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67話:お師匠様を訪ねて

お待たせしました、67話更新です!

 エリーちゃんの相談を受け、レナータちゃんはジンクスと一緒に指導をしてくれそうな人……つまり、レナータちゃんの師匠を紹介するべく、俺達はその日の放課後に街を歩いていた。


「レナータの師匠かぁ。あたしはてっきり、リアーネさんに戦い方を教わってたと思ってたぞー?」


 二人ならんで歩くエリーちゃんは、意外そうにレナータちゃんへ話しかける。

 世界最強の人間が身内だし、その娘となれば英才教育よろしく戦闘技術をみっちりと教え込まれてそうだとは誰もが想像するだろう。


(少なくともリアーネさんではないな。俺はてっきり我流かと思ってたけど……)

 

 二人の後ろについて歩いて――いや正確にはジンクスの上に乗っけて貰ってる俺は、リアーネさんだけはあり得ないと内心思っていた。

 レナータちゃんの戦闘スタイルは魔法使い型、対するリアーネさんはゴリゴリの戦士型、ぶっちゃけリアーネさんが魔法を教えられるとは思えなかった。



「最初はお母様に教えて貰ってたんだけど……うん……」

「?」


 エリーちゃんの言葉を聞いて、レナータちゃんは何故か顔を俯かせて――。




「……お母様ってね特訓って称して私を谷から突き落としたり吸血コウモリがいる洞窟に籠って獣の血をバケツ一杯に浴びて襲い掛かってくるコウモリ全部撃退して私は私でコウモリに襲われるし激流の川に私を投げ込むし溺れかけるし足腰鍛えるのにわざわざ魔物の群れを怒らせた上で目の前に私を放り捨てるってどうなのかな? そろそろ強くなっただろーって言って本気で殴りかかってくるんだよまだ私その時5歳だよ勝てるわけないもんしかもこれぜんっぶ自己流って言う名のその場のノリで決めた根拠のない只の拷問で―――」

「レナータ!? し、しっかりしろー!!?」


 溢れる溢れる、かつて受けた特訓への恨み辛みが。

 レナータちゃんの目からは一切の光が消え失せ、のっぺりとした無表情でひたすら言葉を紡ぎ続けている。


 これにはエリーちゃんもびっくりして、レナータちゃんに正気に戻ってもらうよう、かなり強めに肩を揺らしていた。


「――はっ!? ご、ごめんねエリー。今のお母様はちゃんとしたトレーニング勉強してるから、エリーには多分そんな事しないから! 私が熱出しちゃってお父様にこっぴどく叱られたお陰で反省したらしいから!」

「それだけやられて熱で済んだのかー!!?」

(よく死ななかったね……)


 殺人メニューを経験して風邪で寝込むだけとか、レナータちゃんも大概だと思います。

 これは間違いなくリアーネさんの娘さんだろう。

 


「……おほん、そういうわけで私はお母様の指導には懲りて、別の人に教わったんだ。……って言っても一年くらいの間なんだけどね。でもその人に教わった事を基本にして、今の私の戦い方があるの」

「へぇー。ってことはあたしもその人の指導してもらえれば、レナータみたいに植物魔法が使えるように――ってそれじゃあダメだー! またあたしが強くなるぞー!?」

「ふふっ、大丈夫だよ。その人ならきっと、エリーがジンクスと一緒に強くなれる方法を知ってると思うから!」


 不安で頭を抱えるエリーちゃんであったが、その不安に関しては大丈夫だとレナータちゃんは念を押す。


「ガウガウ、グルゥ。ガフゥ」(大丈夫、ねぇ。どんな人なんだろ)

「? チュウゥ」(何か言った? という感じの重低音)

「ガウ、グルルゥ」(いや、なんでも)


 レナータちゃんの今の戦い方……つまり、超規模植物魔法を発動するまでの時間を魔物達に稼いでもらい、発動した後は魔法で押しつぶすなり魔物達で止めを刺すなりする、あの戦法を教えた張本人という訳だ。


 しかし、あの規模の植物魔法と魔物を従える技能は、どちらも一朝一夕で習得できるものではない筈だ、しかも教えるほどまでに熟練することはなおのこと難しい。

 その上で、その人物はエリーちゃんにも適切な指導が出来るとレナータちゃんは断言しているが……正直言って、俺は半信半疑である。



「で、そのレナータの師匠って一体誰なんだー?」

「えっへへー、聞いたら絶対びっくりするよ?」


 ニコリと、悪戯っぽく笑うレナータちゃん。

 どうやら件の師匠は、相応に有名な人らしい。


「私の師匠せんせいはね、メルツェルさん。あの百獣使いのメルツェルだよ!」




 雑談をしながら歩くこと数十分、俺たちはそのメルツェルがいると思われる場所へ到着した。


 そこは、一言で表すなら……大きな三種類の建造物が、一つの敷地の中にまとめられている場所だ。

 一つ目は、魔物使いの学校にある「魔物の宿舎」によく似た木造の建造物。

 二つ目は、植物に覆われ、その周囲も緑が生い茂っており、まさに「植物園」といった風情の建造物。

 三つ目は、なんだろうか……石造りの大きな建物としか言いようがない、外観からは何も想像できないが、多くの人が出入りしているのが見えた。



「申し訳ございません、メルツェル様はただ今ここにはいらっしゃられません」

「えーっ!?」


 そこの入り口にある受付小屋の女性に、当のメルツェルは居ないと告げられて、レナータちゃんは落胆の声を上げる。


「じ、じゃあメルツェルさんは、いつ頃に戻られるか分かりますか?」

「……申し訳ございません。それはお教えするわけにはいきません、個人情報になりますので」

「そ、そんなぁ」

「なにぶんお忙しい方ですので……、お会いしたい場合はこちらで予定を入れる必要があるのですが、その空いている日も数ヶ月先となっております。それでもよろしければ……」


 差し出された予定表には、すでにいくつもの予定がびっしりと書き込まれている。

 どうやら、件の師匠はこの場所の重鎮的な人物で、そう気軽に会える立場ではないらしい。


「うっ、こんなに……」

「仕方ないぞー。あの「百獣使い」だもんなー」


 ぽむ、とエリーちゃんはレナータちゃんの肩に手を置いた。

 百獣使いのメルツェルの名前を聞かされて大いに驚き、会えるかもしれないと期待していたエリーちゃんであるが、この対応むしろ当然だったと諦め気味である。



(百獣使い……うーん。聞いたことが無い……)


 一方、相変わらずジンクスの上に乗っかっている俺はうんうん頭を捻っていた。

 メルツェルという人間にも、百獣使いという異名にも聞き覚えがないからだ。


 まあそもそも、俺が魔物使いの国で知っている有名人なんて、王様の国の大会で優勝しているリアーネさんくらいしか居ないのだが……。



(百獣ってくらいだから、凄い数の魔物を飼育してるんだろうなってのは予想がつくけど……。まさかねぇ)


 まさか。

 まさかとは思うが、視界に見えるあの魔物宿舎らしき建物、あそこにいる魔物全てがメルツェルが従える魔物……なんてことはないだろう。


 とまあ予測はしてみるものの、すぐにに会えるわけでもなし、メルツェルがどんな人物なのかは確かめる術もない。



「一応、予約させてください。……ごめんねエリー」

「ううん、謝らなくていいぞーレナータ。仕方ないものは、仕方ない!」


 今回はレナータちゃんたちも素直に諦めるようだ。

 まあ、人にはいろいろ都合があるからね、俺もエリーちゃんと同じで、これは仕方ないと思うよ。


 そうして俺たちは、その場所を後にして帰ろうとすると。



 ささっ。


「あれ、今誰かいたような……」

「ガフゥ?」(なんか聞こえたぞ?)


 振り返った瞬間、何かが慌てて隠れたような、そんな感じの足音が聞こえた。

 俺の耳はマンティコアと同等の聴力となっているので、聞き違えることはない。


 明らかに誰かが、そこの物陰に隠れている。


「確かに、なんか見られてる気がするぞー」

「ガウッ!」(ちょっと見てくる!)

「うん、お願いティコ!」

「チュウ」(気をつけてください、と言った感じの重低音)


 両翼を広げ、そのまま空へと舞い上がる。

 明らかに俺達の視線を避けたような感じがしたので、不審者と判断し直接確認しに行くことにする。

 危険はないだろう、マンティコアが上から降ってきて、反撃してくるようなやつなんてそうそういない。


 空中から見下ろすと、確かにそこの角に男が隠れ潜んでいた。

 俺はそのまま、そいつの真後ろに向かって急降下して。



「ガオッ」

「んひいぃぃぃ!? ごめんなさいっ、ごめんなさいい!!?」


 着地と同時にちょっと鋭く吠えただけで、めちゃくちゃ驚かれてしまった。

 ってあれ、こいつは……。


「この声……。イヤミューゼさん?」

「あ、牧場爆破犯!」


 俺の奇襲が成功したことを確認して、レナータちゃんとエリーちゃんが駆け寄ってくる。


「ばっ、爆破犯とは失礼な小娘ですねぇ!? 事実ですけども!」


 腰を抜かしながらも、彼女たちの反応に対して嫌味ったらしい声で抗議するこの男。

 モンスターラバーズの会長だった、イヤミューゼその人であった。




「それで、どうしてイヤミューゼさんは私達の後をつけてたんですか」

「つけていませんよ! 誤解です!」

「それじゃあどうしてあたしらを見張ってたんだー!」

「たまたま! ほんっとうに偶然貴女たちを見かけて、気まずくて隠れただけなんですって!」

「グルルル」(怪しい)

「チュー」(怪しい、と言った感じの重低音)


 俺たち全員でイヤミューゼを囲んで詰問する。

 怪しい、実に怪しい。

 ぶっちゃけ俺達に逆恨みして復讐の機会でも伺ってるんじゃないか、というくらいには信用ならない。


「ぐーうーぜーんー? 信用できないぞー。じゃあ偶然おまえはここに来たっていうのかー?」

「いやそっち(・・・)は偶然じゃないですよ!? ワタシは勤め先はここですからね!?」


 エリーちゃんが更に問い詰めると、イヤミューゼは意外なことを口走った。

 イヤミューゼの勤め先がここ?


「研修を終えて加工場に帰ろうとしたら、入り口に貴女達が居たんですよ! 気まずくて隠れるのも仕方ないでしょう!?」

「ガフガフゥ……」(筋は通ってるけどなぁ……)

「……あたし、ちょっと受付の人に聞いてくるぞー」


 エリーちゃんとジンクスが、イヤミューゼが本当にここで働いているのか確認しに行った。

 まあ、あんな事した後にまた俺達に会うのはキツイものがあるけども。

 

「イヤミューゼさん、ここで働いていたんですね」

「え、ええ。今は、このモンスターフード加工工場に勤めてます」

「クビにならなくて良かったですね」

「ええホントに――って余計なお世話ですよ!?」


 ふむふむ、イヤミューゼのいう事が本当なら、あの石造りの建物はモンスターフードの生産工場ということになるらしい。

 あのモンスターフードを大量生産してるのかぁ……よっぽど需要があるんだろうけど、味がなぁ。


「おーい、レナーター。そいつの言ってることは本当っぽいぞー。受付の人に確認してきたー」

「ありがとう、エリー」

「ふぅ……疑いが晴れてなによりです。ところで貴女達こそここに何か用事でもあるんですか?」

「それは――あ」


 と、ここでレナータちゃんが何か思いついたような表情をする。


「イヤミューゼさん、メルツェル先生は知ってますよね?」

「? 当然でしょう。ここの加工場、植物園、魔物宿舎、全てを治めるギルド「パルセノビースト」のトップにして、史上最高の魔物使い「百獣使いのメルツェル」様を―――って、え、「先生」???」

「はい! 私、あの人の弟子なんです!」

「はいぃぃぃ!!?」


 いや、これはどっちかというと悪戯を思いついた感じだ。

 弟子だったのはたった一年程で、それも幼い頃だというのに如何にも「今も弟子です」と言わんばかりの態度である。

 

「それでですね、先生に用事があってここに来たんですけど。今どこにいるかイヤミューゼさんはご存じないですか?」

「えっ、えっ、いやそれは……」

「私からイヤミューゼさんのこと、良く言っておきますよ!」

「あのお方は数週間ほど外の世界へ探索へ赴かれていますが、本日夕刻より南門へ帰還される予定ですよ!」


「ええー……」

「チュゥー……」(ええー……、という重低音)

「ガフェ―……」(ええー……)


 なんだかレナータちゃんに悪魔特有の角と尻尾が生えてるような幻覚が見えてきたぞ。

 イヤミューゼも一切の躊躇なく情報吐いてやがるし。


「南門ですね、ありがとうございます! 今から行けば丁度鉢合わせるかも、行ってみよう!」

「お、おーう!」


 現在の時刻は正に夕刻、いつメルツェルが帰ってきてもおかしくない。

 俺達は早速、南の方へ向かって駆け出した。



「私の出世のため、お願いしますよぉー!」


「……ちなみに、メルツェルさんには何て言うんだー?」

「イヤミューゼさんがこのタイミングで帰ってくるって教えてくれました」

「ガフゥ!?」(鬼だ!?)


 見えてた幻覚は悪魔の角では無く、鬼の角だったらしい……。



リアーネの特訓:リアーネ自身の経験をもとに組み上げた生存率1%の殺人トレーニング。彼女が娘にしたことはだいたい自分も経験したことである。


イヤミューゼ:モウモウ牧場でやらかした不祥事のせいで、ギルドの幹部からモンスターフード加工場の作業員にまで転落している(これ以上転落しないとは言っていない)。正直言ってクビになってもおかしくなかった。


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