奪われる王冠
都の門を閉じたりして、こちらの進行を妨害しようとすることは、想定内。だが国を守る軍人にとって温い策で、赤子を相手にしているようなもの。お粗末な作戦と言うしかない。
腹違いの弟妹たちの協力もあり、計画は順調に進んでいる。あまりに上手く進みすぎて、まるで世界が自分を中心に動いていると錯覚してしまいそうだ。父やディロもこんな気持ちを抱き、道を誤ったのかもしれない。
しかし私は道を誤ってはならない。ここで父を玉座から降ろしても、まだやるべきことがあるのだから。父に勝利して、それで終わりとなる話ではない。
「進め! 目標は王のいる城! 愚王を玉座から降ろすのだ!」
「承知!」
事前に影たちや協力者が動き通達を出しているので、大通りには人気が少ない。そこを一気に馬で駆ける。そんな我々の後ろからは、各々武器を持った民も追ってきている。
「城内を守る兵士の中に、腕が立つ者は少ない! 腕が立つ者から順に刃は向けられ、城内で戦闘は始まっている! セシア殿、パニエ殿たちの覚悟も忘れるな! 王を倒すためなら、命を差し出すとまで言われた! その思いを裏切るな!」
影からの報告により、やはり父は人質を活用することに決めた。五人を幽閉している塔へ向かっているという。
コルデ、リダ、ピカロの三人は、隠し部屋に押しこめ隠したが……。無駄なことを。私も城内の隠し部屋、隠し通路を把握している。そんな所に押しこめたところで、通用すると思うな。
城内に入り、真っ先に父がいる塔へ向かう。馬から飛び下りると、走って剣を握ったまま、階段を登る。
さすがに兵士も配置されているが、我々の敵ではない。腕が立つ者たちは、別の場所で目の前にいる己の相手に一杯で、こちらに来る余裕はない。まともな護衛がいない状態の父にとって、『人質』だけが命綱。
勢いよく部屋を開ければ、途端に父の叫び声が響いた。
「来るな! 私になにかあれば、五人の命はないと思え!」
後ろ手に縛られた五人の首には、それぞれ剣の刃が当てられている。あれが引かれたら切られ、絶命するだろう。だが人質であるはずの五人は怖がっておらず、背筋を伸ばし堂々としている。脅えているのは人質ではない、王だ。
「父上」
靴音を鳴らし一歩踏み出すだけで、大きく体を震わす。こんな臆病者が、よく玉座についていたものだ。己の地位が揺らがないと信じていた時だけ、本性が隠れていたのだろうか。それとも追いつめられ、狂ってしまったのか。
「この城の門も、簡単に開きました。籠城をするのであれば、内側に敵を残したままにしていては、意味がありません」
「人数が違っていたはずだ! あの女の派閥の者は、近くに置いていなかった!」
「王派と偽っている者がいる可能性を、考えませんでしたか? そちらもセミーリャ派と呼ばれる貴族の情報を得るため、人を送りこまれていたではありませんか。なぜ逆が起きないと?」
指を鳴らし、こちら側に密偵とし、派閥に所属していた貴族を連れて来させる。その貴族はうなだれ、今は抵抗の素振りすらない。
「父上、貴方は確かに法の改正に関しては、母上に勝った。しかし母上は毒で倒れた日から、ずっとこの日のために私と動いてきた。ピカロとリダのラコーレ国での暴れ具合は、こちらの想定以上でしたが……。しかし自由に振る舞ってくれ、こちら側が有利になるよう、一役買ってくれ助かりましたよ」
そう言って肩をすくませるが、父は脅え呼吸を荒げたまま。苦しいだろう。だから、早く終わらせてやろう。
「父上、貴方が人質として使おうとしている五人は、貴方を玉座から降ろすためなら、命を惜しまないと言っている」
「く、来るな!」
さらに距離を縮めれば、醜く唾を吐きながら叫び出した。
「私は王だ! この国の頂点だ! その私の命令が聞けないというのか! これ以上、近づくな!」
「王? 頂点? それで全てが許されると、本気で思っているのか? なにが王だ、なにが頂点だ! 人があって国は成り立つ! 人のいない場所に、国はない! 人は自由だ。嫌になれば、別の国へ行くことができる。我々は常に試されている。より良い世界を作るため、階級という形を作りその席に座り、人や国を導いているだけ。階級は、ただ上位の者が美味しい思いをするために、存在するものではない!」
近寄っても五人を処する命令を出さないとは、そこまで頭が回らなくなっているのだろうか。ただ来るなと繰り返すだけで、つくづく王の器ではないと思い知る。
その王冠に向かって手を伸ばした時だった。
「殺せ!」
「放て!」
父とベーザの声が重なるように放たれる。なにが起きてもこれだけはと、物音が聞こえる中、王冠を奪い取る。勢いで父は椅子から落ちた。直後、慌てて五人へ視線を向けると、セシア様と義弟であるペーニョが首から血を流し、倒れていた。
ベーザの命令により放たれた矢のおかげか、他の三人は助かったようだ。
本音を言えば、ここで五人に死んでもらいたくなかった。だが……。ぐっと、手に持つ王冠を握る。
今すぐ駆け寄りたい。まだ助かる可能性があるのか、確認したい。だが今は、それが許される時ではない。宣言をしなければ。
王冠を掲げ叫ぶ。
「今ここで父、ロガンの時代は終わった! 罪人たちをここへ!」
別部隊には、コルデたちの確保を命じていたので、三人が連行されてくる。コルデは泣き、弟妹は叫んでいる。他にも城内や王都に滞在していた者で、不正を働いている者たちも捕らえるよう、命令を出している。今ごろそこに、民衆という味方を得た者たちが向かっている。
「なぜ……」
王冠を失い、一気に老けた父上が両手を床につけ、顔だけを上げてくる。
「なぜ、ここまで手際がいいと? それはディロが領主代行していた地に、兵を集結させていたからですよ」
「馬鹿な! そんな連絡、デッセからなにも……! デッセもディロも、お前についたのか?」
連行されてきたデッセも、顔を青くさせ、なにも知らないと首を大きく横に振る。
「いいえ、二人は変わらず貴方の派閥ですよ。デッセ、あの地にはお前やディロを恨む者が大勢いた。お前が領地経営に無関心なことを利用し、ディロに加担していた者を排除していき、我々の駐在地として領土を利用させてもらっていた」
王都に近いあの地は、よそ者と接触の少ない孤立した地域でもあった。だから我々の駐在地として選び、その情報が洩れることはなかった。デッセも別荘を無くし、立ち寄る理由を無くしていたから、余計だった。
王冠を失った父を連れ、城に庭が見えるテラスに向かう。すでにそこには、多くの民が集まっていた。
「見ての通りだ! ロガンの時代は終わった! これからしばらくの間、ロガンたちを裁くため、一旦私が王冠を預かる! だが前触れした通り、全てを終えた時、残った王族をどうするのかは、諸君らに決めてほしい!」
様々な声が聞こえる。一時的にも私が王冠を預かることで、不信を抱いた者もいるのだろう。だが父をこの手で裁き、この国は生まれ変わったのだと他国へ示すためにも、今は必要なのだ。
まずは私が王になり、その権限で不正を行っていた者たちを権力者という地位から、追い出すために。




