-2.エピローグ (2)

「菜花君! 菜花君ってば! 僕、何かした?」

「え?」


 金桝の声に、ハッと我に返る。


「いや、僕に何か訴えたいことがあるんだよね? 怖いけど、ちゃんと聞くよ。もしかして、辞めたいとか言っちゃう? えっと、何が不満だろう? できるだけ菜花君の希望に応えられるよう……」


 金桝は勝手に誤解をし、慌てていた。両手をバタバタと上下に振りながら話す金桝に、菜花はプッと吹き出す。


「菜花君?」

「いえ、すみません。惇さんの慌てっぷりが面白くて」

「慌てるでしょ! いきなり話があるなんて真剣な顔されたら、なに言われるのかと思ってハラハラするよ。で、なに? 怖いこと言わないでもらえるとありがたいんだけど」


 怯える金桝に、菜花は笑って答えた。


「場合によっては怖いかもしれないです。あの……私、ここでの仕事にやりがいを感じています。もっともっと頑張って、戦力になりたいと思っています。だから、卒業後もここで働かせてください。アルバイトで構いません。でも、少しでも私を必要としてくれるなら、戦力だと思ってもらえるようになったら……いつか、正社員にしていただけると嬉しいです」


 一気に言い切った。

 金桝を見ると、ポカンと口を開けている。間抜け面だが、美形は何をしても美形だ。

 無反応のままでいる金桝を見兼ねたのか、事務仕事をしていた美沙央がつかつかと歩いてきて、金桝の頭をペシリとはたく。


「痛っ!」

「惇君、なに呆けてんのよ! 菜花ちゃんがここにいたいって言ってくれてるのよ? ちゃんと返事をしてあげて」


 金桝はぼんやりと美沙央を見つめ、その視線を菜花に移した。


「あの……それ、ほんとに? 社交辞令とかじゃなくて、本音?」

「本音です。というか、どうしてここで社交辞令言わなきゃいけないんですか……」


 力が抜ける。しかし、その前に卒倒しそうなことが起こった。


「菜花君!」

「ひぃぃっ!!」


 金桝が菜花を抱きしめたのだ。


「か、か、金桝さんっ!」

「違うでしょ?」


 艶っぽい流し目を送られ、気を失いそうになる。そして、耳元で囁くのは勘弁してもらいたい。

 金桝は、菜花の言葉を待っていた。

 菜花はヘロヘロになりながらも、それに応える。


「惇さん」

「よくできました」


 ニッコリと微笑む金桝の顔には、満足と大きく書かれてある。

 それにドッと疲れながらも、今度は菜花が金桝の言葉を待つ。


「あの……」

「採用」

「へ?」


 素っ頓狂な声をあげる菜花を解放し、金桝は全てを魅了してしまうかのような微笑みで、もう一度言った。


「採用だよ。卒業までは試用期間としてアルバイトで、春からは本採用で正社員として働いてもらう。雇用条件は、その時に改めて説明するよ」

「えっと、あの……」

「これからもよろしく」


 そう言われて、ようやく受け入れられたことを実感する。


「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

「きゃあ! 菜花ちゃんが正式にうちに入ってくれるなんて! あ、結翔君にも知らせなきゃ」

「美沙央さん!」

「結翔君、新しい仕事に着手するための下調べに出てるのよ。知らせたら喜ぶわ」


 ウキウキしながら結翔に連絡を取る美沙央を見て、菜花は小さく笑う。


「これからは、もっと多くの仕事を受けられそうだ」


 そう言う金桝に、菜花はおののきながらもグッと踏みとどまる。

 ここで引いてはいけない。引くものか。恐れるものなど何もない。


「はい。どんどん受けてください」

「頼もしいね」


 ポン、と一度だけ菜花の頭を撫で、金桝は仕事に戻る。菜花も自分のデスクに向かった。

 菜花には味方がいる。何があっても助けてくれて、守ってくれる、心強い最強の味方が。


「菜花ちゃん、結翔君からヘルプがあったわ。ちょっと手伝ってもらえる?」

「はい!」


 助けられるだけではなく、守られるだけではなく、菜花自身も成長していかなくては。それには、仕事で経験を重ねていくしかない。

 今できることはほんの僅か。だが、継続は力なり。できることを、少しずつ増やしていくだけだ。

 やる気に満ちた菜花の充実した顔を眺めながら、金桝は花が咲きほころぶように微笑んだ。


 S.P.Y.株式会社──弊社は、御社の社内監察に際しまして、特別丁寧に、且つ完璧な仕事を目指し、必ずやご満足いただくことをお約束いたします。必要とあらば、ぜひご一報を。



 了

これにて完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうごさいました!

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