第45話:豊穣の要塞都市化計画と、砂海からの凶兆
「状況把握。──ただ畑を広げるだけじゃ、この先やってくる大軍勢や環境の変化に対応しきねぇわ」
俺は八色のインナーカラーを指先で弄りながら、急速に拡大する要塞の敷地を見下ろした。
アルゴの誓いによって防衛の要が加わり、サシャの肥料で食糧問題も解決に向かっている。だが、今の要塞はまだ「頑丈な砦と巨大な農園」の域を出ていない。目指すは、世界のルールを書き換える拠点たる**【極彩色の魔導要塞都市】**の建設だ。
「状況分析。──我が主の御意志、しかと理解いたしました。これより要塞の『文明精度』を第二段階へ引き上げます」
黄金の髪をなびかせたレオンが、新たな都市設計図の木札を広げ、オッズアイの瞳を輝かせた。
「まずはただの木柵だった外壁を、ゴルドの剛力とアルゴの氷結概念をスタックした『万年氷晶の城壁』へと造り替えます。さらに、レンの幻影技術を応用した隠蔽迷彩の術式を都市全体に組み込み、外部からの探知を完全に遮断すべきかと」
「ガハハ! 面白そうじゃねぇか! 俺の闘気、今度は土木建築に全スタックしてやるわ!」
ゴルドが豪快に笑い、城壁の基礎となる巨石を軽々と積み上げていく。
「……私の『氷結の絶対時間』で城壁の分子構造を固定すれば、帝国の最上位魔導砲ですら傷一つつけられまい」
深藍の髪の騎士アルゴが静かに剣を構え、ゴルドが積んだ城壁の表面に、絶対零度の硬度を定着させていく。規律のレオン、剛力のゴルド、忍耐のアルゴ。この三人による防衛インフラの構築スピードは、もはや一国の国家予算を投じた公共事業を数日で終わらせるレベルに達していた。
都市の発展はそれだけに留まらない。
「あはは! カイン、そこ右に3センチずれてるよ! 僕の風で一気に建材を運ぶから、綺麗に切りそろえてね!」
「フン、注文の多い風だね。僕のハサミにかかれば、どんな硬木も寸分違わず一瞬さ」
シオンの新緑の風が建材を宙に舞わせ、カインの深紅の大鋏がそれをミリ単位で裁断していく。二人の連携によって、身内たちが暮らす居住区や、魔導具を開発するための工房が、驚異的な精度で次々と建ち並んでいった。
「シリウス様、見てください! 工房の職人たちと一緒に、サシャさんの毒熱の魔力をエネルギーに変換する『極彩色魔導炉』の試作品を作ってみました!」
サクラピンクの髪を心地よさそうに揺らしながら、フェリスが小さな魔導機関を抱えて見せてくれた。
「状況把握。上出来だわ、フェリス。これで都市の夜を照らす明かりも、防衛結界の動力も永久に枯渇しねぇな」
俺は不敵に口元を歪め、身内たちの手によって刻一々と「最強の都市」へと変貌していく景色を堪能していた。力でねじ伏せるだけが魔王軍じゃねぇ。こうして絶対的な文明の土台を耕すことこそが、真の蹂躙へと繋がるのだ。
──だが、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!
大砂海の方向──西の地平線から、要塞都市の強固な大地すらも激しく揺るがす、不気味な地鳴りが響き渡った。
「な、何ですか、この不気味な振動は……っ!?」
フェリスがサクラピンクの瞳を恐怖に揺らし、俺の背中にしがみつく。
俺は西の空を鋭く睨みつけ、地を這う無骨な魔力の奔流を感知した。
「状況把握。──チッ、だるいのが来たわ。この要塞が急激に放ち始めた莫大な魔力に引き寄せられて、砂漠の生態系の頂点が叩き起こされやがった」
「報告! 偵察の幻影より緊急伝令!」
レンがオッズアイの目を血走らせ、緊迫した声を上げた。
「砂海より、全長数百メートルに及ぶ古の大型魔獣──**【砂喰神龍】**が直進中! 衝突まで、残りわずか!」
地平線の彼方、巻き上がる規格外の砂嵐の向こうから、全てを噛み砕く無数の牙を持った巨躯が姿を現す。それは、これまでの人間との戦いとは一線を画す、大自然の災厄そのものだった。
「ふっ……ちょうどいい。我が主、新しく完成したこの『城壁』と、我らの連携……あの巨獣を相手に試させてもらいましょう」
アルゴが深藍の髪をなびかせ、氷の剣を静かに引き抜いた。
「状況把握──。あぁ、新装開店の景気づけにはもってこいだわ。おいお前ら、進化した要塞の力と、既存メンバーの格の違いって奴を、あのトカゲに教えてやるぞ!」
俺は八色の前髪をかき上げ、不敵にニヤリと笑った。
迫り来る大型魔獣。だが、極彩色の魔王軍の表情に、もはや怯えなど微塵もなかった。




