恐怖 ~ガーナード視点~
数ある作品から本作品を選んでいただきありがとうございます。
いったい何が起きたのだろう。爆音と巨大な土煙が遠くであがっていた。やがて土煙がはれると、私を含めた兵士達は全員言葉を失った。目の前の光景が信じられなかったのだ。
500m先、敵が陣取っていた場所はなくなっていた。その場には巨大なクレーターができていた。
「ふぅ。」
セレナーデ侯爵令嬢が満足そうな顔でこちらをみた。それに対し我々は何の反応もできなかった。未だに目の前光景が信じられなかったのだ。
「ガーナードさん。どうですか。充分な成果でしょう。」
「あ、ああ・・・。だ、だがこれはやりすぎでは。」
「何を言うんですか。これでも威力は抑えたんですよ。威力をあげればこの砦もふきとびますよ。」
「!!」
彼女の言葉に我々は再び言葉を失った。クレーターを見る。あれで威力を落としている・・・だと。信じられない。彼女はどれだけの力を持っているというのだ。彼女が本気を出せば、王都も壊滅させられるという事を意味する。もはや人間兵器だ。
「さてと・・・。」
彼女は我々を置いて、砦の外壁からクレーターの方を見る。その後再び我々の方へ振り返った。
「ガーナードさん。皆でお供をしてくれますか。」
「・・・どこへ行くのだ。敵陣は壊滅したぞ。」
「もちろん。敵の本陣にです。恐らく1.0km先ぐらいにいます。」
「行ってどうする。敵陣にも同じ魔法を撃ちこむのか。」
「必要になればそうしますが。ですが恐らくその必要はないでしょう。あのクレーターまで行って再度降伏勧告をします。この威力です。相手は降伏するしかないでしょう。」
確かに。こちらも戦う気力を失っているのだ。相手は完全に戦意喪失しているだろう。今のうちに畳みかけるのが正解だ。私は頷いた。
「わかった。第1陣は私と共に敵陣に向かう!!他の者は警戒態勢!!ぼさっとするな!!準備しろ!!」
「「「!!はっ!!」」」
兵士達が正気に戻ってバタバタと動き出す。だが彼らの気持ちもわかる。正直私も彼女が怖い。魔法とはこれほどのポテンシャルを持っているのか。彼女が手を動かしたら私達など一瞬で殺されるだろう。彼女が味方で本当に良かった。安堵する私を見て、彼女が不思議そうに首をかしげる。
「ガーナードさん。どうしましたか。」
「い、いや。なんでもない。じゃあ行こうか。ところで君は馬に乗れるのか?」
「ああ。ちょっと待ってください。」
そう言うと彼女は私から視線を外し、黙り込んだ。何だろう。何か変な事を聞いただろうか。貴族は基本馬車で移動するため、馬に乗れない事が多い。前線に出て戦う者であれば、その限りではないが。例えばセレナーデ侯爵。あの方は乗れるだろう。
そんな事を考えると彼女はこちらに視線を戻し、首を振った。
「すみません。乗れないそうです。」
「乗れないそう?ま、まあいい。であれば誰かに掴まってもらう事になるがいいだろうか。生憎、ここには馬車などはないからな。」
「勿論です。ガーナードさんと一緒でもいいですか。」
「構わないが・・・。私でいいのか?」
「他の方は恐らく私の事が怖いでしょうから。」
「!!」
「勿論貴方もだとは思いますが。まだ、私と普通に話せるだけましです。だからお願いします。」
そう言って、彼女は私に向かって頭を下げた。なんという事だ。彼女はあの魔法を使えば人から恐れられる事も理解したうえで使ったのだ。この戦況を打破するために。実際、彼女がいてくれなかったら、この砦は落とされていたかもしれない。彼女に感謝こそすれ、恐れる必要などないのだ。私は、彼女の前に跪いた。
「承知した。そして遅くなったが礼を言わせてくれ。我々を救ってくれてありがとう。」
「!!いいえ。まだ油断はしないでください。制圧してから喜びましょう。」
そう言って彼女は微笑んだ。それから我々は砦の外壁から移動することにした。
それから私と10人の兵士達、そして彼女を連れてクレーターの目の前に辿り着いた。
クレーターを見て改めてその威力に圧倒される。そこにいたであろう敵兵も草木ですらなくなっていた。
遠くを見ると敵の本拠地らしきものが見える。これ以上は無策で近づくのは危険だ。
「これ以上無策で近づくのは危険だ。どうするつもりだ。」
「私に考えがあります。ちょっと待ってもらっていいですか?」
「わかった。全体!!止まれ!!」
我々が止まると、彼女は馬から空中へ飛び上がった。呆気にとられる我々を尻目に彼女はどんどん高度を上げていく。そして敵陣が見渡せるだろう高さまであがると、そこでぴたりと止まった。
「アンドダイナ国の者である!!先ほどの攻撃で我々の魔法の威力は思い知ったであろう!!再度10分待つ!!降伏するつもりがあるのならば、空に向かって魔法を3発放て!!ただし今度は逃亡は許さなさい!!」
そう言うと彼女は天に向かって片手を突き上げた。先ほどではないが、辺りが少し暗くなる。そして、彼女が手を振り下ろすと、すさまじい速度で光線が、敵陣に向かって飛んでいった。ただし、今度は爆発しなかった。我々の位置からは見えないが、その光線は敵陣から少し離れた位置で突き刺さり、微妙に動き続けていた。そしてその光線がこちら側に来るのが見えた、
「もしかして・・・線を引いている?」
光線の威力はたいしたものではなく。地面を削っていっているようだった。やがて、光線は目的を終えたのか、消えた。我々は飛べないので、彼女が何をしたのかがわからない。
「今、そちらの陣を囲うように線を引いた!!その線から誰か1人でも出ようものならば、即座に先ほどの魔法を放つ!!容赦はしない!!よくよく考えて行動されたし!!」
そう彼女が言ったのを聞いて何がしたいのかを理解した。恐らく指揮官や魔法使いが逃げ出すのを防ぐためだ、指揮官がいなければ、皆がバラバラに逃げ出す可能性が高い。戦いには勝つかもしれないが、それではまた攻めてくる可能性がある。それを防ぐためだろう。
我々は何をすべきなのかと呆然としていると、空中から彼女の声が聞こえた。
「ガーナードさん。私は上から見張っていますので、待機していてください。可能であれば時間をはかってもらえると助かります。時間が過ぎたら傍か何かを振っていただけると助かります。」
私はその言葉を聞いて、部下から旗を受け取った。そしてそれを振る。我々は彼女のように魔法で声を飛ばすことができない。やり方がわからない。
彼女は旗を振ったのが見えたようで、我々に向かって頷くと、敵陣の方を向いた。
緊張状態が続くと思っていたが、そうはならなかった。彼女が発言してから少し経つと、敵陣から上空に向けて3発の魔法が放たれた。敵陣が降伏したのだ。当然だろう。あれだけの魔法を撃たれたのだ。勝ち目がないと思ったのだろう。
「降伏の意思を受け取った!!これからそちらに向かう!!その間にもし反抗や逃亡の兆候が見られた場合、即座に攻撃することを忘れないでもらおう!!」
彼女はそう叫ぶと、我々の方に向いた。
「ガーナードさん。私は空から見張りながら行きますので、地上からついてきてください。」
そう言い、彼女は空中で少しずつ敵陣に向かって移動し始めた。
「全体進め!!彼女についていくぞ!!」
私は慌てて号令をかけると、彼女の速度に合わせて動き出した。私の言葉に、皆も正気に戻ったようで、慌てて隊列を整えて私に合わせて動き出した。
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