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アイスクリームのきもち  作者: しいな ここみ


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13/17

人間のきもち

 アイスクリームっていいな。やっぱり、いい。


 毎日お客さんがやって来て、あたしたちを笑顔で買ってくれる。

 あたしたちは愛されて、舐められて、食べられて、とろっとろにとろけて死ぬ。

 そんな同じような毎日がとっても楽しい。

 なんて充実感に満ちてるの、アイスクリームのアイスせいって最高!



「人間って、いいよな」

 あたしの周りで、みんながそんな話をはじめた。

「自由に自分の足で歩けるし」

「とても楽しそうだし」

「何よりアイスクリームが食べられるのが羨ましい」

「俺、一度でいいから人生じんせいってやつを味わってみたい」


「そんないいもんじゃないよ」


 あたしがそう言うと、みんなが一斉にあたしのほうを向いた。


「そういえばバニラちゃんて、前前前前前前前前前前前前世ぐらいは人間だったんだよね?」

「人間ってどうなの? どんな気分?」

「アイスクリームを食べるのって、どんな気持ちなの?」


 あたしはみんなに答えた。

「アイスクリームを食べるのは天国みたいな気持ちだよ。歌にもなってるぐらい。とろんとろん♪ って」


「歌、好きだよ」

「あれってカラダに染み込んでくる震動がいいよね。熟成する気分になれる」

「ぼくらの歌があるの? 聴きたい!」

「いいなぁ……! 人間になったらその歌を好きな時に好きなほど聴けるんでしょ? いいなぁ……!」

「人間だったことのあるバニラちゃんが羨ましいなぁ!」


 みんなに羨ましがられて、あたしは頬を黄色くして照れながら、人間だった頃のことを思い出してみた。


 楽しいことは、あった。確かに今、アイスクリームになってたらアイスクリームは食べられない。ここに並んでるみんなの中から好きな子を選んで、笑顔で口に運んで、その冷たさ甘さにとろけて……。


 恋もできた。付き合いたてなんて、天国にいるみたいに楽しかった。あの甘い気持ちはとろけるアイスクリームの気持ちよりも気持ちがよかったかも。


 でも、辛いことのほうが多かった気がするんだよね。


 アイスクリームにも恋はできる。ダブルで買われたほろ苦いジャモカコーヒーくんととろけ合って、ひとつに混じって、最高の気持ちのまま消えていける恋ができる。


 そんなとてもシンプルなアイスクリームの恋と、複雑で楽しいことも悲しいこともたくさんあった人間の恋と、どっちがいいだろう?


 うーん……と、あたしは考えた。


「いいな」

「いいな」

 みんなが周りで楽しげに口にする。

「人間って、いいな」

「僕も一度でいいから人間になって、アイスクリームを食べてみたい」


 わかった。


 あたしは笑顔で答えた。

「みんなはアイスクリームだからそう思うんだよ。人間の気持ちになってみたら、それが新鮮で、たぶん楽しいと思うよ」


「やっぱり?」

「やっぱり?」

「早く人間になりたーい!」


「でも、あたしは人間だったから、アイスクリームになれたのが嬉しいの。楽しいの。ずっとアイスクリームでいて、幸せにあっという間に死んで、生まれ変わったらまたアイスクリームなのがいいな」


「うん」

「うんうん!」

 みんなが笑顔でうなずいた。

「アイスクリームって最高だよね」

「死ぬのって最高に気持ちいいよね」

「人間もいいけど、僕らアイスクリームなんだから、アイスクリームの自分を愛するのがいいよね!」


 なんか話がまとまった気がする。


 あたしはやっぱりアイスクリームでいたくて、人間には戻りたくなくて、今のままがいいのだった。


「ねぇ、バニラちゃん」

「アイスクリームの歌を教えてよ」


 あたしが歌ってみせると、みんなが真似して歌い出した。


「アイスクリ〜ムぅ〜♪」

「アイスっクっリっイっムっ♫」


 アイスクリームは楽しいね!


 ショーケースの中が歌で満たされて、みんなの色がキラキラ輝いて、もっと美味しそうになったみたいに見えた。




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― 新着の感想 ―
うふふ かわいくてちょっと意味深!
優しくてとろける刹那さ I scream♪  You scream♪ We scream♪
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