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クロス・コア 〜転生先はサイバーパンクな滅びの地、いじめられて死んだ俺は強化兵にされていた〜  作者: 炭石鹸
もう縛るものは何もないので、好きに生きることにする

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20/20

これじゃ話にならねえ

ノガミを発って、二日が過ぎていた。

決意を胸に街道を歩き続けた甲斐あって、三日目の昼過ぎ、ようやく次の町の輪郭が見えてくる。ノガミよりは一回り小さいが、それでも旅人相手の宿や店がひしめく、なかなかの規模だった。街道には荷馬車が何台も連なり、行き交う人々の数もかなりのものだ。門代わりの木柱に「サガノ」と彫られた板がぶら下がっている。

近づくにつれ、活気のある喧騒が耳に届き始めた。あちこちから聞こえる値切り交渉の声、荷を積んだ馬の嘶き、鍛冶場らしき方角から響く金属を打つ音。町の入り口には、行商人らしき一団が列をなして荷を検められている。積荷の量からして、かなり大きな商売をしている連中らしい。ノガミとはまた違った賑わいに、少しだけ気圧される。だが今日ばかりは、物見遊山をしている場合じゃない。目的は一つだけだった。

……よし、ここだ。ここで買う。

拳を握りしめ、心の中で気合を入れ直す。懐の路銀はまだ心もとないが、装備を諦めるつもりはなかった。意気込んで町へ足を踏み入れる。大通りを歩きながら、真っ先に目に入った武具屋らしき店構えに吸い寄せられるように近づいた。木造の壁にずらりと商品が並ぶ、ノガミの店よりも一回り立派な造りだった。看板には洒落た文字で店名らしきものが書かれているが、達筆すぎて読めない。棚には革製品がぎっしりと並び、奥には武器のケースも見える。天井からは干し革の束がいくつも吊るされ、独特の匂いが店内に充満していた。

「お、いらっしゃい」

愛想のいい店主に軽く会釈を返しながら、棚を物色する。すると、視線の先に、これだと思う一着が飛び込んできた。

……お、おお。これだ。これじゃねえか。

黒々とした革の表面に、控えめな金属の鋲が並んだジャケット。ノガミで諦めたやつよりも、なんだか仕立てがいい気がする。裾のラインも綺麗に整っていて、羽織ったところを想像するだけで頬が緩んだ。手に取ると、しっとりとした革の質感が指先に吸いつく。縫い目も細かく、粗さのかけらも見当たらない。これぞ理想の一着。運命ってやつかもしれない。……いや、大げさか。でも、それくらい良かった。

浮かれた気分のまま、逸る手で値札を覗き込む。

「……は?」

思わず声が漏れた。並んだ数字の桁が、ノガミで見たものよりもさらに一つ多い。二度見、三度見しても、増えることはあっても減りはしなかった。

「兄さん、いいだろそれ。サガノは交易の要でね、いい品はその分値も張るのよ」

店主が得意げに解説してくる。腕を組み、自慢げに胸を張る様子からして、この値付けに一切の悪気はないらしい。要するに、金が唸ってる旅の商人向けの値付けということだ。俺みたいな一文無しの旅人には、逆立ちしても手が届かない相場だった。……そりゃそうだよな。この店構え見りゃ分かる話だった。もっと早く気づけよ、俺。

……これじゃ話にならねえ。

がっくりと肩を落とし、店を後にする。せっかく決意を固めて歩いてきたのに、いきなり出鼻を挫かれた形だった。未練がましく店先を振り返ると、あのジャケットがまだガラス越しにこちらを見つめている気がした。……待ってろよ、絶対に戻ってくるからな。

しかし、ここで簡単に諦めるわけにはいかない。あの一着を諦めるくらいなら、稼げばいい話だ。単純な理屈に、無理やり自分を納得させる。

通りを歩きながら、人だかりのできている一角を探す。ノガミで見た日雇いの募集紙を思い出したからだ。あの手のやつが、この町にもあるはずだった。

しばらく歩き回ると、広場の一角に人だかりを見つけた。板張りの小屋の前に列ができていて、威勢のいい男が声を張り上げている。

「はいはい、今日の口はこれとこれ! 荷運び五名、井戸掘り手伝い三名、あとは――」

寄せ場、というやつらしい。あちこちの店や現場から人手の依頼を集め、まとめて仕分けてくれる便利な仕組みだと、並んでいた誰かが説明してくれた。列に並ぶ顔ぶれは様々で、日焼けした若者から、いかにも場慣れした様子の中年まで幅広い。誰もが皆、値踏みするような目つきで壁の木札を眺めていた。壁に貼られた木札には、依頼主も分からないまま、仕事の中身と日当だけが手短に書き殴られている。数十枚はありそうな木札の中から、条件のいいものを探すのも一苦労だった。

列の前の男が、慣れた様子で木札を次々にめくっていく。どうやら常連らしい。その手つきを横目で真似しながら、俺も端から順に見ていくことにした。「荷馬車の護衛」「瓦礫撤去」。どれも日当は似たり寄ったりで、ぱっとしない条件のものばかりが続く。そんな中、一枚だけ、明らかに毛色の違う木札に手が止まった。

「緊急、大量入荷対応、倉庫作業員多数。日当、相場よりはるかに高額」

……お、おお? これ、マジで言ってんのか。

思わず二度読み返す。書かれた日当の額は、隣に並んだ他の木札より明らかに気前がよかった。相場を知らない俺でも、これがかなり条件のいい部類だというのは一目で分かる。「大量入荷」だの「多数」だのという書きぶりに、よほど切羽詰まった事情があるのだろうと察しはついたが、それが何なのかまでは深く考えなかった。木札の隅には、依頼主を示すらしい小さな印がついていたが、達筆すぎて崩れた図案にしか見えない。正直どうでもよかった。この条件の良さだ。それだけで十分だった。

これだけ稼げれば、あの革ジャンにもぐっと近づく。何日働けば届くか、指折り数えて算段を立てながら、思わずにやけてしまう。……よし、これだ。これに決めた。他の候補を見る気にもならず、その足で受付らしき小窓へ向かった。

「これ、応募したいんですけど」

木札を指差すと、受付の男が面倒くさそうに帳面を広げる。

「ああ、あれね。人気だよ、条件いいから。もう何人か決まっちまってるけど、まだ枠あったはずだ。名前は」

「レン」

言われるがまま名を書き記す。字はあまり得意ではないが、これくらいなら村でも習った。周りにも同じように登録している者が何人かいて、皆一様に気合の入った顔をしていた。この条件の良さに惹かれたのは、俺だけじゃないらしい。

「明日の朝、日の出と同時に町外れの北門に集合な。そこから現場まで連れてってもらえるから」

「ういっす」

軽く返事をして寄せ場を後にする。振り返ると、あの木札はもう別の誰かの手に取られ、順番待ちの列がまだ続いていた。よほど人気の依頼らしい。……よし、先に押さえたもん勝ちだな。ちょっとした優越感に浸りながら、懐に入るはずの日当を思うと、自然と足取りが軽くなった。

……明日から、稼ぎまくってやるぞ。

拳を握りしめ、心の中でそう誓う。あの革ジャンも拳銃も、もう遠い話じゃない。そんな都合のいい皮算用を並べながら、今夜の寝床を探しに、日の暮れかけた通りを歩き出した。

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