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56話:モウモウ・ロデオ

お待たせしました!56話更新です!

無事更新できて良かった……。

 謎の爆発から時は少しだけさかのぼる。

 ダグラス達が居る牛舎とはまたあ別の牛舎、まだ若いモウモウ達がいるその場所に、ある男が居た。



「きーっ! まったく、あの生意気な小娘に関わった所為でろくな目に遭いませんでしたよっ。一体なんなんですかあの異常現象は……!」


 モンスターラバーズ会長、イヤミューゼその人である。

 今日の昼間昼間、公衆の面前で素っ裸にされてしまった事に苛立ちながら、牛舎を前にしていた。


 イヤミューゼはこの牧場の関係者ではない。

 牧場主に立ち入る許可も貰っていない、れっきとした不法侵入者である。


「むぐぐぐ……! ……はぁ、お陰で今日はまんまとモウモウ達を死なせてしまいました……。これでは会長失格です……」


 一頻り怒った後、ガックリと肩を落とす。

 魔物達の命を守ることを信条としている彼は、モウモウ達を屠殺させてしまうという失態を嘆く。



「あのー、イヤミューゼ会長。俺達は、今日はどこを壊せばいいんですか?」


 落ち込んでいるイヤミューゼに、恐る恐るといった様子の声がかかった。

 声をかけた男を含めた、二人の男女。

 二人もまたモンスターラバーズの会員で、保護活動にも精力的に参加する、いわばイヤミューゼの補佐のような立場にある。


「……そうですねぇ。今回ばかりは我慢がなりません。少し派手・・に懲らしめてあげましょう。柵などというチマチマした場所ではなく、もっと大きなモノを壊すのです。牧場の経営に響くように」

「「はいっ! 魔物を大事に!」」


 忠実な部下といってもいい二人は、器物損壊という明かな犯罪行為にすら、平気で手を染める。


 この3人にとっては牧場の破壊行為も悪事ではなかった。

 モウモウ達を殺し続ける場所への、正義の鉄槌としか感じていないのだ。


 ハンマーや鉈を持ち出し、暗がりへと走り出す二人をイヤミューゼは見送ると、ざまあみろとばかりに鼻を鳴らす。



「――ふんっ、なぁにが「愛情をこめてモウモウを育てている」ですか。最後には残酷に殺すくせに」


 イヤミューゼは、屠殺場で行われる光景を思い出して、ぎりっと歯を軋ませる。

 気絶させられ、意識のないままに血を抜かれ、体を切り刻まれていく魔物達。


 自分がまだ若い頃は、必要悪なのだと、それも仕方のない事だと我慢ができた。

 肉食の魔物は、他の魔物の肉を食べなければ生きていけないのだから。


 だが、もう時代は変わった。

 モンスターフードのおかげで、あらゆる魔物使いが、愛する魔物を犠牲に他の魔物を生かさなくても良くなってきているのだ。


 なのに、それでも殺し続けるということは――それは怠慢だ。

 前時代的な生活を辞められない、愚かな行為なのだとイヤミューゼは思う。



「さーて、後は二人に任せて、私はと……」


 ザッザッ、と牧場の中へと入っていくイヤミューゼ。

 そこには、ぐっすりと眠るモウモウ達が並んでいる。

 その姿をみて、彼はニヤリと笑うと……。




「―――んっまぁぁぁーーーっ!!! きゃわいいいーーーーっ!!!」(小声)


 声を最大限押し殺しながら、くねくねと身悶えしていた。


「ほんっっ、本当に可愛らしいですねぇアナタ達はっ! お目目くりくり、お腹タプタプ! キレーな体毛! きゃースンバラしい!!!」(小声)



 寝ているモウモウの姿を褒めちぎり、体が汚れるのも構わずに地面にゴロンゴロンする始末。


「フスー……」

「んまー! この子! 生まれてまだ数日といったとこですの!? ちっちゃぁーい、かんわいいー!!!」(とても小声)


 …………この男、実に楽しそうである。

 牧場への嫌がらせ目的で不法侵入している筈なのに、本命はモウモウを愛でることなんじゃないかと勘違いするぐらいには、メロメロであった。


 イヤミューゼは実に慣れた手つきでモウモウの柵を開けて、至近距離でその姿を眺め回す。

 その行為こそが、今回、致命的な結果をもたらすとは知らずに。



 ドンッッ!!!


「んひっ!?」

「「ブモオッ!?」」


 突然の爆発音に、牛舎が揺れる。

 一斉に起きるモウモウと、ビックリして腰を抜かすイヤミューゼ。


(今の音は!? ま、まさかあの二人、爆薬まで使ったんですか!?)


 二人には、牧場にあるものを何でも壊せるように万全の準備をさせてある。

 だが爆薬を使うのは最終手段も最終手段で、手持ちの道具全部を使っても壊せないものを破壊するための保険のようなものだ。


 日が落ちたとはいえ、まだ寝静まるには早い時間、最悪の場合直ぐに見つかってしまうかもしれない。

 イヤミューゼは場違いにも(・・・・・)そんな事を心配して――――


「「「「じーーーっ」」」」

「――――あっ。……あのですねこれはその」



 ―――モウモウ達の視線を、一身に集めている事に漸く気付いた。


 さて問題です。

 突然の爆発音とともに、目覚めたら明らかに知らない男が自分達の寝床に侵入していた場合、モウモウ達はどのように動くでしょう?

 また、牛舎の柵は男によって全て開かれております。



「「「モオォォオオオオ!!?」」」

「ひょええええええ!!?」


 悲鳴をあげながら、牛舎のモウモウは猛然と逃げ出して行く。

 いつ正面衝突されてもおかしくないこの状況に、イヤミューゼも悲鳴をあげる。


「モゥッ!?」

「あだっ!? あべっ!?」


 しかも、不幸は連続する。

 ついに突撃され、かち上げられたイヤミューゼは、よりによって一匹のモウモウの背中に乗っかってしまったのだ。



「ちょちょちょ、止まって、止まってぇぇーっ!!?」

「「「ブモォォォ!!!?」」」


 無論モウモウ達に人語が届くあろうはずがなく、哀れイヤミューゼはモウモウに乗せられたままに外へと飛び出していくこととなった。




「イヤミューゼさーん! 壊してきましたよー! この牧場で一番でっかい門を爆破しましたー!」

「うわー! イヤミューゼ会長モウモウに乗ってる! いいなぁ、私も乗りたーい!」


「バカですか!!? バカなんですか貴方たちはぁぁぁぁぁ!!!?」


 外に飛び出した途端、のんきにこちらへ手を振る若人二人。

 どうやらイヤミューゼが遊んでいるようにしか見えていないらしい。



「――って、一番でっかい門? ってまさかぁぁぁ!!?」


 そして、イヤミューゼは確かに聞いた。

 若人の男の方が「この牧場で一番でっかい門」を爆破した、と。

 この牧場に、門と呼べる場所は一か所しかない。


 外の世界、モウモウ達を放牧するための草原へと繋がる門だ。

 そして今、モウモウ達が逃げ出そうと向かっている場所でもある。



「いやぁぁぁぁ!!? 誰か助けてぇぇぇぇ!!?」

「「「ブモォォォ!!?」」」


 腰が抜けてしまい、もはや自分から降りることが出来なくなっていた彼は、モウモウ達と共に外の世界へ運ばれてしまうのであった。

今回の解説

モンスターラバーズ:一部過激派が、牧場の施設を破壊する、屠畜場入口に立ちふさがるなど、嫌がらせ行為を働いている。

レナータがモウモウ牧場の修繕している箇所も、この破壊工作によって壊された跡である。


イヤミューゼ:元は魔物医師を目指していたのだが、学生時代に屠畜場での作業風景を見た所為で、血がトラウマになってしまった。医師の道を諦め、現在はモンスターフードの製造に関わっている。

牧場の破壊行為のついでにモウモウを愛でている、しかも常習犯。


若者A:男の方。手際が良く、言う事も素直に聞くのだが、目先の事に囚われて後の事を考えていなかったりする。派手に壊せと言われて爆薬の仕様を即決した。


若者B:女の方。可愛い魔物なら大好き、モウモウも守備範囲内。牧場の経営に一番響きそうな物と聞いて、(どこに繋がってるかは知らずに)外への門を破壊することを発案した。

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