続く対決
今ごろディロは、どこに居るのだろう。そろそろリュイゼの民と接触できた頃だろうか。この会合の後で、確認をしなければ。
王はディロ一人の責任だと考えているかもしれないが、パニエ様が指摘した通り。長年リュイゼを蔑む態度が、問題の根底にある。
なぜ対等に接しない。なぜ馬鹿にしたままで、未来永劫、相手が耐えると思っていた。なんと傲慢な。
ラコーレ国に対してもそうだ。なんと高慢ちきな。今回の非は、こちらにあるというのに。それなのに、なぜ横柄な態度を取れる。ラコーレ国の王子は、その笑みの下でなにを思っているのだろう。
「申し訳ありません。理解できませんでしたので、もう一度、説明していただけますか?」
会合という場に似合わない発言。代表者が代表者に、もう一度説明を求めることは、ほぼあり得ない。それを口にすれば、阿呆と思われても仕方がないからだ。わざわざ馬鹿と思われる行為に自ら走る者は、こういう会合という場には出席しないだろう。そして言われる方も、また阿呆である。
そんな阿呆な王は、なぜ王子に対し馬鹿にした顔を作れるのやら。さぞかしセシア様も、頭が痛いことだろう。
「そもそも、なぜこの会合に同席されているのが、セシア様なのでしょう。当人はどうされました?」
さらに王子が発言を続ければ、王は一瞬、不機嫌そうに片眉を動かすと答える。
「王妃は今、体調を崩している」
「体調、ですか。確かにあのような出来事もあれば、羞恥心から引きこもることでしょう。ええ、あの場で王子と姫が暴れた話は、私の耳にも届いておりますので」
亡き王妃、セミーリャ様から事前に情報を得ていた方々は、あの二人が暴れ始めた途端、逃げるように席を立ち距離を保った。前情報のなかった方々の中には、服を汚され、散々となった事例もある。もちろん迷惑をかけた皆様への対応も、考えなくてはならない。
怒り、笑い。理由は様々だろうが、こんな強烈な話題、広まらないはずがない。王は顔を真っ赤にさせると、怒鳴るように大声を出す。
「今はその話など、関係がないではないか! とにかく先ほども言ったが、調べはついておる! わざと貴国が子どもたちをコルデから引き離し、好きにさせていたと!」
「妄言、たいがいにされよ。二人の素性を知らされ、双方で守るべきだと事前に決めたはず。それなのに他国に頼り、自国は一切守りにつかなかったことこそ、非常識なり。仮に本当に、我が国がそのような行為に走ったとしても、貴国の者は自国民を守るためにも、押しのけてでも守りにつくべきだろう」
「ほう、認めるのか」
「仮に、と申したはずだ。そのような妄言、我らは認めない」
やれやれ、これでは平行線のまま。まだこの王子には、荷が重いのかもしれない。
さて、この二人はいつ気がつくのだろう。あの場には、もう一つの集団が居たことを。
それが私たち、亡き王妃派……。セミーリャ様派の者だと。
王も長も、影と呼ばれる団がまた一つに戻ったと信じているだろう。だがそれもまた、セミーリャ様の蒔いた種の一つ。
あの二人がラコーレ国で大人しくするはずがない。だからセミーリャ様は我々に命じ、若干名、コルデたちに同行させた。そして命令通り、いずれ王を引きずり下ろすために、我々は動いた。
それにしても、王派の団長が、王妃派の影について調査していなかったとは。普段から注意深くしていれば、我々の人数が減っており、奇妙だと気がついただろうに。そこから二人が議論している問題の人物が、我々の仲間という真実に辿りつけたかもしれないのに。
「とにかく、ピカロ王子とリダ姫が我が国で傍若無人だったことは間違いない! 一体どんな教育をすれば、あのような子どもになる! 結婚式での振舞いと言い、とても一国の王族とは思えぬ!」
言われてしまったか。これを言われては、王の敗北は決定だろう。顔色を変化させながら、小さな唸り声を出す。
あの二人に然るべき教育が施されていないことは、双方……。いや、今では世界共通の認識となった。
王が往生している間に、これまで黙っていたセシア様が前に出ると、深く頭を下げる。
「このたびは願いを聞き入れて下さった貴国に対し、不躾な真似をしてしまい、大変申し訳ございません。同席はしておりませんが、パニエ。そして私、セシアが正式に謝罪いたします」
頭を下げたまま、セシア様は続ける。
「さらに殿下の側近であられるサート様、そのご家族の皆様には、特に大変なご迷惑をおかけいたしました。とてもお金だけで解決できない問題も含まれていることは、承知しております。出来るだけの誠意をつくしたいと、パニエと私はここに宣言します」
「セシア!」
王が叫んでも、セシア様は頭を上げようとしない。
こんな状況だというのに、ただの好き嫌いという感情だけで、この会合の打ち合わせを行わなかったので、こうなる。これで王もやっと、打ち合わせの重要性を噛みしめていることだろう。
さあ、側妃であるパニエ様とセシア様がラコーレ国に対し、誠意をつくすと宣言をした。これは我が国の公的な発言となる。後で王が、あれは勝手に側妃が言ったのだとへそを曲げては、ラコーレ国から、この会合の話が広まり、さらに各国から厳しい目で見られることになる。
玉座にしがみつく王よ。
セミーリャ様に勝利したと確信していただろう。だがセミーリャ様の遺志に賛同し、その思いを継いで今も動いている者たちがいる。
勝負はまだ終わっていない。




