第十四話
部屋に入るとファズは元気そうに俺を待っていた。一日中一人で退屈だったろうに・・・ごめんな。
「今日は魚を持って帰ったよ。」
「本当!?ありがとう!」
「でも、今夜は俺の知り合いが部屋に来るから少し急いで食べなきゃならない。特に俺は・・・。」
さすがに人間の俺にこんな大きな魚を短時間で食うことは無理だ。だから本来の姿に戻ることにした。体が光に包まれて。
「わわっ!いきなり変身しないでよ。吃驚するじゃん!」
「ははは、ごめんごめん。」
確かに何か言ってからすればよかったかな?今度から気をつけよう。
「じゃあ食べてしまおうか。」
「うん!」
俺の食事はわずか数秒で終わった。3匹の魚をひと呑みにしてしまえば仕方ないか。でも、食堂の食事より俺としてはこちらの方が美味い気がする。ファズにもっと味わって食べないの?なんて聞かれるくらい短時間の食事だったけれど、結構満足感があった。人間の食事より生魚の方が好きだなんて、人間だったころの自分にはまずあり得ないことだ。人型で皆の前では生活してるけど、思考もだんだんとドラゴンの自分に合わせた考え方になってきている。でも、性格なんかは変わらないと思うけどね。変わってしまったら・・・ケイゴにユウトとして見てもらえなくなるようで少し怖い。
異界からそのままの状態でこっちに来たケイゴ。超奇跡的に異界でお前といた記憶を失った俺と再会した。あの時のケイゴの安心した顔を曇らせたくない。たかが俺と出会っただけであんな顔を見せてくれたんだ・・・。性格は多分なんとかなるけど、もし俺の今の本来の姿がばれたときケイゴはどんな反応をするだろう。
「・・・ユウト?食べ終わったなら変身してないと、知り合いの人が部屋に来ちゃうよ?」
たったいま魚を食べ終わったばかりのファズに話しかけられて思いだした。そうだ、ケイゴが遊びに来るんだった。食事も終わって気分がいいから、久しぶりにこのまま寝ちゃおうかなんて考えてた俺が間違ってた。
「ありがとうファズ!考え事しててすっかり忘れてた。」
そう言い終わらないうちにドアをノックする音が聞こえてきた。まずい、ケイゴだ。
素早く人型に変身した俺は、すぐにドアのカギを開けに行った。
「ようこそ俺の部屋へ。」
「お、おう。それよりも、さっき部屋に入る前にドアの隙間から強い光が漏れてたけど、なにやってたの?」
あ、それは変身の時の・・・じゃなくて!そう答えかけた自分の背中を冷や汗が伝った。
「何にもやってないよ。そんな光の出る道具なんて俺持ってないよ?」
「確かにね。俺の目の錯覚かな?」
うん。そうだと思っていてくれ。いろいろと危ないところだった・・・。
そのあと、ファズの紹介やら何やらを話した後ケイゴは部屋に戻って行った。
ケイゴが戻ったので、俺は部屋の簡易シャワーでも浴びることにした。俺のいた世界では海上で水は超貴重品だったが、こちらでは係りの魔術師さんが水と塩を分離して水を作りだしているからそこまで貴重品というわけでもないようだ。やっぱ魔法って便利だな。
明日で四日前か・・・。俺たちがラウド帝国の領海に入るのは。
攻撃してくるのだろうか。まぁ、船内にこもっている俺やケイゴには関係のないことだからいいけど。もしものときは、それなりの対処をしなきゃいけないよな・・・。
いろいろ考えながら、瞼を閉じた。今日から寝るときはドラゴンの―本来の姿で寝ることにした。なるべく魔力の消費は抑えようと思って。それにこっちの方が疲れがとれるし、こっちの姿でいる方が好きだ。
ドアの鍵はきちんと閉めたから大丈夫・・・多分。