最後の言葉
第一部 完結です。不定期ながらも読んでくれて、本当にありがとうございます。
陽キャ対陰キャ。
これは野生の世界でいうところの,肉食動物対草食動物の関係と同じだ。
そして僕こと立嶋葵は,陽キャのよしきに一発喰らわせてやった。
よしきもまさか僕にしりもちをつかせられるとは思っていなかったみたいで,動揺しているようだ。
「は?俺があのデブに...まさかそんな...ふざけやがってよぉ!!」
そう言って,よしきは僕に猛スピードで突進してきて,僕のみぞおちを何度も殴った。
「あ,ぐ,がぁあ。」
気持ち悪くて,吐きそうになりながらも僕はよしきから目を離さなかった。
絶対にどこかでスキは生まれると思ったからだ。
野生動物にとって一番スキが生まれる瞬間とは,獲物を仕留める直前だ。
それは人間でも変わらない。
耐えろ。耐えろ。オエエエ。耐えろ。僕。
「うわっ。汚ねぇ。こいつとうとうゲロ吐きやがった。」
「立嶋!!もういいよ!!もうやめて!!」
「僕のことは気にするな!!君は逃げろ!!」
耐えるんだ。僕,耐えろ!!
相手のスキを狙え。それにのみ神経を集中させろ!!
「無心不動!!且つ唯一無二の思想だ!!」
「は?何ゴチャゴチャ言ってんだよ。汚ねえし,もう終わりだ。消えろ」
よしきが僕に向かって最後の一撃を放とうとした瞬間だった。
「いつもよりフリが大きい!!これならいける!!」
スローモーションになったようだった。
おそらく僕は勝機を見出し,にやけたのだろう。よしきの顔が少し曇ったのが分かる。
「もう遅い!!僕の会心の反撃をくらえ!!よしき!!これは神代さんの思いも詰まった一撃だ。打ち立てろ!!俺たちの金字塔!!」
何も気にせず,思いっきり振りぬいた僕のアッパーは,よしきの顎を打ち抜いていた。
「(は?は??俺は、なんで空を見上げているんだ。声もでねえ。力も入らねえ。俺はやったのか,あのデブを...神代はどこだよ。いねえじゃねえか。あいつ逃げやがったのか。)」
僕は,すべての力を使い果たし,倒れそうになりながらも,よしきの下へと進んでいた。
「はぁ,はぁ,よしき...謝れ...謝れよ。神代さんに...いや,すべての泣かせた女の子に...そしてこれから絶対にこんなこと...するな。」
我ながら,アドレナリンがあるとはいえ,かっこいいことを言っている気がする。
こんなことも言えるんだな僕って...
よしきもしばらく倒れこんでいたこともあって,体力が回復したのか...口を開いてしゃべり始めた。
「まさかお前みたいなデブに負けるとはな。悔しいけど俺の完敗だ。最後の一瞬,俺はお前がただのデブじゃなく,ダイダラボッチに見えちまった。完全にお前に飲まれちまった。
約束も守る。ちゃんと謝るさ,ただ最後に教えてくれ。お前をそこまで突き動かす力はなんなんだよ。」
「力...って言われても僕にはわからないよ。でも,神代さんは...なんていうか大切な人なんだ。かわいいから好きっていうそんな単純なものかもしれない。でも,僕にとって高校でできた2番目の友達なんだ。僕にとって大切な人なんだ。神代さんが泣いてるところなんて見たくない。笑っててほしいんだ。僕にとって大切な人だからこそ。」
「そ,そうか...俺とお前の差はそういうところなのかもしれないな。大切な人...か。俺がお前に負けた理由が今ならわかるぜ。」
そう言って,よしきは立ち上がり,よろめきながらもどこかに行こうとしていた。
「あ,そうだ。おい,そこのデブ。お前、名前なんて言うんだよ。」
想定外の事態に僕の頭はフルパニックになっていた。
「え,あ,えっと,葵!!立嶋...葵!!」
急に名前聞くなよ。きょどるだろ。
「葵...か。今回は大きな声で言えるじゃねえかよ。じゃあな。」
そう言って,よしきは去っていった。
オアシスにいるのは僕1人だけだ。
ホッと一息ついたとたん,ガソリンがすべてなくなったように,体のいうことが聞かなくなり,僕は気を失ってしまった。
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夢か分からない。
ただ目が覚めると僕の目の前には神代さんと青一面の綺麗な空が映っている。
あ,夢だわ。そして,後頭部には人肌のぬくもり。
あ,夢だわ。これ膝枕やもん。夢や。
ただ,夢かどうか確認もせずに決めつけるのはよくないことだ。
僕はおそるおそる神代さんに確認した。
「あの...これって夢ですよね?」
僕の質問が予想外だったのか神代さんは少し,にやけていた。
「葵,何言ってんの。夢なわけないじゃん。」
僕は神代さんの返事が予想外で,少しにやけてしまった。
「そ,そんなことより神代さん。なんでこんなところにいるの。逃げたんじゃないの。」
「......ありがと。」
「え?」
「葵...本当に...ありがと...」
そう言って神代さんは涙を流し,僕を膝枕しながら僕を抱きしめた。
神代さん...震えている。
やっぱり怖かったんだ。強がっていても,やっぱり怖かったんだ。
僕は神代さんが泣いている姿は見たくない。
そして神代さんも僕に泣いている姿をみせたくはないだろう。だから僕は今は自分の胸を貸すんだろう。ただ,心の中のKYな僕がこう言うんだ。『お~眼福眼福。胸当たんねーかなー。』」
いつしか雨はあがり,水たまりもなくなり,空には大きな虹が出ていた。
僕は神代さんに肩を貸してもらいながら,保健室に向かおうとしていた。
はっきり言って重たいと思うが,そんな気は遣ってられない。
2人とも無言...やっぱり僕は陰キャだ。この空間が耐えられない。
僕の困った雰囲気を察したのか神代さんが口を開いた。
「ねぇ,立嶋...私って2人目の友達なの?」
「へ?どういう?」
「よしき先輩に言ってたでしょ。私は2人目の友達だ。って1人目お友達って誰よ。」
やっぱりこの子,陽キャだわ。
すんごいガツガツくる。
それにこの会話聞いてるってことは...やっぱり神代さんは強いや。
ただ,僕も今回はただではやられない。
僕にも反撃の一撃があるんだ。
「ねぇ,神代さん。僕も1個聞いていい?」
「ちょ,ちょっと私の質問ごまかさないでよ。」
僕は神代さんの意見を無視して話をつづけた。
「神代さん...僕のこといつの間にか葵って言ってたよね?なんで?」
これは鈍感な僕でもわかるクリティカルヒットだ。
神代さんの顔が赤くなっているのがわかる。
さぁ,どうでる?
「あ,え,えっと...そうそう立嶋!!私,異世界ミンティア読んだよ。前に立嶋の家に行ったときにオススメされた新刊」
誤魔化しよった。でも,僕は異世界ミンティアの話は大好きなんだ。
のろうじゃないかこのビッグウェーブに!!!
「実は,立嶋の家から出ていった後,全然ちゃんと読んだことなかったけど異世界ミンティア読んだら本当にはまっちゃって,止まらなくって。それに立嶋の好きな名言も出てきて,めっちゃテンション上がったの!!」
「え!?じゃあ,もしかして僕の好きな名言の3つ目も出てきた?」
ずっと言えなかった。3つ目の名言...
「もちろん,知ってるよ!!主人公のタクヤが、女性ヒロインの一人、サナとの友情を再認識するシーンだよね。」
もう言えないと思っていた。
神代さんに一番言いたかったセリフ
「じゃあ,神代さん。いっせーのでで言おうよ!!」
一番言いたかったセリフ。
「いいよ。」
「「いっせーので」」
大切なあなたへ届け
「「君が好きだ。」」
第一部 完
第一部 完結です。不定期ながらも読んでくれて、本当にありがとうございます。
第二部のタイトルなどは決まり次第、作品のあらすじや、最終話の前書きにでも書きますので、
続編も見てもらえたら、嬉しいです。




