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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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2-8.監察開始 (8)

 *


「お疲れ~! 初日、どうだった?」

「お疲れ~っす。惇さん、無駄にテンション高い……」

「結翔君は相変わらず毒舌だなぁ!」


 此花電機での初出勤を終えた菜花と結翔は、S.P.Y.の事務所に顔を出していた。

 新しい職場での初日は必ず、そして週一度は情報共有のためにここに集まることになっている。社長である金桝のデスクと結翔たち一般社員のデスクとの間には、ミーティング用の円形デスクがある。そこで、報告と情報共有を行うのだ。


「皆、お疲れ様。はい、どうぞ」


 ここで主に事務全般の仕事を請け負っている、早乙女さおとめ美沙央みさおが、菜花たちのためにコーヒーを淹れてきた。

 彼女はパートであり、週に二、三回のペースで顔を出している。どうしても手が足りない場合は、金桝の補助的な仕事も手伝っていると聞いている。

 菜花は自分以外の面々を眺め、ふぅと溜息を漏らす。

 金桝はどこからどう見ても完璧で隙のない美青年、結翔はいまだ女装も通じる大きな瞳ぱっちりのアイドル的容姿の持ち主、そして美沙央も、これまたハッと目を引くような美女なのだ。

 S.P.Y.は小さな会社で、メンバーはこれで全員なのだが、この顔面偏差値の高さは異常である。顔で雇ったのかと言われても反論できまい。

 その中で、平々凡々である菜花は、自分が一種特殊な存在なように思えてならない。どちらかというと、彼らが特殊だと思うのだが。


「菜花ちゃん? 緊張して疲れちゃった?」


 美沙央が心配そうに菜花の顔を覗き込んでくる。

 長い睫毛は綺麗に上向きにカールされ、形のいい瞳はキリリと凛々しくもあり、スッと通った鼻筋も美しく、少し厚い唇は熟れた女性の色香を漂わせている。品のよいピンクベージュのマニキュアに彩られた細く長い指が、菜花の目の前でヒラヒラと揺れる。それはさながら、甘い蜜を求めて彷徨う蝶々のような……。


「なーのーかーちゃんっ」

「ふぁいっ!」


 つい見惚れてしまった。

 美沙央の涼やかな声が耳元に飛び込んできた瞬間、菜花は我に返った。


「大丈夫?」

「は、はいっ、大丈夫です! ちょっとぼんやりしてました!」

「ごめんね、美沙央さん。菜花、時々意識がどっかに行くんだよね。っていうか、今のは単に、美沙央さんに見惚れてただけだと思うけど」

「結翔君!」


 図星である。

 顔を赤くしながら結翔を軽く睨むと、彼はひょいと肩を竦めて笑った。


「あら、そうなの? ありがとう、菜花ちゃん。でも、菜花ちゃんだって可愛いわよ。いつか私の手で、がっつり全身コーディネートしてみたいわぁ。髪もめちゃくちゃ凝ったヘアスタイルにして、メイクもガラリと雰囲気変えて……楽しそう!」

「美沙央さーん、今日はこれからデートでしょ? 貴久さんが待ってるよ」


 ヒートアップしそうな美沙央にストップをかけるのは金桝だ。


「あ、もうこんな時間なのね! うちの主人は拗ねると面倒だから、お臍曲げないうちに早く帰らなくちゃ。それじゃ皆、お疲れ様! 頑張ってね!」

「はーい! 貴久さんによろしくー」

「お疲れ様でした!」


 美沙央の表情は口調とは違っており、幸せそうに微笑みながら皆に手を振り事務所を出て行く。その姿を見送りながら、菜花はつい無意識に「いいなぁ」と呟いた。

 手のかかる夫に苦労をしているといった風だが、そんな夫を心から愛しているという惚気た表情、それが羨ましい。


 美沙央の夫、早乙女さおとめ貴久たかひさは投資家であり、金桝のビジネスセンスと実力を高く買っている。そういうこともあり、この会社を設立する際には、多額の投資をしてくれたのだという。

 金桝と貴久は元々繋がりがあり、その関係で美沙央とも顔見知りで、子育てが一段落した美沙央が暇を持て余すようになったこともあり、ここで働くようになったというわけだ。


「さて! それじゃ始めようか」


 金桝のこの一声で、場の空気が引き締まる。

 そして、本日の成果報告と、情報共有のミーティングが始まった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価をいただけますととても嬉しいです。

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