第13話:戦場を駆ける超絶体術
ドゴォォォォォォンッ!!!
要塞の石壁から飛び降りた俺の着地と同時に、大地が激しく爆ぜ、周囲の魔獣どもが衝撃波だけでまとめて数匹吹き飛んだ。
アリエスとタウロス、二つの星痕による能力上乗せ(スタックバフ)──今の俺の身体は、軽くステップを踏むだけで地面が陥没するほどの超質量とスピードの塊と化している。
「な、何奴っ!? 上から人間が降ってきただと……っ!?」
漆黒の鎧を纏った魔族の兵士たちが、我が目を疑って絶叫する。
「状況把握。──まずは前衛、お前らからお掃除だ」
カサカサと鋭い鎌を持ち上げて襲いかかってくる巨大な蜘蛛の魔獣。その群れのド真ん中へ、俺は自ら一歩踏み込んだ。
「遅い」
刃物よりも鋭い魔獣の爪が俺の肌を切り裂く──その一瞬前、紙一重の体捌きで全ての攻撃の軌道を見切り、残像だけをその場に残す。
直後、極限まで磨き上げられた俺の拳が、蜘蛛の頑強な甲殻へと吸い込まれた。
バキィィィィィンッ!!!
「ギェェーッ!?」
人間の頭ほどもある硬質な甲殻が一撃で粉々に粉砕され、蜘蛛の巨躯が後ろの兵士たちを巻き込みながら派手に消し飛んでいく。
間髪入れず、左右から迫る蠍の魔獣のハサミ。
俺は地を這うような低い姿勢のローキックでその重心を崩すと、流れるような動作でバク転を決め、その勢いのまま顎へと強烈な蹴り(アッパーカット)を叩き込んだ。
ドゴッ、バキッ、と小気味良い破壊音が戦場に響き渡る。
魔法を一切使わない、純粋なフィジカルのみによる蹂躙。
敵の攻撃は掠りもしないのに、こちらの攻撃は一発掠めただけで魔獣の命を容易く刈り取る。
「ば、化け物め……! 魔法も使わずに、俺たちの魔獣軍を素手で……っ!?」
「囲め! 囲んで一斉に突き刺せぃ!!」
恐怖に駆られた魔族の兵士たちが、数十人規模で一斉に槍を突き出してきた。
だが、そんな包囲網など、俺の状況把握能力の前には格子戸(スカスカの壁)も同然だった。
槍が突き出される『直前の空気の震え』を察知し、あえてその槍の刃の上を激しく駆けるように跳躍。
空中を滑るような身軽さで包囲網を飛び越えると、着地と同時に強烈な足払いを大地に炸裂させた。
ズシャァァァァァッ!!!
凄まじい風圧とともに周囲の兵士たちが枯れ葉のようにひっくり返り、戦場の中央にぽっかりと巨大な空白が出来上がる。
「嘘……。人間一人の体術に、私の軍勢が押し負けているというの……!?」
遥か後方、巨大な魔獣の背の上で、紫髪の女ボス──サシャが、その妖艶な顔を驚愕に歪めていた。
「おい、そこの紫髪」
気づいた時には、俺はサシャの乗る巨大魔獣のすぐ目の前まで迫っていた。
返り血ひとつ浴びていない黒髪を弄りながら、冷めた目で彼女を見上げる。
「一人ずつ相手にするの、やっぱりだるいわ。次はお前が相手をしろ」
「くっ……! 舐めるな、小倅があぁぁッ!!」
サシャが激昂し、その細い両手をこちらへと突き出した。
彼女の周囲の空気が、一瞬にして禍々しい深紫色へと染まり、大森林の植物を瞬時に枯らせるほどの強烈な【劇毒の魔力】が渦巻き始める。
「私の毒魔法の霧に巻かれて、跡形もなくドロドロに溶け落ちなさいッ!!」
戦場を丸ごと飲み込むような、必殺の毒の濁流が俺を目がけて放たれた。




