第1章 昭和62年へ
数学が苦手な子供のために、楽しい物語形式の文章題を書いたのが始まりでした。
それが子供とても好評で、妻にも見せたところ「小説でも書いてみたら?」と言われ、乗せられて書いてみたのがこの作品です。
ド素人のおっさんが酔狂で書いたものですが、一人でも楽しんで呼んでいただけたらこの作品の登場人物たちもきっと浮かばれると思います。
よろしくおねがいします。
「タイムトラベル代理店、時遊館へようこそ」
はつらつとた受付アンドロイドに迎えられ、店内に入った。
カウンターに咲いている、白いスミレの3Dホログラムが美しい。
去年ようやく時間旅行法が可決されて一般人でもタイムトラベルができるようになった。
僕は一人でお店に入ったりすることはほとんど無いのでまごついた。
店内に入ると、入り口の目の前にあるカウンターに座った髪の長い、中肉中背、目が少し離れていて、すこし鰓のはった輪郭をした女型アンドロイドが口を開いた。
「お客様、お一人ですか?」
「う・・・・・・うん」
「年齢認証システムでは、8歳~9歳程度と出ていますが、よろしいですか?」
思わずドキッとしたが、悟られないように、ゆっくりと答えた。
「あ、あの、背が伸びない病気なんだ。もう79才になるよ」
といって僕はじいちゃんの住民IDを受付アンドロイドの目の前にかざした。
ピピ
「承認完了。それではこちらへどうぞ」
アンドロイドはカウンターから出てきて、左側の通路の手前の部屋に僕を案内した。
部屋の中は綺麗なソファーに、美しい絵。これらはほとんど全て、特殊な装置によって僕らの目に直接映し出されている幻で、本当はただの布のかたまりや、何も書いていない額がぶら下がっているだけらしい。
僕をそのソファに座らせると、アンドロイドはメニュー表を差し出した。
「どの年代へ行かれますか?」
ピラー星~
宇宙暦500年
宇宙暦300年
宇宙暦100年
宇宙暦元年( 西暦2261年)
~地球
西暦2000年
西暦1000年
紀元~
と続いている。
僕はこう答えた
「昭和62年」
アンドロイドは、数秒間をおいて答えた
「地球・・・日本・・・のですか?」
「そ・・・・そうです」
「日本へのタイムトラベルはプログラムにはありません。申し訳ございませんがコース内からお選びいただくようお願いします」
僕らの住んでいる星は、MTH-314 呼び名をピラーという。
今から640年前の宇宙元年、地球の人間は初めて月への移住に成功し、その後、数百年の間に、様々な星に移り住み、今では人間がこの宇宙に全部で何人いるかも正確にわからないほどになった。
純粋な地球人と、僕ら移民は区別され、特に僕のような何世代も他の惑星で繁殖した人類は「ネクスト」と呼ばれるようになった。
ネクストは基本的に地球への帰還は許されていない。地球はすでに人口150億人を超えているという話だ。
顔つきも地球人とはかなり違うそうだけど、僕には良くわからない。
「おねがいです。地球の昭和という時代に行きたいんです。」
「センターに問い合わせます」
・・・・・・ピピ
「あなたのIDに特例の許可が降りています。それではチェックルームへどうぞ」
病院の一室のようなところへ通されて、寝かされると、次から次へといろんな機械が僕の腕をこすったり、目をライトで照らしたり、口の中に変なスプレーを掛けてきたりするのでとっても居心地が悪かった。
アンドロイドは言った
「時空旅行法の禁止事項をお伝えします
その一
過去の人間に時空旅行者であることを知られてはならない。
その二
歴史上重大な事項に関連する、物品、人間と接触してはならない
その三
ピラー星の人間は紫外線に対する抵抗がないので、3日間以上の滞在は厳禁
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こんな感じで10分は続いたろうか、それよりもチカチカとついたり消えたりしているベッド脇の目覚まし時計が気になって仕方なかった。3Dホログラム映写機の調子がわるいんだろうか?
一通りの手順を終えると
「お客様のご希望に合わせて現在の通貨と引き換えに、昭和62年の地球、日本の通貨を発行いたします」
良くわからないのでとりあえず10万ニアーをおじいちゃんのIDから使うことにした。
アンドロイドの腹部がパカっと開いて、紙のお金が二枚出てきた。
千円と書いてある。
じいちゃんから聞いた話だと、円というお金は、その頃の地球ではとてつもなく価値のあるお金だったそうだ。世界中の人間が円を求めて日本にやってきたという話だ。
これだけあれば大丈夫そうだな。
その後、更衣室で当時に合った服装を用意してもらい、それに着替える。
服も靴も随分重い。
聞くところだとこのころはまだ綿やゴムというような思い素材を使って衣類を作っていたそうだ。
とりあえず、エアロパンツをジーパンというものに変え、ラインテックのシャツをTシャツとパーカーというものに変え、アングラビディの靴を、asicsという赤い運動靴に変えた。
いよいよ年代設定と行きたい場所を指定する。
ガーゴイルという会社がタイムスリップ用の世界地図をだいたい50年区切りで作成していて、その時代の行きたいところに正確に行くことができる。
アンドロイドの目の前に3D の地図が現れ、そこに指定をする。
おじいちゃんの地図に書いてある場所を探した。
しかし、その場所が見つからない・・・・・・
。
地図を映し出されている球体の3D画面の上部には「2050年」と表示されている。
僕の行きたい年代と随分離れているじゃないか。
僕は案内アンドロイドに昭和62年の地図を出すように注文した。
「日本のデータでもっとも古いのがこの地図です。申し訳ありません」
・・・・・・そうか、それもそうだよな。こんな大昔の、しかも日本の地図なんて・・・。
仕方ない、トーキョーって事はわかっていることだし、あとは自分で探してみよう。
それに地球のいろんな場所も見てみたいし。
そう思うとなんだかわくわくしてきて、心が大きくなってきて、とりあえず日本とだけ指定した。
「それでは準備は完了いたしました。時空旅行添乗員にはこちらの女型アンドロイド『時雨』がご同行いたします」
すっと後ろから、女性のアンドロイドが現れて受付アンドロイドの横に立った。
頬くらいまでの短い髪、身長は150cmくらい、肌はなんとなく肌色っぽい。この変では珍しい色だ。この星には太陽が無いので肌の色は大抵青白い。
白いワンピースに赤い靴。
ガイドさんというには似つかわしくない、公園で戯れる少女のような格好だ。
「この外見はこの時代の地球ではかなりポピュラーなものです。短い旅の間ですが、よろしくお願いします」
と健康的な声で時雨さんは言った。
顔は決して美人とは言えない。
お鼻は顔にちょこんと乗っかっていて、目は細くてつりあがっている。輪郭は二十日大根のようにあごのほうが細くなっている。でも歯並びはやっぱり綺麗だし、笑顔はさわやかだ。
昔、アンドロイドへのセクハラが社会問題になり、アイドルとか、特殊な職業以外のアンドロイドは美人型を使うことは禁止されたってじいちゃんが言っていたな。
時空制御装置は、テレビで見たことがある昔の地球の車にそっくりだった。
そんな僕の気持ちを察するかのように時雨れが言った。
「車に見えると思いますが3Dホログラム技術で人間にはそう見えるだけです。それではお乗りください」
前に時空旅行をしたじいちゃんの知り合いに聞いたことがある。
時間を行き来するのは永遠の旅のようだって。
でも、旅が終わると、なぜかそれは瞬きと同じくらいに一瞬に感じるんだ。
時空ということについて、まだ解明されて無いことはたくさんある。
時空旅行者で行方不明になってしまった人も、公表はされていないけど確かにいるとじいちゃんは言っていた。
時空管理センターの元局長のじいちゃんが言ったことだから間違いない。
時空旅行をするためにはいったん宇宙空間へ出ることになる。
時空制御装置はたいしたエネルギーを使わずに宇宙空間に出ることが出来る。
あらかじめ作られているホワイトホールを通るのだ。
その間僕は全身麻酔で完全に意識を経つことになる。
初めての実験で、麻酔無しで時空旅行をした人間が廃人のようになって帰ってきてから義務付けられらしい。
あとは・・・・・・・・無事・・・にほ・・・・・・ん・・・・・に・・・・・・・・
「ティム、9才の誕生日おめでとう。これはお誕生日プレゼントだ」
「じいちゃんこれなに?宝の地図?」
続く