第十一話
降りてきたのは・・・ケイゴだった。俺は名前を知っている、前にいた世界で会ったことがあることも知っている。ただ思い出がない。ケイゴという人間とどんな関わりを持っていたかなど知る由もない。
ケイゴ二等空兵は俺の顔を見るなり、驚いた顔をした。
「ヴァイスさん。新入りのユウトってやつはこいつか?」
「あぁ、そうだ。お前みたいに島で・・・」
ヴァイスさんが言いかけたところで。
「知ってる。・・・悪いけどヴァイスさん、俺とユウトをこの部屋に二人だけにしてくれ。その方が仕事を教えやすい。」
ケイゴ二等空兵は早く俺と二人きりで話がしたいようだ。
「あ、あぁ。分かった。じゃあ俺は先に部屋に戻ってるな。夕飯のときは誘えよ?」
ヴァイスさんは俺の方に向かって言った。
「分かりました。」
俺はそう応えた。
バタンと竜舎の入り口のドアが閉まるのを確認して、ケイゴ二等空兵は話し始めた。
「おい、お前ユウトだよな。俺の友達の。」
そうか、ケイゴは俺と友達だったのか。ふ~ん。
「同じ高校に通ってたユウトだよな。そうだよな。」
・・・俺は重大なことに気づいていなかった。ケイゴは、俺のことを 覚 え て い る ! ?
俺と違って思い出が残っているというのか?
「何か返事しろよ!」
ケイゴにゆすられて我に返った。
「ご・・・ごめん。俺、君のことは覚えてんだけど、君といた思い出が一切ないんだ。」
「・・・なんだって!?」
石のようにケイゴは固まった後、しばらく間をおいてケイゴは口を開いた。
「そう・・・か・・・。まぁ、会えただけでも幸せってことかな。」
「そうならいいんだけど。」
「あぁ、こっちの世界に来て知らない人ばかりで、そんな中お前に会えたんだ。思い出がなかったってユウトはユウトじゃないか。だから俺は今最高に嬉しいよ!まるで夢みたいだ!」
ケイゴは俺に会えて本当に喜んでいるようだ・・・なんて客観的な感想だ。俺もケイゴと同じように思い出が残っていれば、今この瞬間をともに喜べただろうに。
「前の世界でお前と俺は親友だったんだ。いくらお前が思い出を失くしていようと、こっちの世界でもまた親友になれるって信じてるから!」
「あ・・・ありがとう。」
なんだか、こんな返事しかできない自分が情けなかった。
ケイゴが俺との再会を喜んだ後、本題である竜舎での仕事の説明に入った。
仕事内容はこうだ。一つ目、竜たちへの餌やり。餌は主に魚で、これを釣るのも俺たちの仕事らしい。ってことは自分の食う分を取ってもいいってことですか?ねぇ、ケイゴさん!それを尋ねると。
「そ・・・それはもちろんいいけど。食堂で食えるだろ?」
あ・・・そうだった。こうして話していると、自分がドラゴンであることを忘れてしまう。気をつけなければ・・・。俺はケイゴにとってユウトであり、俺自身ユウトであるがこの世界ではドラゴンの姿が本来の姿である。・・・考えたら意味分からん。これはおいといて、俺は人間の姿でいるよりドラゴンの姿でいる方が好きであり、実際こうして人間に化けている間にも魔法エネルギーを消費していることが、俺がドラゴンである最大の証拠だ。・・・思考が脱線した。とにかく、俺はケイゴの前でも本来の自分は隠さなければならない。明かしてしまってもよさそうだが、俺がドラゴンの姿を見せた時、ケイゴはそれを俺だと認識してくれるか不安だ。
そんなことより、二つ目の仕事について・・・二つ目の仕事は竜舎の掃除だ。竜舎は人の出入りが極端に少なく、掃除など週に1回するかしないかで十分らしい。
以上。これが竜舎のお仕事。なんだかもっとハードな仕事を想像してましたよ・・・。
そんなものだから、仕事の説明はすぐに終了した。そのあとは、ケイゴがこの世界に来てからの一人寂しい生活について聞かされた。俺はファズがいたけれど、ケイゴは一人だったのか。それに人間の身で・・・さぞかし怖かったろう。ん!?待てよ。俺がドラゴンになったということは、もしかしてケイゴも人外の生物に?あまりにも気になって、上手いことそれについて聞いてみたが、
「いや、そんなことはない。」
らしい。
ケイゴは前の世界にいたそのままの状態でこちらの世界に来たのだ。俺とは大違いだ。俺は憧れのドラゴンになり、凄まじい能力を手に入れたというのに・・・。まさかその代償が思い出だったとか・・・?
まぁ答えなんてないんだし、考えるのはやめよう。
いろいろ話したところで、食堂が開く時間になったのでヴァイスさんを呼びに行くことにした。ケイゴも一緒に夕食を食べてくれるらしく、一緒についていくと言ってくれた。
「俺たちは違う世界から来たってのは、今は二人だけの秘密な。約束だぜ。」
ケイゴは竜舎を出る前にそう言った。俺はドラゴンであることに加え、違う世界の住人であったことも秘密にしなければならなくなった。正直辛かったり辛くなかったり・・・。