産まれてきて、よかった!
あたしはまた産まれた。
新しいバルクに詰められて、まだ誰も足跡をつけてない雪のような、まっさらなバニラアイスとして、産まれてきた。
いつもこの時に思う。産まれてきて、よかった! と。
この世に産まれてきて、よかった! あたしに産まれてきて、よかった! アイスクリームに産まれてきて、よかった! と。
またあのひとに会える! 新しいお客さんたちにも会える! そのお口の中でとろけて、また幸せに死ねる! 死んだらまた産まれ変わって、アイスクリームになれる!
ゾクゾクしちゃう。
アイスクリームだから冷たくて、もうゾクゾクするぐらいひんやりだけど、もっとゾクゾクしちゃう、幸せばっかりのアイス生を考えると。
あたしがもし人間のままだったら、こんなことはなかったんだろうな。
幸せばっかりだと、飽きちゃって、どれだけ満たされてても、もっと満たされることを望んでしまって、きりがないんだろう。
でもアイスクリームの幸せはとてもシンプルで、それ以上を望むことなんてない。
だからいつまでも幸せ!
これ以上の幸せなんてないから!
とろけて、死んで、産まれ変わる──これ以上に望むことなんてないから!
あたしはずっとアイスクリームでいたい。いつか産まれ変われなくなってもいい。
このとんでもない幸せの中で消えて行けるのなら、それ以上望むことなんてないから。