人間のきもち
アイスクリームっていいな。やっぱり、いい。
毎日お客さんがやって来て、あたしたちを笑顔で買ってくれる。
あたしたちは愛されて、舐められて、食べられて、とろっとろにとろけて死ぬ。
そんな同じような毎日がとっても楽しい。
なんて充実感に満ちてるの、アイスクリームのアイス生って最高!
「人間って、いいよな」
あたしの周りで、みんながそんな話をはじめた。
「自由に自分の足で歩けるし」
「とても楽しそうだし」
「何よりアイスクリームが食べられるのが羨ましい」
「俺、一度でいいから人生ってやつを味わってみたい」
「そんないいもんじゃないよ」
あたしがそう言うと、みんなが一斉にあたしのほうを向いた。
「そういえばバニラちゃんて、前前前前前前前前前前前前世ぐらいは人間だったんだよね?」
「人間ってどうなの? どんな気分?」
「アイスクリームを食べるのって、どんな気持ちなの?」
あたしはみんなに答えた。
「アイスクリームを食べるのは天国みたいな気持ちだよ。歌にもなってるぐらい。とろんとろん♪ って」
「歌、好きだよ」
「あれってカラダに染み込んでくる震動がいいよね。熟成する気分になれる」
「ぼくらの歌があるの? 聴きたい!」
「いいなぁ……! 人間になったらその歌を好きな時に好きなほど聴けるんでしょ? いいなぁ……!」
「人間だったことのあるバニラちゃんが羨ましいなぁ!」
みんなに羨ましがられて、あたしは頬を黄色くして照れながら、人間だった頃のことを思い出してみた。
楽しいことは、あった。確かに今、アイスクリームになってたらアイスクリームは食べられない。ここに並んでるみんなの中から好きな子を選んで、笑顔で口に運んで、その冷たさ甘さにとろけて……。
恋もできた。付き合いたてなんて、天国にいるみたいに楽しかった。あの甘い気持ちはとろけるアイスクリームの気持ちよりも気持ちがよかったかも。
でも、辛いことのほうが多かった気がするんだよね。
アイスクリームにも恋はできる。ダブルで買われたほろ苦いジャモカコーヒーくんととろけ合って、ひとつに混じって、最高の気持ちのまま消えていける恋ができる。
そんなとてもシンプルなアイスクリームの恋と、複雑で楽しいことも悲しいこともたくさんあった人間の恋と、どっちがいいだろう?
うーん……と、あたしは考えた。
「いいな」
「いいな」
みんなが周りで楽しげに口にする。
「人間って、いいな」
「僕も一度でいいから人間になって、アイスクリームを食べてみたい」
わかった。
あたしは笑顔で答えた。
「みんなはアイスクリームだからそう思うんだよ。人間の気持ちになってみたら、それが新鮮で、たぶん楽しいと思うよ」
「やっぱり?」
「やっぱり?」
「早く人間になりたーい!」
「でも、あたしは人間だったから、アイスクリームになれたのが嬉しいの。楽しいの。ずっとアイスクリームでいて、幸せにあっという間に死んで、生まれ変わったらまたアイスクリームなのがいいな」
「うん」
「うんうん!」
みんなが笑顔でうなずいた。
「アイスクリームって最高だよね」
「死ぬのって最高に気持ちいいよね」
「人間もいいけど、僕らアイスクリームなんだから、アイスクリームの自分を愛するのがいいよね!」
なんか話がまとまった気がする。
あたしはやっぱりアイスクリームでいたくて、人間には戻りたくなくて、今のままがいいのだった。
「ねぇ、バニラちゃん」
「アイスクリームの歌を教えてよ」
あたしが歌ってみせると、みんなが真似して歌い出した。
「アイスクリ〜ムぅ〜♪」
「アイスっクっリっイっムっ♫」
アイスクリームは楽しいね!
ショーケースの中が歌で満たされて、みんなの色がキラキラ輝いて、もっと美味しそうになったみたいに見えた。




