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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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2-9.監察開始 (9)

「惇さんが手を回してくれたおかげで、俺の教育係は無事、水無瀬になったよ。で、今日一日ずっと彼に張りついてたわけだけど……」


 率先して結翔から報告を始めた。今回の監察対象である水無瀬遼には、今後も結翔がべったり張りつく予定だ。報告としては、一番メインとなる。

 初日なのでそれほどたいした情報はないだろうと思いきや、結翔は次から次へと水無瀬の情報を放り込んでくる。


「成績トップなだけあって、担当してる取引先も一番多いよね。ただ、少しずつ他の人間に振り分けていってるみたい。これは、昇進に向けて上からの指示みたいなんだけどさ。でも、結構大手な取引先から手放してるんだからびっくりだよ。普通は手元に残しておきたいだろうに。自分の可愛がってる後輩たちに譲ってるみたいで、彼らはみーんな水無瀬シンパだね。かといって、先輩も蔑ろにしない。自分の手に余る、みたいな謙虚な態度で、やっぱりいい取引先を譲ってる」

「へぇ。たった一日張りついてただけで、よくそんなことまでわかったね」

「水無瀬ほどの有名人だと、あちこちから情報が入ってくるからかえって楽だよ。業績トップ、専務の娘との縁談が進み、昇進も控えてるっていったら敵も多そうなのに、悪口なんてほとんど聞こえない。よほど周りに気を遣ってるんだろうね」

「なるほど。なかなか抜け目がないね」


 自分の取引先を手放すということは、自分の月々の売上が落ちるということだ。補填するには新規を開拓するしかない。成績トップを誇っているのだからその辺りはシビアだろうに、太っ腹というかなんというか。


「大手の取引先を譲っちゃったら、自分の売上がその分大幅に減っちゃうよね?」


 菜花が尋ねると、当然というように結翔が頷く。


「そりゃそうだよ。でも、水無瀬は新規開拓を得意としてて、割と頻繁に契約を取ってくるんだよね。天然の人たらしというか……飛び込みで営業をかけても、大抵は話を聞いてもらえるらしいよ。普通は門前払いだろうにね。まぁ、あの顔を存分に活用してるってのはあると思う。話術にも長けてるしさ。真面目さとチャラさを上手く使い分けてるよ」

「へぇ……」

「というわけで、誰かに取引先を譲っても、トップはそうそう揺るがない。元々ぶっちぎりでトップだし、何社か手放しても水無瀬には痛手にならないってこと」

「たいした男だねぇ」


 金桝が楽しそうに笑う。だが、その笑みは裏に何かを含んでいそうな気がして、菜花は金桝からそっと視線を外した。この何を考えているのかわからない金桝の笑顔は、少し苦手だ。


「社内、取引先ともに仕事や人間関係に問題なし。むしろめちゃくちゃ上手くやってる。社内の女子社員のほとんどと仲良しっていうのもすごいよね。その中にはかつて関係があった子もいるんだけど、別れた後も普通に付き合えてるみたい。拗れた、なんて話も聞かなかったな。あちこちの女性グループに入って聞いてみたけど、水無瀬の評判は上々だった。まぁ……まだ初日だし、俺相手に猫被ってただけかもしれないけどね」

「それはあるだろうね。そのうち、ダークな話が聞けると面白いね」


 ニコニコしながらそんなことを言わないでほしい。

 菜花は思わず金桝との距離を取ってしまった。


「とりあえず、今日のところは水無瀬の身辺は完璧だったってことだね。了解。でも……そこまで完璧っていうのも、違和感があるねぇ」

「おおあり! かえって怪しい匂いがプンプンするよねーっ」

「え? そうですか?」


 確かに完璧すぎるとは思うが、だからこそ、専務は自分の娘婿に迎えたいと思ったのではないだろうか。

 会話が途切れたのでふと二人を見遣ると、金桝も結翔も菜花の方をじっと見つめていた。


「え……何ですか?」

「菜花君は純真無垢だね!」

「菜花はほんっと単純!」


 菜花の問いに返ってきた答えは、見事真っ二つに割れていた。

 金桝はまるでペットを見るような慈愛のこもった目で、今にもいいこいいこと頭を撫でてきそうな勢いだし、結翔は救いようがない奴といった呆れた視線を容赦なくぶつけてくる。

 どちらの視線にも耐えられず、菜花は机の下に潜り込みたい衝動を何とか抑えながら、二人の視線を避けつつ言った。


「わ、私、書庫で仕事してる間、何度も水無瀬さんの噂話を聞いたんですけど……」

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