第28話:驕れる天翼と、静寂の罠
帝国の宮廷が下した決定に従い、ついに帝国最強の一角である『第二天翼騎士団』の本隊が動いた。その数、実におよそ三千。大森林の木々を上空から見下ろすように、ペガサスや飛竜に跨った空中強襲兵たちが、大森林の東の国境を越えて一斉に侵入を開始したのだ。
「フン、先遣隊が不覚を取ったのは地上の罠に嵌ったからだ。我ら天翼騎士団が空から急襲すれば、亜人の要塞などただの焼き鳥の巣に過ぎん!」
白銀の甲冑に身を包んだ天翼騎士団の将軍が、空中から大森林を見下ろし、傲慢に声を張り上げる。
だが、彼らが要塞の領空へと差し掛かったその瞬間、大森林の空気がピキリと凍りついた。
──ゴォォォォォン……。
不気味な地鳴りとともに、要塞を中心に半径数キロメートルに及ぶ広大な空域へ、突如として眩いばかりの『プラチナシルバー』の光を放つ、巨大な『鏡のドーム』が出現した。
「な、何だこれは!? 空中に突如として巨大な鏡が……っ!?」
「状況把握。──空から来れば安全だとでも思ったか? 浅はかだわ」
要塞の最上階のテラスから、俺はものぐさそうに前髪を掻き上げ、上空の三千の軍勢を見上げた。黒髪の内側では、サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、プラチナシルバー、深紅の五色のインナーカラーが、夕闇を消し飛ばすほどの極彩色の輝きを放っている。
「レン、お前の出番だ。空を飛ぶ鳥籠たちに、本物の絶望ってやつを見せてやれ」
「はーい、魔王様! 僕たちの『鏡界の虚像』、全力で展開しちゃうね!」
俺の隣で、レンがオッズアイの目を怪しく光らせ、両手を天へと掲げた。
その瞬間、空を覆う鏡のドームが歪み、三千の天翼騎士団の目の前に、彼らと『全く同じ姿、同じ数、同じ殺気』を持った、三千の【偽物の天翼騎士団】が一斉に姿を現した。
「な、何だと……っ!? 我が騎士団の写し鏡だと……!? 怯むな、突撃せよッ!!」
将軍の命令で、帝国の本隊が偽物の群れへと突っ込む。だが、レンの幻術は五つの星痕のバフによって超強化されており、ただの幻ではない。実体と質量、そして本物以上の破壊力を持った『本物の絶望』だ。
空中で、帝国兵同士が互いに殺し合う、凄惨な同士討ちの空中戦が幕を開けた。
「ギャァァァッ! 偽物の突撃が、本物の槍と同じ威力を……っ!?」
「助けてくれ! どちらが本物の味方か分からんッ!!」
天を駆ける高潔な騎士団のはずが、ものの数分で、自らが作り出した恐怖の影に怯え、互いの喉元を突き刺し合う地獄絵図へと叩き落とされていく。
「ふふ、実に見事な空中舞踊ね。これなら、私たちの出番すらなさそうだわ」
サシャが紫色の髪を揺らし、ワイングラスを傾けながら冷徹に微笑む。
「いや、まだだ。……あの真ん中で狼狽えてる将軍の首は、僕のハサミで直接切り落とす。僕の居場所を奪った帝国の『偉い人』には、それ相応の対価を支払ってもらわないとね」
カインが深紅の髪を逆立て、背負った【双刃の大鋏】の刃をギチギチと鳴らしながら、獲物を見つめる目で見上げた。
「状況把握。──よし、それじゃあ仕上げといこうか。帝国最強の騎士団が、ただの亜人の森で跡形もなく消え去る瞬間だ」
俺は不敵に口元を歪め、五色の輝きを放つ髪を弄った。
追放された皇子による、帝国への本格的な『ざまぁ』の連鎖は、まだ始まったばかりだ。




