第二十五話
「なぜ人間じゃなきゃならないのです?だいたい、人間が入って来ないように島をかくしているのでしょう?」
なんだか矛盾しているような気がする。
「そうですね、では詳しくその辺もお伝えしましょう。」
「お願いします。」
「人間と同じように、白竜族の中にも神殿の秘密を知りたがるものがいるのです。しかし、その神殿は女王陛下の神殿の地下にあります。女王陛下は神殿を守っていらっしゃいます。誰かが勝手に入らないように。」
女王自ら守るほどのものなら、白竜たちが知りたがるのも不思議ではないかも。
クレルさんは続けた。
「そのような状態ですから、中には女王陛下を暗殺しようとたくらむ者たちも現れ始めたのです。」
「ではなぜ人間を雇うのです?」
「誰が反乱分子となりうるかは分からない状態です。ですから、私たちの種族外から女王様のボディーガードを雇う必要があったのです。“召使に扮した”ボディーガードですがね。」
だから白竜族を倒せるほどの強い人間を探していたのか。
付け加えるようにクレルさんは言った。
「ちなみに、あなた方には死ぬまでここにいてもらいます。この島のこと、白竜族のこと、その他もろもろを人間たちにばらしてもらっては困りますから。」
「!?」
俺とケイゴはは後戻りできない状態にあることを知ってしまった・・・。
しかし、ケイゴはすぐに俺の方を向いてにこっと笑った。え・・・?あぁ、いざとなったら俺を使うって?
「そろそろ宮殿の中に入りましょう。女王様がお呼びです。」
俺たちにいろいろと説明した後でクレルさんは言った。
「念話をされたんですか?」
ケイゴが尋ねた。
クレルさんは驚いたような顔をして答える。
「そんな用語を一文無しの少年から聞くとは思いませんでしたよ。・・・そうです、先ほど念話を交わしました。」
「念話って便利なもんだな。」
ケイゴは俺にだけ聞こえるようにつぶやいた。
宮殿の入り口はとても大きいが、中も相当広かった。竜体のクレルさんが小さく見えるくらいに・・・。そして奥には黒いドラゴンが・・・。え?ここ白竜族の島ですよね?クレルさん・・・。
宮殿の奥の王座・・・椅子はないけど・・・に座る黒いドラゴンの姿を見て、呆気にとられている俺たちを見てクレルさんは言った。
「さっき言っておけばよかったですね。白竜族の長は、色つきのドラゴンなのです。白竜族に色つきのドラゴンは一頭しか存在しません。いつの時代も・・・。色つきのドラゴンがいなくなれば、また新たな色つきが生まれる・・・もちろん白竜族の中からですよ?なぜかいつの時代も色つきは一頭しか存在しないのです。いつも唯一の存在です。だから王になる権利を得ます。色つきは珍しいだけじゃなく、魔力とそれを扱う能力が他の白竜よりも強いことも王に選ばれる理由の一つです。」
強いものが上に立つ・・・納得せざるをえない。
「ただいま戻りました。」
クレルさんが頭を下げて言った。
まっすぐ女王に近づいている最中、俺はずっと・・・見とれていた。王座の後ろのステンドグラスから差し込んでくる光を美しく反射する黒い鱗。凛とした姿で・・・目を閉じて座る姿は、時間の流れが止まってしまったように感じられた。
閉じていた目を開け、女王はクレルさんと見つめあった。
瞳も真黒だったが、真黒な瞳はなぜか親近感を感じさせた。
しばらく女王とクレルさんは見つめあっていた。どうやら念話をしているようだ。聞こうと思えば聞けるような気がしたけど、人の話に勝手に入り込むのは、なんだか気が引けた。
「女王にはあなた方と出会ってからのことを全て話しました。私はこれから任務の続きがあるのでこれで失礼します。あなた方の仕事内容の説明は、女王陛下から直接受けてください。では!」
クレルさんは犬のように四足で走り宮殿から出ていくと、そのまま飛び立っていった。
・・・俺たちを二人きりでいきなり初対面の白竜族の女王の前という超絶の緊張感の中に放っておいて行ってしまうなんて・・・それより今の去り方は礼儀的に問題があるんじゃ・・・?いや、それほど重要な任務ということか・・・。
「心配なさらなくて大丈夫ですよ。」
突然のクレルさんの行動を見てただただ呆然と立ち尽くしていた俺たちに、春の風のような優しい声が聞こえてきた。恐らくこれは・・・女王陛下の念話だ。
俺たちは女王の方に向き直った。女王は続けた。
「私の名はエルーラ。白竜族の王。・・・私と同じ黒い瞳の人の子達よ。これからどうぞよろしくお願い申し上げます。」
女王は頭を下げてきた。
「こ・・・こちらこそよろしくお願い申し上げます。」
ケイゴは俺と合わせようと急いだせいで、舌をかんで最後まで言えなかった。
「フフフ・・・そんなに緊張なさらないでください。」
女王エルーラはかわいらしい笑顔を見せた。今までのドラゴンとは訳が違って、表情のつかみやすい人・・・いや、竜のようだ。
その後自分たちの軽い自己紹介なんかをしたが、あまりに緊張しすぎて何を言ったか覚えていない・・・。緊張せずに話せる日は来るのだろうか・・・。




